第6話 しあわせ……。
気がつくと自室のベッドの上で寝ていた。昨日、学校から帰ると『祈りの石』の輝きが印象的であった。
呼吸が苦しく体が重い……。
魔女との契約に従って『祈りの石』使い、亜美ちゃんの払った対価を肩代わりしたのだ。亜美ちゃんの死神としての役割の代わりに『祈りの石』の輝きを与えたのである。
この苦しみに等しいモノ……。わたしは不思議と亜美ちゃんに電話をしたくなる。
そうか……亜美ちゃんの願いは『友達が欲しい』に違いない。わたしは携帯を操作して亜美ちゃんと繋がる。
「亜美ちゃん、亜美ちゃんにとって友達って死神になるほど難しいの?」
「うん……」
「そう、真由美ちゃんも友達で良いよね?」
「うん……」
「決まりね。でも、わたしはこれから病院に行くの」
「ゴメン」
「大丈夫、いずれ魔女と契約は終わる事になっていたの。亜美ちゃんはきっかけに過ぎないわ」
くっ、苦しい……。この時間も大切なのに、もう、時間切れか。
「亜美ちゃん、真由美ちゃんと一緒に病院に来てくれる?」
「はい」
「約束よ」
わたしは力尽きるまで携帯にすがっていた。母親が慌ただしく部屋に入ってくる頃には耐えられない体の重さを感じていた。昨日、迷いの中で『祈りの石』を砕いたことを思い出す。
これで良かった……これで良かった……。
わたしは苦痛の中で病院に運ばれるのであった。
持病が悪化して、入退院を繰り返していた。そう、病室から見える流れる季節の移ろいを感じる事ができた。
「今日も来たよ」
病室の扉が静かに開く。友達の真由美ちゃんだ。わたしは『祈りの石』と等価交換で真由美を死神の手から守ったのである。魔女との契約は無くなり、病気で入院の日々である。
『祈りの石』を砕いた時点でこうなることは分っていた。
うん?
隠れる様にしているのは美亜ちゃんである。美亜ちゃんもわたしの大切な友人である。
「また、来ちゃった」
わたしは元気そうな亜美ちゃんを恨むことなく過ごしていた。砕いた『祈りの石』の効果で美亜ちゃんが死神との契約が無くなり、願い事であった『友達が欲しい』が叶ったのだ。
こんなわたしでも友達が二人もいる。
それは穏やかな日々が続くのであった。
真由美ちゃんと美亜ちゃんは携帯を広げて『ワールドクラッシャー』を始める。わたしは院内の携帯の利用制限で『ワールドクラッシャー』は引退した。やはり、廃ゲーのプレイは入院中では無理らしい。
代わりに小鳥の餌付けに成功して充実した日々を送っている。ただ、残念なのがスケッチに飽きてしまったことだ。自宅や院内から出れないので風景画の場所が無いのである。わたしは携帯を取り出して三人で自撮りした画像を見る。
「ねえ、今日の一枚を撮らない?」
「えーまた?」
真由美ちゃんの提案に美亜ちゃんは渋る。完全に何時ものパターンである。わたしは美亜ちゃんを説得して、二人がわたしの顔に近づく。
『イェーイ』
わたしは自分の携帯を確認すると綺麗に撮れていた。これで今日は満足である。
「そう言えば、一時退院の許可がおりたよ」
「ショッピングモールに行けるじゃん」
真由美ちゃんは嬉しそうする。
「それは無理かも」
「なら、ホームパーティーをしようよ」
真由美ちゃんの案が却下されて美亜ちゃんのホームパーティーが採用される。わたしは幸せ者だ。少し涙ぐむのであった。
「そんなに嬉しいの?初めて会った時は凄い憂鬱そうだったのに……」
それはわたしが素直になれた事で。今、思えば遠い昔の様なきがする。
「一枚、撮るよ」
わたしは真由美ちゃんと亜美ちゃんに携帯を向ける。そう、季節は流れて暑くなる日がしだいに増えるのであった。
わたしはきっと、しあわせになれる、そんな予感のする昼下がりであった。
平穏な日々はガラス細工 霜花 桔梗 @myosotis2
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