第5話 終わりとはじまり
フラれた後ってどうすればいいのかわからない。想定してなかった訳じゃないが考えないようにしていた。目の前の美由希も動くことができずにいる。
やっぱり、俺が消えるべきだな。
「……聞いてくれて、ありがとうな。じゃあ、行くわ」
美由希の脇を抜けて校舎に戻ろうとする俺の耳に美由希の声が聞こえた。
「あ、あの。まだ私と……ともだちでいてくれますか?」
涙交じりに訴える様な声。
「ともだち。そっか、ともだち、な」
今の俺にはその言葉がどれだけキツイ言葉か。
「……うん」
ともだちのままでいたかった美由希に、恋人という関係を強要したのは俺だ。
「……そっか」
俺は明確な答えを出せずに美由希の前から立ち去った。
♢♢♢♢♢
「巧くんに告られた? あちゃ〜、マジか! もちろん断ったんだよね?」
行きつけのカフェで渚ちゃんにことの成り行きを説明。首を縦に振り問いかけに答えた。
「仲良かったもんね。巧くん、いつも美由希と話すときは優しい顔してたし」
久遠くんの笑顔が脳裏に浮かび胸が痛む。
渚ちゃんが鞄からスマホを取り出し、ホッとした表情で私に画面を見せてきた。
「良かった。まだグループ抜けてないよ。友達は続けてくれるんでしょ?」
「……わかんない。けど、たぶん」
私にとって、彼は大事なともだち。親友と言ってもいいくらいだと思っている。
「わかった。私もそれとなく話してみるね。せっかく忍くんと仲良くなるために巧くんに協力してもらったんだから、巧くんが今まで通りにしててくれれば拗れることはないでしょ。巧くんのことは私に任せて、美由希は忍くんを……」
渚ちゃんのいい方は悪いかも知れないが、他の人からすれば私は久遠くんを利用したと思われても仕方ない。それでも、私は久遠くんのことを大切な……、渚ちゃんの会話が途切れ、表情が凍りついている。
その視線を追い振り向くと、そこには表情のない久遠くんが立っていた。
「た、巧くん。あっ……の、その、ね? いまの話は———!」
「……俺たちは、ともだちですらなかったんだな」
今までに聞いたことのないような冷めた声。
「そ、それは違っ!」
私は立ち上がり、久遠くんに向き合おうとしたが、スッと背中を向けた彼に話しかけることができなかった。
♢♢♢♢♢
美由希は忍が好きで、俺は仲介するために利用されていた。俺が仲間と思っていたのは妄想で、ともだちだと思っていた関係は見せかけだった。
考えて見れば辻褄が合う。
高校入学とともに渚が急に仲良くしてきたり、ともだちのままでいたいと美由希が言ってきたり。つまりは俺は繋ぎの存在だったんだ。
悔しいとか、悲しいとかそんな感情もあったんだと思う。それでも俺の心の中に漂っているのは「もういいや」という感情だった。
信じていたものが、愛していたものが全て色褪せて灰色になった。
俺の感情もなかったものにした。
♢♢♢♢♢
「……ごめん美由希。もうだめかも」
渚ちゃんに指摘されるまでもなく、久遠くんに嫌われ……、ううん。軽蔑されたことは理解できた。それは渚ちゃんが謝ることじゃない。久遠くんに会えたのは渚ちゃんのおかげだし。
「ありがとうね渚ちゃん。久遠くんには私がちゃんと謝るから」
許してもらえる気はしなかった。それでも私は久遠くんと向き合わなければいけない気がしていた。
久遠くんのいない日々。それは私にとって想像以上に辛いものだった。
彼の声が聞けない、彼の温もりを感じられない、彼の存在を感じられない。
私にとって久遠くんは誰よりも大切な存在で、ともだちよりも恋人よりも大切な存在だったんだと気付かされた。
何度も久遠くんのクラスに足を運んだし、部活上がりを待ったりもした。
でも久遠くんの目には私は映らず、久遠くんの耳には私の声は届くことがなかった。
「美由希。まだ頑張るの? 巧くんと同じ大学に行くんでしょ? 相手にされないのは……ツライよ?」
「大丈夫。また4年間、久遠くんに関われるチャンスができたんだもん」
渚ちゃんは心配してくれたけど、私は諦めたくない。
桜が舞い散るキャンパスで、私はあなたの後ろ姿を見つけた。ずっと見続けた背中。間違えるわけは、ない。
「巧くん!」
在りし日のように、私は彼のジャケットの裾を思い切って引っ張った。
振り返った巧くんは少し驚いた表情で、私はそれがうれしくて……
「巧くん、私とともだちになって下さい!」
今度は私が告白するからね?
《短編》フラれた俺と、フッた私 yuzuhiro @yuzuhiro
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