第100話 お正月特別編

※クリスマス特別編の後の正月です


 今日は一月一日、つまり元日。リク、エル、ルーシー、アイ、フーの五人はフォータム共和国のオルトの店に招かれていた。毎年オルトの店では元日には餅つき大会をするらしい。この世界に来てからの始めての餅つき大会。リクとアイは懐かしさに、エルとルーシーとフーは始めての体験に胸を踊らせる。

 五人が店の前に来たときにはまだ始まっていないにも関わらず、すでに多くの人たちが来ており活気に満ちあふれていた。どうやら餅つきは飛び入りでも参加できるようで、既に多くの人が並んでいた。杵と臼はまさに元の世界で見たもので懐かしさに思わずリクとアイの顔が綻ぶ。

 従業員らしき人たちが準備をしているなか、オルト、ミア、ニアがリクたちに気付く。ニアは去年で冒険者ギルドを退職し、オルトの商会で働くことにしたらしい。ミアも仕事のパートナーが出来て嬉しそうだ。


「明けましておめでとうございますニャ!今年もどうぞご贔屓にニャ!」


「ちゃんと挨拶せんか。明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します」


 相変わらずのミアと丁寧な挨拶をしてくるオルト。リクたちも丁寧に挨拶を返す。ちなみにこの新年の挨拶は、フォータム共和国でもヘルプストのように流人文化が根付いているところでしかされていない。


「明けましておめでとうございます。今年からはこちらの商会で働きますので宜しくお願いします」


 ニアも丁寧な挨拶をしてくる。ニアは想定外の事態にはポンコツを露呈する。しかし基本的には有能なようで、辞める頃には冒険者ギルドでも大分頼りにされるようになっていた。臨機応変で軽いノリのミアと、堅実なニア。意外と名物コンビになるんじゃないかとリクは思う。


「明けましておめでとう。頑張ってねニア。私たちもここにはよく来るから、いままで以上に会えるかもね。じゃあ今年もよろしく」


 ニアの師匠ことエルが声をかける。その言葉はやはりニアにとって特別らしく感激している。リクたちはあまりギルドの方に顔は出さない。最近は特別にこなしてほしい依頼というのもあまり無かった。ファングが実力をつけたということもあるが、彼らが他の冒険者への指導も積極的に行って全体のレベルを引き上げているらしい。


「皆さんは餅つきはされますか?」


 オルトの質問にフーが元気よく答える。


「お父さん、私やってみたい!」


「ああ、いいぞ。じゃあお父さんと一緒にやろうか」


「うん!」


 相変わらずリクはフーに激甘だ。何かやりたいと言われて断ることなどまずない。嫁三人が苦笑しながらその様子を見ている。


「私たちは見てるね。フー頑張ってね」


「うむ、フーが頑張っているところを見せてもらおう」


 アイとルーシーに激励されて、両拳を握って鼻息を荒くするフー。一同がそれを見て笑う。


 やがて餅つき大会が始まる。餅をこねるのは従業員がやるようで、参加者は餅をつく方に回っていた。


「「「よいしょー!」」」


 杵が振り下ろされる度に観客から大きなかけ声がかかる。まさにお祭り騒ぎといった様相だ。フーと同じくらいの大きさの子も参加しているが、やはり杵が重いようで親に支えてもらっている。

 やがてフーの順番が来たので、リクが手伝おうとする。


「お父さん、一人で大丈夫だよ?」


 リクはついついフーが竜種だということを忘れてしまう。そしてその言葉通り杵を片手で軽々持ち上げる。その光景に観客から驚愕の声が上がるが、リクはマズいと思いルーシーに声をかける。


「ルーシー、強化魔法を」


 その言葉にルーシーが瞬時に反応して、杵と臼に強化魔法をかける。そしてフーが満面の笑みで餅をめがけて杵を振り下ろす。さすがルーシーの魔法、杵と臼は破壊されなくて済み、餅も爆散するようなことはなかった。だが地面だけはそうはいかない。フーが杵を振り下ろす度、臼がみるみるうちに地面にめり込んでいく。


