第15話 魔王城に突入

 バサガが逃げ出し、自分の周囲がほぼ制圧出来たと思えると、

「そちらはどうだ?」

 ソクラテスに呼びかけた。

「順調に、勇者達を先頭に完全に敵を押しています。魔族の軍は、もう直ぐ退却に移るでしょうな。どうなさいますか?」

「こちらの勇者達の顔を立てねばならないからな。そちらは勇者達に委せて、待って休んでいる。」

「分かりました。私は、引き続き、勇者達の動向を見ています。」

 人造魔獣は、かなり残り少なくなって、引き揚げ始めた。

「深追いするな。」

“魔王城の守りが、今となって心配になったか。あいつらしいな。”

「ウァレア。遠見の魔法で連中の動きを見ていてくれ。ギュアナ、少し先行して様子を探ってくれ。マルバはギュアナの援護をしてくれ。」

と命ずると、

「もう既にやっておる。」

「行くぞ。遅れるな。」

「あんたこそ、あまり手間をかけさせないでよね。」

「我は如何するのだ?」

 残ったガミュが不満そうな顔だった。

「私とウァレアの護衛と勇者様達が、もしもの時の待機だ。」

「なにか残り物みたいな気がするが、まあ良いか。」

 すかさず腕を組んできた。するど精神を集中していたウァレアがそろそろと近づいても来て、彼女も彼と腕を組んだ。

「こちらの方が、集中できるのだ。」

 魔族の軍は、ほどなくして撤退を始めた。追撃をかけてかなりの戦果をあげたものの壊滅までにはいたらなかった。それでも大勝利であった。次の魔王城攻略を前に、士気高揚も兼ねてささやかな戦勝の宴が開催された。

 そこでは、勇者達の活躍が、当然絶讃された。マエミチ達の戦いは、彼らの多くが見ていないのだからやむを得ないだろう。意外なことに、勇者達がマエミチの活躍を褒め讃えた。4者4様だが、誰かを送り込んで観察していたのだろう。それは各王侯達も同様だった。勇者達の態度を見て、口が軽くなったのだ。

 翌日、魔王城に向けて全軍が動き出した。そして、数日後には魔王城を包囲していた。

「一発づつ、でかいのをぶち込むぞ。」

 それに続いて、様々な色の光が魔王城に炸裂した。土煙がおさまると、その部分が崩れ、突入口ができていた。当然、その場所に攻撃が集中される。守りもそこに集中されるので、暇つぶしと言い訳するように呟いてから、二、わ三回別のところに攻撃を加えた。少しは陽動作戦にはなったかもしれないが、魔王城の4カ所から、勇者を先頭に突入していった。

「どうするの?あなたの目的は、あの二人でしょう。勇者に先を越されて、殺されたらどうするのよ?」

 女神パエラの言葉に、

「それなら、それでもいいさ。そう簡単にいくとは思わないし、逃げられないように慎重にしないといけないからな。」

「まあ…そうかもね。私は、魔王が倒されて、彼奴らがいなくなればいいんだから。」

 彼女は溜息をついた。

「でも、あの二人は、どうしてあんなになったのかしら?」

「私が知るはずないだろう。私が知っている二人は、こうなるのも当然かなと思える奴らだった。彼奴らに、あんたのようなまともな女神様の時代があったのか?それを知っているのは、私ではなくあんただろう。」

「う~ん。」

 彼女は唸った。”わたしだって知らないわよ!“だいたい、彼女らのことは名前しか知らなかったし、まして、顔を見たのは今回が、初めてなのだ。彼女達についての悪評は、この役目が押しつけられた直後に多少聞いたらだけだった。マエミチが受けたという行為も知らなかった。“初めからなら、世界を任される女神にはならなかったと思うけど…。”

 魔王城の内部に、勇者達は進んでいるようだった。

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