異世界的現代

Yuyu*/柚ゆっき

本編

「帰ってこれたか……」


 俺はそう呟いた。時間を確認すればあれから1時間しか立っていない。

 この世界でたった1時間の間に俺は数年――勇者として活動し世界を救ってきたのだ。


「って、よく考えたら1時間でもド深夜じゃねえか!」


 記憶が正しければ夜に飲み物がなくなってコンビニへとでかけた時に突然異世界へと飛ばされたのだ。だが、今の俺はもうこの世界の高校2年の一般人だ。

 俺は日付が変更される前に家に帰って久しぶりに自分の部屋で寝ようと思い走った。


「お兄さま。こんな深夜に何処にでかけていたのですか?」


 だが、回りこまれてしまった。

 家に帰り玄関開けたそこにいたのは妹の燐子だ。


「いや、試験勉強しててな。そしたら家に飲み物がなくて買いに行ってただけだ」

「それでもこんな深夜に家からでるのは関心しませんね」

「ごめんて。起こしたならそれもごめん」


 体も年も変わってないが体感時間的に数年ぶりにあった妹に俺はホッとしてしまった。


「これからはやめてくださいね。最近ただでさえ物騒なんですから」

「高校の男子だぜ。そんな簡単に誘拐はされねえよ」

「何言ってるんですか? 物騒なのは原因不明の爆発多発事件ですよ」

「え?」


 何を言っているんだ。そんな事件、ニュースでも一つもなかった気がするぞ。俺が知っている――この世界でそんな物騒な多発事故が日本で起きるわけがない――だろ。


「テロリストが日本上陸したなんて聞いてないぞ〜。冗談がうまいな燐子は」

「冗談ではありませんしテロリストでもありません。お兄さまこそ寝ぼけているのでは? 早く寝ることをオススメします」

「――あぁ。そうするよ」


 そうこの時、俺は在るわけもない可能性を頭のなかで考えてしまった。

 ――あの世界を救ったことでこの世界に不具合が起きたんじゃないか――。


 ***


 次の日、俺、空凪火狩は日常を再開するかのように朝起きてパンをトースターに入れる。そして妹の部屋をノックして返事がないのを確認するとドアをあけて服のはだけた妹のすがたが目に入る日常を再確認した。

「ほら、起きろ」

「ん〜……」

「今日も学校だろ」

 燐子は目を開けるが起き上がろうとしない。

「お兄さまが手を貸してくれたら起きます」

「お前な……ほら」

「えへへっ」

 俺が手を出せば笑顔を浮かべて手を取る。果たしてこの妹は俺にどんな感情を抱いているのだろうか。

 その後朝食を食べ終えると俺の通っている高校よりも少し遠くの公立の中学に通っている燐子は俺よりも少し早く家を出る。

 俺もその数分後には家の鍵を閉めて学校へと向かう。両親は共働きで出張も多い。むしろ出張を旅行と勘違いしてるのではないかという勢いでイチャイチャしながら仕事をしている。


 学校に付けば当然教室へと入るがこの工程も久しぶりに感じる。


「おはよう、空凪!」

「え……お、おはよう」

「なんだ元気ねえな」


 教室に入るとクラスのムードメーカー――哀川俊――に挨拶された。

 だが、おかしい。俺はこのクラスでは友人は数人いたがその多くはクラス内で孤立気味になってるメンバーだ。少なくとも哀川のようなコミュニティのトップにたつような人間に挨拶されるほどの中は構築してなかったはず。