「フー、もうちょっと力を押さえて。強く叩けばいいっていうものじゃないんだぞ?」


 リクがフーに声をかけたことでなんとか臼が地面にめり込むことは止まる。言うまでもなく観客は唖然としていたが、フーが楽しそうだったのでリクたちとしては問題ない。


「お父さん、楽しかった!」


「良かったな。じゃあ早速餅を食べに行こう」


 二人は嫁三人と合流して餅を食べにいく。食べ方は色々用意されており当日ついた餅を使った、あんこ、きな粉、お汁粉、善哉、雑煮と様々なものがあった。一通りは食べたいという希望があったので、全ての餅を貰ってくる。初体験組は興味津々だ。


「くれぐれも喉に詰まらせるとかは止めてくれよ?」


 リクが初体験組の三人に注意を促す。さすがに高齢者じゃないんだから大丈夫だろうとは思うが、心配なので念のため言っておく。正直エルが心配だ。


「大丈夫に決まってるでしょ!」


 自信満々なエルを見て、嘆息し不安な視線を向けるリクとアイ。


「これは面白い食感じゃな」


 ルーシーは雑煮がお気に入りのようだ。ちなみにオルトの店の雑煮はかなりシンプルなすまし汁スタイルだ。


「これ甘くて美味しい!」


 フーが食べているのはあんこ餅だ。シンプルだが控えめな甘さがフーには合っているようだ。


「っ!げほっげほ」


 食べながらむせているのはエルだ。きな粉餅を食べて思いっきりむせている。まあ餅を詰まらせたんじゃないからいいかとリクとアイは苦笑する。それでも美味しそうに食べているので問題無さそうだ。


「アイは餅はどうやって食べるのが好きなんだ?」


「うーん、私は磯辺焼きがいいかな。リクは?」


「俺は砂糖醤油かな」


「そういえば二つともないね?ちょっと聞いてみようか」


 そういうとアイはオルトのところへ行って、磯辺焼きと砂糖醤油がないか聞いてみる。


「そんな食べ方があるんですか?ちょっと教えていただいても大丈夫ですか?」


 どうやら二つの食べ方は知られていなかったらしく、アイは実演して説明する。食材は問題ないし、手間もほとんどないのですぐに終わる。


「これは新しい食べ方ニャ?ちょっと味見してもいいですかニャ?」


「あ、私も食べてみたいです」


 ミアとニアが早速興味を示し食べてみると、二人が恍惚の表情を浮かべる。


「これはおいしいニャ!シンプルでいいニャ!」


「うん、これは流行るよ!簡単だし早速用意しようよ!」


 ミアとニアでテキパキと準備を始めて、あっという間に二つのブースを作り上げる。物珍しさから多くの人が訪れ、その美味しさに衝撃を受ける。この二つの食べ方のメリットは簡単だということだ。実際にリクも正月が終わって余った餅を使って朝食にしていた。


「何だか自分達の故郷の味が受け入れられるのっていいね」


 しみじみとその様子を見ながらアイがリクに寄り添いながら語る。


「ああ、そうだな。こういうのもいいもんだな」


 いい雰囲気になっている二人を察知したのか。エルとルーシーがその間に割り込んでくる。


「ほらほら、リクとアイも食べないと。今日の夕食はこれだよ?」


「うむ、いちゃついてないでしっかり食べんといかんぞ?」


 取って付けたような理由を語る二人に思わず笑みがこぼれる二人。そこにフーが餅を持ってやってくる。


「お父さん、アイお母さんも私がついたお餅食べて!」


 愛娘が差し出してくる物を食べないわけにはいかない。二人は有り難くそれを食べて幸せを噛み締める。

 そしてこの年から毎年元日にはオルトの店に来ることが恒例となるのであった。



※後書き

最後まで読んでいただきまして有り難うございました!

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異世界で物理攻撃を極める勇者、魔王討伐後は二人の嫁と世界を巡る Sanpiso @pinsan

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