第16話 魔王城陥落

「どこに行くのですか?」

「魔力とは言えない力の流れを辿っている。この前の異様なゴーレム共にも流れ込んでいた、今も流れを感じる。多分勇者達との戦いに使っているんだろう。本当にあのクソ女らしいやり方だが、あの馬鹿な女も本当の馬鹿ではないから、そのまま力を取られっぱなしにはさせておかいないだろうさ。」

 彼は、女神の質問に答えながら、自らも次々に現れる魔族の衛兵達を蹴散らしながら、魔王城の地下の奥に進んでいた。かなり奥に行った地下の大広間に出た。その入口から、聞き覚えのある声が、言い争いをする声が聞こえてきていた。

「どうやって出てきたのよ、このクソ女神!」

「お前に説明してやる義務はない。あばずれ女神が!」

 罵り合う2人の堕天界女神を目の前にして、呆れながらも、まとめて片づけられると、彼は考えていた。“逆に、二倍の相手になってしまうが、しかたがあるまい。”

「2人とも、こちらの相手もしてもらえないかな。」

 マエミチの声に、取っ組み合いを始めんばかりに睨み合っていたアガサレとバサガが、声のすること方を振り向いた。

「お前はあの時の!」

「また、私の邪魔をするつもりか!」

 同時に叫んだ。二人には、この世界で彼女達の前に立ち塞がった男ということしか分からなかった。思い出させたいと思ったが、面倒くさいと思って止めにした。

「墜ちて、すっかり婆臭くなったな。二人とも。」

「なんだとお~!」

“こういう時は、息が合うな。”アガサレは大剣を、バサガは槍を構えた。二人とも、女神とは思えない怒りの形相で襲い掛かってきた。二人の同時攻撃にマエミチは、流石に防戦一方になっているかに見えた。

「あなた達、彼を援護しないの?」

 たまりかねてパエラ達4人に尋ねた。彼女らは、彼の動きを凝視しながら、援護に加わろうとしなかった。

「余裕だな。」

「遊んでいるな。」

「まあ、わざと攻撃に転じていないね。」

「相手を見ているというところかな。」

 彼女らは、女神を守るように立ちながら、加勢が現れた時の対処できるように身構えているようだった。さらに、やはり主の動きから目を離さなかった。

 バサガが、マエミチの蹴りを受けて吹っ飛び、壁に体を叩きつけられた壁にかなりめり込み、壁に大きなひび割れができた。そして、アガサレの大剣を受け止めた。

「き、貴様~。どこまで邪魔するつもりだ?人間の分際で~。」

 力で押し返されて、アガサレは唸り声をあげながら、罵った。

「天界から墜ちたクソ女神には、遠慮はしないよ。」

 怒りの言葉をアガサレが言う前に、バサガが特大の火球を放った、二人に向けて。アガサレは正面から受け止め、マエミチは、それを直前に中和した。アガサレは吠えるような怒りの声をあげて、雷球をいくつもの飛ばした。マエミチも、それに呼応して、光の十字剣を放った。パサガは雷球を弾き返したが、光の十字剣が体を貫いた。呻くパサガを見て、

「やった!」

と思い、

「次はお前だ。」

とばかりにマエミチを睨んだが、次の瞬間、うめき声をあげて、

「卑怯者!」

 どこから飛んで来たのか、光の剣が突き刺さっていた。その裏切りを見るようなアガサレの顔などは無視して、マエミチはアガサレに当て身を喰らわせて、すかさずその胸に拳をたたき込んだ。“今だ。”とパサガは思って、間髪をいれずに、マエミチに光弾を放とうとしたが、マエミチの足蹴りで壁に激突した。かなりダメージを受けたはずだったが、二人はよろよろしながらも起ち上がろうとした。

