第17話 もう二度と会いたくはないわね(終)
「私を、あなた様とともに連れていってはくれませんか?」
勇者アンドラが、目を潤ませて、マエミチにすがりついた。
「出来ない。」
即決だった。
「どうしてです?」
「君が弱すぎるからだ。」
「強くなります!」
彼は首を振った。
「今、強くなければだめだ。もう、私の前で愛する者が死ぬのを見たくないんだ。」
アンドラは号泣した。しかし、しばし号泣した後、涙を拭って立ち上がった彼女は、誇り高い勇者、戦士に戻っていた。
「再び、あなたがこの世界を訪れた時、私の武勇伝を聞き、後悔なさるように精進いたします!」
「それを期待しているよ。君なら出来る。」
2人は、手を握りあった。
彼は、4人の勇者達全員の活躍を称賛する報告を、皇帝達の前ででした。そして、元魔王との間での恒久的和平の仲介をして、それを成功させた。僅かばかりの礼を与えられ、大袈裟に感謝して、退場したのだった。
「我が守ってやっても良かったのだぞ?」
「そのせいで、お前達を失いたくない。」
「わがままだのう。」
「仕方のない奴だ。」
「私達がいないとだめなのですね。」
「死ねませんね、私は。」
そう言って、4人はすり寄ってきた。
実は、他の勇者ブエラとマリウサも彼と共に行きたいと言ってきたのだ。ブエラは、期待に応える重圧に疲れていた。マリウサは、これからどうするか、分からなくなっていた。2人には、それぞれ助言を与えた。2人は、それを聞いて、どうすべきか見つけたようだった。シシアだけは、違った、彼にすがろうとはしなかった。彼女は、上に上がることに夢中になっている、そのためには手段を選ばないだろうと思われた。彼女は、確実に危ない、最後は自滅するだろう。しかし、その過程で、マリウサやブエラが、彼女に陥れられて、犠牲になりかねない。彼女を殺すかとも思ったが、かえって混乱させてしまうので止めた。強制的に連れて行くのも、同様である。誰かを連れて行けば、他を置いていけなくなる。彼の心情では。彼女達の死をみた上に、ガミュ、ギュアナ、マルバ、ウァレアまで犠牲になるのは耐えがたかった。魔王に返り咲いたアマモも、連れて行って欲しいと懇願したのだ。彼女の願いも、もちろん拒絶している。
「未練があるんじゃない?」
天界に戻った女神パエラが、意地悪そうに尋ねた。4人が睨み、ソクラテスが咎めるような視線を向けた。マエミチが、手で彼らを制して、
「意外に意地悪だな、可愛い女神様は。まあ、もらえるものはもらったから、文句は言わんよ。満足できるものとはいえないがね。」
「ケチだな。」
「同意見じゃ。」
「本当。」
「主様は、人が良すぎます。」
非難の声を、パエラは無視した。
「オマケとして、あの2人を引き渡したんだから、いいでしょう?どうするの?」
4人には、こちらの方が不満だった。
「これから考えるさ。四天王の下に八部衆や12神将を作ってもいいかもしれないな。まあ、これでもうお役御免だろ?」
「そうよ。ご苦労さま。もう二度と会うことはないでしょうね。会いたくもないけど。」
「こっちもだよ。では、さらばだ、女神様。」
彼らは光の中に消えていった。少し寂しさを感じたが、任務の達成感とせいせいしたという気持ちの方が大きかった。
それからどのくらいの時間が過ぎたのかは、時間の経過が違うため分からないが、その後しばらくしてのことだった。
「どうしてあんたが、ここにいるのよ?」
「こっちの台詞だ。そもそも、召喚したのはそっちだろう、女神様?」
そう言われて女神パエラは、唇をかんだ。
「どういう条件で呼び出したんだ?」
呆れたように彼が言うと、確かにその通りだと思わざるを得なかった。かなり難しい役目を押しつけられた。それを果たすために、かなり、いや、めちゃくちゃ高い能力を求めたのだ。彼が、それに該当する可能性は、考えて見れば高かった。
「仕方ない。ちゃっちゃとかたづけるか。」
「ちょっと前回の比じゃないのよ。14回目だからって、慢心しないでよ。」
「20回目だよ。」
彼はすかさず訂正した。
「あれから五回も。」
絶句して、何も言えなくなった。
「じゃあ、四神姫と八部衆と3大老!」
「え~。」
「あら。久しぶり。」
「誤解するな。」
「正妻の私と他愛人3人だけ。」
「正妻は私。他3人愛人は、あっている。」
確かに、八部衆には男も、獣もいる。そして、あの2人もいる。すっかり、式神の顔つきになっている。
「主様方は、以前の十倍以上強くなっております。さらに、八部衆の追加などで、多分、以前からは比較できないくらいになっているかと。」
前に進み出たソクラテスの言葉に、
「そうだろうけど…。」
今回は、違うという言葉が出なかった。
「とにかく、詳しい情報と褒美と装備などのことを教えてくれ。」
彼は、つまらなそうな顔で言った。
勇者召喚も5度目までは、希望に燃えていたよ。 確門潜竜 @anjyutiti
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