「ねぇ、聞いた?」

「なになに」

「また、爆発事件だって。昨日の深夜」

「え? マジ? 怖いな〜」

「ね〜」


 爆発事件は燐子の冗談じゃなく本当にあったことなのか。やばい、なんだか頭が痛くなってきた。

 その時に朝のチャイムがなって担任の海技だ教室に入ってくる。


「おはよう。遅刻者はいないわね」


 いつもどおりの少し冷たさすら感じる声だ。だがそれとは別の声が隣から聞こえてくる。


「空凪くん大丈夫? 顔色悪いけど」

「……大丈夫……だ」


 クラスでも一番の人気者の渡辺恵利――俺から見れば男子にとにかく媚びを売る将来は碌でもない遊び人になるんじゃないかと思って好きになれない女子だ。

 偏見なのは百も承知だけど、そういつしか思ってしまったのだ。すまない。


「せ、先生! 空凪くんがつらそうなので保健室へ連れて行きます!」

「お、おい……頼んでな――」

「マジか? じゃあ連れて行っとけ。出席にはしておいてやる」


 俺は何を考えているかわからない渡辺に引っ張られるように保健室へと行くことになった。


 ***


「調子はどう?」

「別に頼んでないだろ……まぁ、悪くはない」

「そう……それで、空凪――うぅん、火狩くん」


 保健室で少し休んだ――というより頭のクリアにして落ち着きはした。

 が、目の前にいる渡辺が妙に色っぽい声で近づいてくる。俺は危機感を覚えて後ろずさる。


「何だ突然」

「なんにもないよ――ただ、私、実は火狩くんのこと昔から好きだったの」

「そうか、俺はお前みたいに人の前でキャラ作り続けてるような奴は苦手だと一応言っておくぞ」

「……はぁ。本当に面倒くさい。なんであなたはかからないのかしら」


 俺はきっぱりを拒否をしますと渡辺の雰囲気がさらに変わる。

 そして胸元から小さいスプレー缶をとりだす。


「なんなんだよ。一体」

「せっかく今の現代で好かれるって容姿と性格で近づいてるのにあなたは全くこっちを向きやしない。私のほうを向かない人間がいるのってムカつくのよ」


 渡辺はその手に持ったスプレー缶を俺の方へと投げてくる。

 そして次の瞬間目の前を缶が横切ってみえない一瞬のうちに目の前の渡辺の姿は一変した。


「どうなってんだ」

「知らなくていいことよ」

「――おい、まてっ!」


 一瞬見えたあの姿は――尻尾が九本ありその尾の先から火の玉が揺れている――あの姿は紛れもない――。


「バイバイ」


 そうして火の玉が俺の近くへと飛んで来る。その程度の小さい火の玉で俺が死ぬわけもない――人間はそんなに脆くはない。

 だがその考えが間違えだとすぐに気付かされた。

 渡辺は開いた窓から外へと逃げ出していく。

 そして火の玉は俺の方へと来てはいなくむしろ少ししたへと――。


「――ふざけんなっ!?」


 俺は視界にはいったそれの正体に気づき、唯一すぐに使うことのできる逃げ道――窓を突き破り外へと飛び出た。

 そして数秒後、保健室の中で大爆発が起きる。


「なんなんだよ……」


 あのスプレーは水素スプレーだった。それを火の玉――鬼火・狐火ともいえる――火が外を突き破り中の水素に発火したのだ。

 ふざけるなという話だが――爆発事故の原因もあれじゃないかと思う。

 あいつは――自分に振り向かない人間が許せない――という思考で動いている。

 十中八九――九尾――だ。伝承の中のどこかに妖艶な美女になり人の目を魅了するという質の悪い妖怪としてものっていたはずだ。


「何の音だ!?」

「爆破事故の犯人が……きてたみたいですね」


 その後、駆けつけた教師たちが警察への連絡などをしていった。

 俺は寝ていて変な音で起きたら水素缶と火がおいてあって慌てて逃げたと言っておいた。

 おそらく愛想よく過ごし続けていた渡辺が悪いと俺が言っても妄言ととられるかもしれないからだ。

