第5話 死神

 保健室の事である。今日の課題を終えて長椅子に座り『ワールドクラッシャー』をプレイしている。


 ノック音と共に亜美ちゃんが入ってくる。その姿は黒いオーラに包まれ、亜美ちゃんは不気味で怖かった。静かに近づいてきて、わたしの隣に座る。


「亜美ちゃん?」


 わたしがその様子を尋ねようとした瞬間に亜美ちゃんの唇がわたしに近づき。


 口を塞ぐ。


 甘い香りと共に言い表せない気持ちになる。わたしが亜美ちゃんを振り解くと。


「わたし死神と契約したの……これで、わたしは死の使いよ」


 亜美ちゃんはトロンとした眼差しで死神になったと言い出した。それは、わたしに対する死への誘いであった。


 わたしは急いで保健の先生を探す。


「亜美ちゃんが、亜美ちゃんが」

「あら、喧嘩?」

「違うの!」


 わたしが説明しようとすると。


「簡単な追いかけっこよ」


 にこやかな亜美ちゃんの言葉に保健の先生は気にもとめず席に戻る。


 わたしは怖くなり保健室から飛び出す。一階の空き教室に逃げ込むとアイがいた。


「君は本当に不幸だね、普通は死の使いに目をつけられないわ。でも、今、死なれると困るのよね……。ま、見殺しにしてもいいけど」


 気ままな魔女の言葉に絶句するのであった。わたしは『祈りの石』を見ると輝いていた。そう、不幸を吸い取っているのだ。


 うん?


 携帯が鳴っている。真由美ちゃんからだ。


 『何処にいるの?』


 どうやら、真由美ちゃんは保健室に居るらしい。わたしが保健室に戻ると亜美ちゃんは居なかった。これは現実だ、これから死の使いの亜美ちゃんに脅えて暮らさなければならない。


『ワールドクラッシャー』を楽しそうにプレイする真由美ちゃんが印象的であった。



 亜美ちゃんが保健室から消えて数日後である。真由美ちゃんが和服を持ってくる。要はわたしに着ろと言うのだ。


「ワクワク」


 真由美ちゃんは目を輝かせてこちらを見ている。期待していることはだいたい分かるが逆らえないでいた。保健の先生は悪ノリして着付けを手伝ってくれた。長い黒髪に低めの身長、淡泊な顔立ちはコンプレックスであった。


「おーこれは本当に日本人形だ。凄い動いている」


 真由美ちゃんの前に立つと歓声があがる。更に色付きのリップを取り出してわたしにつける。


「ここは動画を撮ろう」


 真由美ちゃんは携帯を取り出してレンズを向けてくる。


「……」


 しばしの沈黙の撮影の後で真由美ちゃんは携帯をしまうと。


「じゃん、ビキニもあるよ」


 それは、赤い派手なビキニであった。


「イヤ、寒いし……」


 その言葉に真由美ちゃんはエアコンの設定をマックスまで上げる。


「これで大丈夫」


 何が大丈夫だ。着るのはわたしだぞ。


 うん?


 制服を脱ぎ始める真由美ちゃんは紺色である。そう、学校指定のスクール水着である。


「つぐみちゃんもレッツゴー」


 はいはい、と、和服を脱いで赤いビキニをつける。


「先生のはないの?」


 寂しそうにしている保健の先生は真由美ちゃんに聞く。


「学校指定のスクール水着ならあるが、不燃ごみとして出されてしまうぞ」


 保健の先生は真由美ちゃんのコミ障害に近い直球でしょぼんとしてしまう。


 さて、わたしが学校指定のスクール水着を着たら需要は有るのであろうか?


 朝方、夢から覚めると、キッチンに行きコップで水を一杯のむ。


 夢の内容は真由美ちゃんの死であった。


 棺の中に白い花と共に横たわる真由美ちゃんの姿が印象的であった。


 頭をかきながら自室に戻ると亜美ちゃんが座っていた。死神を自称して消えてしまった亜美ちゃんだ。


「亜美ちゃん?わたしを殺さずに真由美ちゃんを狙うの?」

「あなたは、魔女と契約している。あなたは魔女の物だしね。それに叩けばすぐに

自ら命を断つ獲物なんてつまらないわ」


 いいえ、これは夢の続き……。そう思った瞬間に目が覚める。


 辺りを見渡すとアイが座っている。どうやら、アイの幻術であったらしい。


「どう?真由美なる個体の居ない世界は?」

「亜美ちゃんの狙いは真由美ちゃんなのね……」

「そう、あなたは真由美に依存している。死神はそんな個体を好むのよ」


 それは近いうちに真由美ちゃんが狙われることを意味していた。


 わたしは悪い夢だと思いたくて、鉛筆を用意すると腕に刺してみる。


 厳しい痛覚を感じる……現実だ。


「真由美ちゃんを守る方法はないの?」


 椅子に座りリラックスしているアイに問うてみる。


「一つだけあるわ。『祈りの石』を使うの、わたしにとってみても、この不幸は最大級よ。契約を終わらせるには丁度いいわ」

「それは……?」

「ま、あなたの体は元の病弱なモノになり入退院を繰り返すでしょうね」

「要は亜美ちゃんの支払った対価を『祈りの石』で払うのね」

「そんなところよ」


 アイは立ち上がるとわたしに近づき、冷たい手で頬を撫でると消えてしまう。


 わたしはこれも夢なのかと錯覚するが現実だ。少し落ち着こうと携帯をみる。

夜中に着信があった。真由美ちゃんである。 ふ、真由美ちゃんらしいな。


 わたしは『祈りの石』を使う事を決意するのであった。

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