 だが、無慈悲にも、マエミチは二人を掴み、床に叩きつけると、一人づつ、剣を刺し貫いた。痛みに耐えかねて、哀れな叫び声を出しながらも、

「貴様。いつか見ておれ!」

「このままではすまんぞ!」

と悪態をつくことは忘れなかった。するとマエミチは、もう一度、二人に剣を突き刺してから、

「ごいつらを拘束しておいてくれ。」

 それを聞くと、4人の女達はいそいそと、もっとも苦しくなるだろう拘束を始めた。

「いっそ殺せー!何をするー!」

「神に…、この屈辱…この罰当たり…。」

 4人は、二人をなぶりものにするように、時々殴って、作業を続けた。

「どうするの?」

「見ての通りだ。腐っても神だ。このくらいなら、直ぐには死なないだろう。勇者達を助けて、魔王を倒してから、どうするか考えるさ。」

 魔王城の中心部では、魔王とその親衛隊が勇者達とそのチームと、まだ激戦を繰り返していた。

「あのイケメン魔王、なかなかやるな。」

 アガレスが育成した魔族戦士や魔獣、バサガが作り出したゴーレム、人工ドラゴンや人造巨人、魔獣が守り、バサガが作り出し、アガレスが強化した魔剣、魔鎧等で戦っていることを差し引いてもだ、と思った。

「ガミュ、ギュアナ、マルバ、ウァレア。勇者達に加勢してやれ。ただ、間違って魔王を倒すなよ。勇者達に、花を持たせないといけないからな。」

「わかっておる。」

「了解じゃ。」

「分かりました。」

「分かってます。」

 4人は、それぞれ副魔王級の者に向かっていった。

「お前はどうするのじゃ?」

 パエラが、マエミチの方を見た。

「そうだな。少し派手に演出するか。」

 駆け出した。新手の魔族の一団の中に斬り込んだ。彼のコトを知らない魔族の将兵達は、せせら笑いながら進んだ。殺戮の予感を感じながら、光の渦の中に捲き込まれ、死を感じる時間の余裕もなく、体を一瞬のうちに削り取られて消えていった。その中に、魔道士がいたが、彼の張っていた防御結界は気安めでしかなかったかのように、何の効力もなく主とともに削りさられて消えていった。

「ここは、我々が食い止めます。勇者様方は魔王を!他の方々は、勇者様方を援護しないか!」

と大音声で叫んだ。

 4人の勇者達と前魔王アマモが魔王に挑んでいた。彼を守るのは、もう側近達だけだった。もう直ぐ決着がつくことも、その決着の行方も、まだ激しい戦いの最中ではあったが、誰の目にもわかった。だが、魔王の傍から逃げ出そうとするものはいなかった。

「魔王様!危ない!」

「逃げて、生きて下さい。魔王様…。」

 二人の魔族の女戦士が、次々に彼の盾になり、彼を庇って死んでいった。

「待っていてくれ。直ぐに後を追いかける。お前達に会えたこと、魔神様達に感謝しないとな。」

 彼はつぶやいた。その後、勇者4人をしばし押し返すほど奮闘したが、長くは続かず、勇者4人に切り刻まれて倒れて、絶命した。

「魔王を倒したぞ!」

 勇者4人が、それぞれが自分が倒したと宣言するように叫び、それに呼応するゆうに皆が叫ぶ中、“あの馬鹿達にしては、まともな男を選んだようだな。”まだ、生きかえらせることが出来るところで、上手く勇者達の目を欺き、彼を別の所に移動させれば、助けることが出来た。彼を守った女達2人ですら助けることが出来た。助けたいとも思った。あの馬鹿女神に、半ば強制的に躍らされていたのだ、そのくらい情状酌量してもいいかもしれないと思った。だが、敢えて彼は助けなかった。

「良いのか?助けても、文句も言わないし、罪は問わんぞ。」

 パエラが、小さな声で言った。

「助けても、連れて行けないからな。」

 この世界には、置いてはいけない。かといって、彼は連れて行けない。彼らの実力では、直ぐに死んでしまうだけだからである。

「ソクラテスのようにでは?」

「彼は、あの魔王なんかよりはるかに強いんだ。」

 その言葉を聞くと、バエラはなにも言えなくなった。

 ガミュ達4人が先を争ってもどってきた。

「まだ、魔王城内外に戦意を持って潜んでいるグループが。」

 ソクラテスだった。

「アフターケアもしてやるか。」







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