 この世界でものをいうのは人数だ。多数決――それはたとえ偽であっても真にしてしまう人間の作った狂答――だ。

 この日の学校はこの事件をきっかけに休みになり明日は金曜ということで休校が決定した。


 ***


「大丈夫ですか! お兄さま!」


 家に帰ってリビングのソファで寝ていると帰ってきた燐子がそう駆け寄ってきた。


「ガラスの破片でちょっと切っただけだ」

「それでも、怪我は怪我です! 無事でよかったです」


 ほっと胸をなでおろす燐子。そこまで大げさな怪我でもなかったんだがな。


「それで、お兄さまにこんな怪我を負わせたのは誰ですか……?」

「り、燐子?」


 燐子の雰囲気が変わる。昔見たことがあるが、ここまでひどくはなかったはず。


「ほ、保健室で寝てた時だからさ。犯人は――」

「お・に・い・さ・ま? 嘘はいけませんよ」

「クラスメイトの渡辺だ……ただ。本当にあれが渡辺なのかはわからん」

「渡辺さん……渡辺さんですね。フフフフ」


 やばい、燐子がやばい。こんな子じゃなかったはずなのに燐子がとてもやばいことになってる。


「お兄さまは安静にしていてくださいね。ウフフフ」

「…………」


 燐子はゆったりとリビングから出て行く。その後、玄関が閉まる音が聞こえた。

 っておい、待て。ただでさえ爆発テロの犯人かもしれない奴だぞ。


「まてっ!」


 俺も走って――玄関にあった何かを手にとって外へと出た。


 ***


「ま、まて燐子……落ち着け」

「お兄さま、どうしたんです? 家でゆっくりしていないと駄目じゃないですか」

「お前が渡辺のところに行こうとしてるのはわかった。ただあいつが爆破の犯人かもしれない。そんなとこに妹一人でいかせる兄がいるわけないだろ」

「大丈夫ですよ〜。フフフ」


 燐子の様子がおかしすぎる。これも世界の不具合なのか。


「生きてたのね。本当に忌々しい」


 俺が燐子を止めようとしてると近くに今日の午前中に見た九尾が――渡辺恵利脱――が現れた。


「そこのお嬢ちゃんには悪いけど。見られたからには消さないとね」


 昼と同じようにスプレー缶を持っている。

 ――やべぇ、正直この状況で水素ばらまかれても無理だ。

 そして投げられた。俺は一か八か適当に掴んで手に持っていたものを投げる。


「えっ?」

「んっ?」


 俺が投げた瞬間、渡辺の素っ頓狂な声が聞こえた。俺は一体何を投げた。


「なんてもん投げるのよ!? 要石の欠片とかシャレにならないわ」

「フフフフ、好きだらけですよぉ〜」

「なっ!?」

「はっ!?」


 俺が投げたものは石の欠片だったのか。だがそんなことはどうでもいい。

 なぜなら目の前の状況に意識が行かざるをえなかったのだから。


「おい、おい。燐子それ」

「お兄さまを傷つけた報いは受けてもらいますよ」

「く、くそっ。妖刀か!」


 燐子の右手からは一本の刀が伸び――渡辺に突き刺さっていた。


「ふ、ふんっ。だがもう最低限の力はたまった。私が独立しても問題な――!?」


 次々と予想もできないことが起きていく。おそらく周りに人がいたとしてもこれを信じるものは少ないだろう。

 刀が刺さっているはずの体がすり抜けて渡辺の人間の姿が倒れる。そして九尾が実態として現れたんだろう――が。

 その体から刀が渡辺の体へとうつることはなかった。


「原理はわかりませんが、私の体から出る刀はなんでも斬れるんですよ。それも任意に」

「くそっ、最初から私本体の方を刺してたかっ――ふんっ」


 九尾はその手で刀を掴んで無理やり抜き放つと逃げていく。


「逃しません……よぉ……」

「燐子!」


 燐子はそれをおおうとしたんだろう。だが力尽きたのかその場に倒れそうになる。俺はなんとかそれを受け止められる。


「お兄さま……」

「一旦帰ろう、な」

「……はい」


 俺は燐子と仕方なく渡辺も担ぎ家へと帰った――正直何が何だかわからない。異世界以上に異世界な現代だ。


