第6話 自由ギルド

 いつもより長めですが序盤は設定部分なので軽く読む程度で、最悪読まなくても問題ないです。……問題ないようになんとか書いていきます。作者の脳内にある世界観がこんな感じだよっていうのを文字起こししましたというものなので、「これが自由ギルドの大まかな歴史です。」という場所以降から本編です。











 自由ギルドの成り立ちと魔導石の台頭には深い関わりがある。


 魔導石が世界中にばらまかれた「慈雨」が降るより前は火をつけるのに摩擦を利用し、水を使うのに川から汲み、風を起こすのに団扇で扇ぎ、土を耕すのに鍬で掘った。魔導石という存在が今挙げたすべての作業を一瞬でできるようにしてしまった。これはあくまで日常の変化だが、非日常の中に身を投じる者たちにとっても非常に大きな影響を与えた。魔獣が生まれるより前には主として存在した獣たちを狩る者たちである傭兵にはそこまで影響を与えなかったが、未開の地を直接訪れ、そこで様々な謎を解明する学者とその護衛をする開拓者にはその関係性を崩壊させるほどの影響を与えた。


 魔導石を使うのに必要なのは発生させたい事象を明確にイメージするための想像力とそれを必ず起こすという強い意志。「火を灯す。」「水を出す。」「風を起こす。」「土を耕す。」といった単純なものならば誰でもできるが、それを武器として使うとなると簡単にはいかない。しかし、普段から深慮を重ね、現地に行ってまで世の理に迫らんとする学者にとって魔導石はあまりにも相性がよく、凶悪な武器となる。逆に己の肉体を信じて戦ってきた開拓者たちは強い意志を持ってはいても想像力が学者より乏しいがために日常レベルで使うのがせいぜいだった。


 その結果学者たちが開拓者不要論を唱え始めた。終いには魔導石がすべてで、魔導石は万能であるとまで言い出してしまう始末。これには学者たち以外が反感を示し、学者対それ以外という構図で戦いが始まる直前まできていた。


 そこである一人の女性が現れる。彼女は学者でありながら開拓者でもあった。彼女は魔導石を十全に扱う能力を持ちながら体を鍛え、あらゆる武道を修め、魔導石と武術を組み合わせた独自の戦闘方法を編み出したのだ。


 まさに万能ともいえるほどに優れていた彼女は、学者たち以上の頭の回転と話術で学者たちに不満を持つ者たちを諭し、力に酔った学者たち以上に純粋で強大な力で学者たちを真っ向から潰した。


 こうして双方を落ち着かせ(黙らせ)た彼女は、自由ギルドの創設を宣言した。彼女の名はミセキ・アントワーズ。この時代を代表する英傑であり、自由ギルドの初代ギルドマスター、つまりは自由ギルドのトップである。彼女は貴族家の三女として生まれながら市井を単独で巡ることを好み、親の与り知らないところで戦闘の腕を磨き、貴族家である家族のことを知識を身に着けるための簡単な伝手程度の認識しか持っていなかった。貴族であることを誇りに思っていた家族に嫌気が差していたからこそ、市井の問題にも関心を持ち、市井で一人生き抜くために己を磨いた。そして政略結婚を迫られたのを機に家出し、一般市民として自分を磨き続けていたが学者の問題が出てきたところをしれっと解決した。そしてここぞとばかりに自由ギルドの創設へとこぎつけた。そう、きっかけがなかっただけで自由ギルドの構想はかなり練っていたのだ。


「自由を望むものはいるか。ならば自身でつかみとれ!そのための基盤は私が作ってやろう。」


 この言葉は現在の自由ギルドの基本姿勢を表すものとして今も守られている。自由ギルドが保証するのは所属するものの身分と能力だけ。力を使うのも頼るのも自由。逆に言えば情報に対する責任しか負わないという明確な立場を示したのだった。





「これが自由ギルドの大まかな歴史です。」


 やりきったといわんばかりの清々しい笑顔で話を締めくくる自由ギルドの受付嬢。特に求めていない説明を長々とされてしまった。ミセキ・なんとかって人が自由ギルドを作ったよくらいの説明じゃダメだったのだろうか。今の自由ギルドの仕組みについて教えてほしい。


 そんなわけで門兵に促された通り自由ギルドに来て身分登録しようとしたところを押しの強い受付嬢に捕まり、今に至る。


「とにかく自由ギルドの今の仕組みについて教えてもらえませんか。」


 そう促すことでようやく聞きたいことの説明が始まった。


「自由ギルドが保証するのはあなたの情報のみです。具体的には名前、開拓者・学者のどちら、あるいは両方の職であるか、ランクの三つのみです。開拓者は戦闘を、学者は未知の究明をそれぞれ司っています。職の変遷については……説明を省いたほうがよさそうですね。」


 また歴史関連の解説になりそうなところでこっちの表情を見てうまいこと踏みとどまってくれたみたいだ。


「開拓者のランクはS~Gまであり、登録時は皆さんランクGからスタートです。基本的には半年に一回行われるランクアップ試験に合格すればランクアップできます。細かい部分はランクアップ試験の際に詳しい説明がありますので、そこで案内します。」


 とにかく簡単な説明でよかった。これでようやく身分登録ができそうだ。そこで門兵さんからもらった紹介状を渡すと受付嬢は突然慌てだし、


「しょ、少々お待ちください。」


 そういって奥のほうへと走っていく。それを不思議に思っていると、


「ガッツ兵長よりランクC開拓者の推薦を受けておりますので、ランクCからのスタートになります。学者の推薦は特にございませんが、なる予定はございますか。」


 母から一般教養は習っていても深く知りたいと思うほどの興味はなく、何より父も母も学者志望ではないから俺もなりたいとは思わない。


「あとは名前だけですね。」


 そう言われてあることを思い出す。せっかく二人に名付けてもらった名前をまだ一度も誰かに名乗っていないのだ。そう考えると訳も分からず緊張してきた。




「世捨て人の俺らが言うのもなんだが、人とのつながりを大事にしてほしい。その先に人の温もりがあるからな。」


 そういって俺の頭をわしゃわしゃとなでる父。


「人と人とのつながりは線ではなく円でできているの。でもそれは円を作ろうとしてはできないわ。向き合うのは常に個人。個を見て個を意識してこそ円になるの。」


 そういって優しく微笑む母。


 粗雑な父と繊細な母。ある意味正反対な二人でも人とのつながりの重要性だけは共通した認識を持っていた。だからこそ俺にこの名前をくれたのだろう。


えにし


 人を想い、人とのつながりを持つべくして生まれた。父と母の願いを込めた名前である。

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触れると消える 荒場荒荒(あらばこうこう) @JrKosakku

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