地球外生命体

弱腰ペンギン

地球外生命体

「ワレワレは、地球の外カラ来た」

 朝。高校へ行こうとドアを開けると、タコに手足が生えたような、まぁテンプレ地球外生命体がいた。

 ヨっと挨拶をしてきたのですぐにドアを閉めた。

「警察、か?」

 不審者って言っていいんだろうか。っていうか警察呼んでいいんだろうか?

「イキナリ通報とは、ヤルじゃないか。地球人」

 後ろから話しかけられ、身がすくむ。確実にドアは閉めたはずだ。なのに後ろから、ドアのほうから声が聞こえたのだ。

 恐る恐る振り返ると。

「ッチョ、挟まった。ヌケない」

 ドアのカギに触手を突っ込んで開けたものの、触手がつっかえて外れなくなっている宇宙人がいた。

 即通報!

「ッチョ。待たないか。ワレワレは君にお願いがアッテここに来たノダ」

「貴方の宇宙船に、いきなり『ドーモ』と不審人物が入ってきたらどうします?」

「撃ち殺す、カナ?」

「そういうことです」

「ウン。私が悪かった。少し話をキイテクレ」

「断る!」

 宇宙人は空いている触手をスっと持ち上げると、光線のようなものを射出した。

 俺の横を通り過ぎ、家の床に命中。焦げ臭いにおいと共に、命中した部分が『サーロインステーキ』になっていた。あくまで見た目なんだけど。

 え、なにこれめっちゃ怖い。床下、白アリの巣が出来てるじゃん。

「ワレワレは白アリ駆除に来た宇宙人だ」

「ナニソレ」

「端的に言うと、我々の主食だ」

 いまだ鍵穴から触手が抜けない宇宙人が力強く言い切った。

「……で?」

「白アリを駆除シタイ。ワレワレの食料とするために」

「……床の一部がステーキに変わったのは?」

「サービスだ。我々にはそのアリがステーキに見えているトイウコトだ」

「……えーっと。食えるの、あのステーキ?」

「食える」

「……元、床なんだよね?」

「元、床である」

「どうやって、っていうか床を食うっていう?」

「大丈夫ダ。そこらへんは、こう、地球的に言うと『錬成しなおした』トイウコトだ」

 宇宙人は顔の前で触手を合わせるポーズをとった。

「……まぁ、百歩譲ってそこらへんは良いとしよう。でも床をステーキに変える不審者を討ちに招き入れると、本当に思って——」

「この家、後一か月持たナイぞ?」

「すぐお願いします」

 鍵穴からようやく触手を取り出し、一安心している宇宙人を招き入れた。

「デハ、すぐにとりかかろう」

 そういうと宇宙人は床下に潜っていった。

「うわわわわ」

 ガタガタと家を揺らす振動が発生。震度3くらいかこの揺れは。

 両親が田舎に立てたこの一軒家は、横に長い作りになっている。おかげで十分なスペースの部屋が確保できている。

 だから、振動があっちに行ったりこっちにいったりすると不安になる。ご近所に不審な目で見られないかな、と。

 ちなみに両親は先に仕事へ出かけている。母は山に鹿狩りに。父は海へ漁に出ている。

 だが、だからこそよそ様に『何かあったわよ』とか言われると、困る。

 宇宙人を家に上げたとか言ったら、たぶん病院に送られるだろう。

 どんな風に暴れていたのかと調査され、俺はなんらかの意味不明な治療を受けることになるんじゃないか。そんな不安が頭をよぎった。

「終わったゾ」

 宇宙人が穴から顔を出していった。心なしか満足そうな顔をしている。

「……揺れていたのは一体」

「アァ。基礎もやられていたので、あっちこっち持ち上げたり錬成したりして補修をシながらヤッテいたカラな」

「そんなに」

「一か月持たぬとイッタだろう。まぁ、ソノブンおいしくイタダイた。同胞にも十分なミヤゲとナロウ」

 宇宙人は穴を治すと、ステーキを持ち上げ。

「食わんノカ?」

 と言った。丁重にお断りすると、宇宙人を見送る。本当に何事もなく終わったようで、ほっとした。

 時計を見ると少し急がないと遅刻してしまう時間になっていた。

 俺はドアを開け。

「ワタシは地球外生命体ダ」

 すぐに閉めた。

 ……今日は厄日なんだな。そういうことにしよう。

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地球外生命体 弱腰ペンギン @kuwentorow

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