 ***


「それで、燐子。話は聞かせてくれるな」

「お兄さま……前に教えたと思うんですけど」

「……すまん。忘れた」


 それ以前に俺の知らない不具合の部分なんだろう。


「私の体には妖刀が入っているようです。それは怒りに反応して出てくるようで」

「…………おう」

「私の愛するお兄さまが傷つけられたとあって怒らないわけじがないじゃないですか!」

「……おう」


 いつから俺の妹はこんなヤンデレみたいになってしまった。


「でももうあの女狐はそうは動けません」

「それは……お前の妖刀ということか?」

「はい、呪いのようなものですから」


 兄ですが妹がとてつもなく怖いです。


「まあいいや。場所はわかるか?」

「まだなんとなくわかりますが……どうするつもりですか」

「決着をつけてくる」

「ですがお兄さまは普通の人間で何の力も」

「それでもだ。俺も妹が倒れる原因を放って置く気はないってことだ」

「お兄さま……おそらく河川敷のどこかにいるかと」

「わかった、そんじゃあそ何時の事も頼むわ」

「わかりました……お兄さま、深夜の出歩きはだめですよ」

「9時までには帰ってくる」


 そう言って俺は外に出る。

 外にある物置きから野球のバット程度の大きさのトーテムポールを取り出す。

 両親が出張先でなぜか買ってきたものの一つだがスプレー投げられて打ち返すにはちょうどいいだろ。


 河川敷まではうちから走って20分かからない程度だ。

 河川敷につくとひと目につきにくい場所にあの狐はいた。


「ぐぅ……」

「苦しそうだな」

「お前は……つくづくしつこいな」

「悪かったな」


 九尾は切られた部分を手で抑えながら俺の方を向く。


「お前にみとられることになるとは屈辱だ」

「こっちは殺されそうになったんだけどな」

「一つだけ答えろ。お前は――もしも異世界や人間でない存在が共存する世界が存在したならどうする――」

「そうだな。とりあえず住み分けするんじゃないか」


 異世界にいった時もそうだ。獣人と人間が共存する街は少なくきっちりと住み分けられている方が多かった。

 これは人間の考えの根底に存在することだろう。人種差別もその一つの結果だ。


「そうか……では今の世界では私たちのような存在は行きてはいけないのか」

「そいつは――人次第だ――俺は別にいいと思うしな。ただ危害加えられたら罰せられるのは当たり前だ」

「全くもってめんどくさいやつを狙ってしまったよ私は……最後の忠告しておいてやる。お前はこれから厄介な奴に付きまとわれるぞ」

「それどういうこと――」


 ニヤリと笑いながら九尾は倒れて動かなくなった。俺の質問への最後の返答もなしに。


 ***


「ただいま」

「あら、おかえりなさい」

「渡辺……」

「どうかした?」

「いや、雰囲気変わったからな」

「これは本来の私よ。今までがおかしかったの、全く面倒くさいのに憑かれたものだわ」


 リビングにはいった瞬間にこれだ。


「おい、燐子これはどういう」

「お兄さま……恵利さんはいい人です」


 なんでこうなってんだ。


「それじゃあ私は帰るわね、また来週」

「おう……」

「それと、お詫びよ」


 そういって渡辺は俺に一冊の雑誌を手渡してくる。R-18的な本を。


「童貞のあなたにはお宝ものでしょう」

「お前俺をなんだと思ってんだ!」

「あら、もしかして童貞じゃなくてEDだったかしら? それだったら悪い子としたわね。生殺しになっちゃうもの」

「そういうこといってるんじゃねえんだよ!!」

「あ、それと私、空凪くんに一目惚れを入学試験の時にしてるから。それじゃあね」

「ちょっと待て――……ちょっと待てぇ!!」


 あの九尾、面倒くさい奴ってこういうことか!!

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