第5話 陰で行われる情報交換
「よかったんですか。」
「何がだ。」
そんな会話が聞こえてくるのは衝撃的な登場をし、律儀にお礼を言って去っていった子がいなくなってすぐの検問所。
「あの子をすんなり通して。」
「下手に拒んで街の外をうろつかれるよりも街の中に入ってもらって動向を追えたほうがこっちとしても不安は少ないからな。」
部下からの素朴な疑問に表向きの理由を答えるのはこの門のトップであり、先ほどまで直接事情聴取を行っていた男、ガッツ。今年40歳になり、妻子のために毎日汗水流して働く姿は一般的な成人男性像をなぞらえているようだが、実は領主とも自由ギルドのギルドマスターであるヴィセルともアポなしで直接面会ができるほど二人から信頼を寄せられる人物である。役職、立場を度外視して考えるとこの二人の次に権限を持っているとも考えられる。そしてそれだけの人物であるからこそ秘密裏に個人的な頼みをされることがある。今回の接待とも考えられるほどの異例なサポート措置にもそれが関係していた。
「ガッツ君、もし僕みたいに空飛んで直接街にやってくるような子で君が知らないような子が来たら、その子に自由ギルドにまっすぐ来るように伝えてくれないかい。」
普段通りの笑顔を向けながらよくわからないお願いをしてくる細身の男エルフ、ヴィセル。仕事が終わって家にまっすぐ帰ろうとしているところを無理やり呼び出したことを少しも悪いと思っていない様子に若干思うところがありながらも詳しい話を聞く。
「どうやら彼らの子が独り立ちするみたいでね。もしこの街に来るようなら目をかけてやってほしいってさ。」
「それがなぜ空を飛んでくる子と関係……いや、なんとなくわかりました。親子そろって型破りということですね。」
なんとなく見えてきた。型破りなあのお二方の子は見事に型破りに育ったようだ。するとそんな考えが顔に出ていたのか、自分の認識の甘さを指摘してくる。
「理解が早いのは助かるけど早合点している部分があるようだね。確かに彼らは型破りだったがそれを自覚できていたし、そのうえで最低限の節度は守ってくれていた。でもこの方はどうやらそこら辺を自覚できていないみたいなんだ。」
なんだか恐ろしいことを聞いてしまった気がする。つまり無自覚に甚大な被害を出す可能性があるってことだよな。そんないつ爆発するかわからない爆弾を街に入れなきゃいけないのか。
「これが彼らに非があるのならこっちもいろいろ注意するところなんだけどね。あの二人以外の人間に会うことなく育ったから、あの二人の凄さをなんとなくでしかわかってないみたいでね。もちろん相手を見て強さを判断できるだけの超一流に育て上げたらしいから、戦いになったときに力加減をミスるようなことはないだろうけど、常識の違いに困惑することは十分考えられるらしいよ。」
「定期的に街中を連れまわせば価値観のずれなんて起こさずに済んだのになんて思うのは僕の我儘なのかな。」
さらなる事情説明の後で思わず漏れ出た本音にはこちらも同意せざるをえなかった。
こんなやりとりをしたのが今から約1年前のこと。そのときのことを振り返りつつ実際に見てみた感想とそれまで想像していたイメージとを照らし合わせる。とりあえず想像よりは素直で真面目っぽいようでよかった。これならヴィセルにすべてを任せておけばなんとかなるだろう。そう思いつつある魔導石を取り出す。
それはここ数年で開発され、魔導石の歴史を10年は進めたといわれる混合魔導石。一つの魔導石に複数の属性を閉じ込めたもので、これ一つで複数属性を同時に用いた事象を発言できる。ただし、必ず込められた全ての属性を用いなければならない。
ここで取り出したのは風と土の混合魔導石。これを使って生み出すのは鷹を模した
「よろしく頼む。」
そういってそのゴーレムを送り出す。これを聞いてヴィセルがどのような動きをするかは知らないふりをすることにした。
「ついにこの時が来たか。」
新緑広がる森の中で独りごちるヴィセル。あの二人の子であるということに対する期待とそれ以上の不安感が自分の中で渦巻くのを感じる。伝言は一言だけだったが、その声色でなんとなくわかる。あれは疲れが滲み出ていた。この街に来るまでにやらかしたことは自分で聞いてくれと言わんばかりな様子が声だけでも伝わってくる。
「とにかく、直接会って判断するしかないか。」
そう結論付けると森を抜け出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます