返却はお早めに あやかし文庫へようこそ
長谷川の出してくれるおにぎりは、いつも大きい。長谷川が握っているからだろう。
「遠慮なく、もっと召し上がってください」
土曜、いつものようにひいらぎ文庫を訪れると、すぐに長谷川が昼食だとおにぎりを出してくれ、昼食となった。
空腹だったのですぐ食べ始めたが、皿に盛られたかなでのぶんのおにぎりは、三つのうち、ひとつが残っている。かなでは食が細いわけではないが、長谷川のおにぎりは、ふたつ食べると、食べ過ぎた、と思ってしまうほど大きいのだ。しかし長谷川はそれをぺろりと平らげるので、彼にとってはふつうの分量なのだろう。
『遠慮してるんじゃなくて、ちびには多すぎるんじゃねえの』
長谷川の隣の椅子で丸くなっていた金狐の未明が、のそりと鼻面を上げた。
「え、……もしかして、未明の言う通りですか?」
長谷川は、やや心配そうに尋ねた。申しわけなく思いつつもも、かなではうなずく。
「長谷川さんのおにぎり、とってもおっきいから……自分で作るのより大きくて、すぐお腹いっぱいになっちゃうんです」
「大きい、……なるほど、そうかもしれません。手が大きいので」
長谷川はそう言うと、微笑みながらかなでに手のひらを向けた。かなでは思わず、それに自分の手のひらを向ける。合わせはしなかったが、かざしただけでかなでの手よりふた回りは大きいのがわかる。兄の手より大きいな、と思った。
「のこすのはもったいないので、あとで食べてもいいですか?」
「だったら俺が喰ってもいい?」
かなでが手の大きさを確認してから問うと、長谷川の横で、するりと金狐が金髪の男に変わる。
「未明さんが食べるならそれでもいいよ」
かなでがそう答えると、長谷川は苦笑した。
「いいけど、君もおかしなあやかしだね。食事なんてしなくてもいいはずなのに」
「そりゃ、あんたから気をもらってるけどさ、俺、こうやって食べるのも好きだな」
未明はニヤッとして、皿のおにぎりを取り上げ、かぶりついた。
SSまとめ 椎名蓮月 @Seana_Renget
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