メルヘンの問題児とリアルの問題児
カリカリ唐揚げ
第1話メルヘンの問題児
白色のぬいぐるみのような肌にこべりついた黒い汚れを丸い手で払い落しながら進んでいく。
両脇に付いているクマを思わせる姿をした同行者をみて挟まれながらゆっくりと歩き、口元に付いた黒い丸から舌打ちの音が漏れる。
口の中にいまだに感じる甘い香りを楽しみつつ顔をにやつかせていると両隣のクマが睨みを聞かせるので再度舌打ちをし、所々黒い汚れにまみれたウサギは同行者が求めるままに歩み続けた。
ウサギが壁に目を向けると白い窓枠から覗くピンクと水色が混じり合った空が視野に入る、空を飛ぶ虹色の鳥と様々な動物のような生き物が笑いながらおいかけっこをしている様を見て鼻で笑うと右隣の灰色のクマから失跡が飛ぶ。
「黙るマル、少しでも反省しろマル」
口を閉じて声掛けに反応しないウサギに灰色のクマは目の灰色の丸を大きくさせるが左隣のクマが肩を叩き目の見開きが治まる。
口元に笑みを作りウサギは地面に敷いてあるレッドカーペットから顔を上げて目の前の巨大な茶色い扉に顔を向けた。
「……これで体を拭くマル、王様にそんな汚れた姿のまま通すわけにはいかないマル」
「けッ、パルパルがこんなに汚れてるのは誰のせいだと思ってるパル」
「お前が何度注意しても盗みを止めないのが悪いマル! 王様だって好きで牢獄に入れたわけじゃないマル!!!」
灰色のクマが肩を怒らせながら怒鳴るなかもう一方の黄色いクマがまぁまぁと言いながら肩を数回叩く、胸元に灰色の丸い手を持っていき息を整えている間パルパルは顔を歪めつつわたされた白いハンカチで体の黒く薄汚れた個所をぬぐっていく。
顔に付いた汚れを綺麗に落とすと灰色のクマにハンカチを渡し、どこかふてくされているパルパルの体を調べて汚れが無いのを確認すると黄色いクマと灰色のクマはすっと静かに手を掲げた。
重苦しい音が城内になりひびき扉が開いていく、音がなりやむといくつもの視線がパルパルに突き刺さる、どの視線も鋭く一瞬足がすくむが気を張り直しパルパルはゆっくりと一歩ずつ部屋の中に足を出す。
幾つもの視線にさらされながら玉座の前に立つと目線を上げて白いたてがみが鮮やかに生え備わっているライオンと瞳がぶつかる。
王を目の前にして姿勢を正しもしないパルパルを灰色のクマは体を掴んで屈ませ、無理やりへりくださせる中体を自由に動かせないパルパルはライオンを勢いよく睨み体の中にある感情をぶつける。
「……その様子だと全く反省していないなパルパル」
「牢獄になんか入れられて反省するわけないパル! 食べちゃったものは返せないんだからしょうがないパル!」
「…………もう食べないと言いつくろいもしないか」
「当たり前パル! ここから出たらまた皆のお菓子を食べまくってやるんだパル!!!」
パルパルの怒号を聞くとライオンは顔しかめつつ視線をパルパルから切ると丸い手を顎下のたてがみにもっていき数回撫で、手を止めるとわざとらしくため息を漏らしつつパルパルに向かい重苦しく言葉を吐く。
「幾つもの注意に罰を与えていまだに反省しないなら仕方ない…パルパル、お前をホワン、並びにオレン追放の処置とする」
どこか疲れたように言い放つ王に対し周りの兵士が同情的な目線を向け、数人の侮蔑の目線がパルパルに飛ぶ。
肩を震わせながら下に顔を持っていくパルパルに流石に現実を知ったかと灰色のクマが掴んでいた手を離した瞬間パルパルは飛び跳ねて暴れまわる。
「やったー!!! ついに……ついに地球に行けるパル!!!」
「ッ……ぱ、パルパル!!! お前解ってるのかマル! 追放ってことはもう二度とホワンには戻ってこれないマル!!!」
全力で飛び跳ねるパルパルを捕まえようと灰色のクマが動き回る中黄色いクマは腹を抱えて笑い体を震わせる、そんな光景を見ている兵士達もハッとしてパルパルを捕まえるように動くがそこは窃盗を繰り返して逃げ回っていたホワンきっての問題児、いくら追い掛け回しても一向に体に触れることができない。
兵士を掻い潜りながら前に進んで玉座の前に立つとパルパルは呆れ顔の白いライオンを相手にとてもいい笑顔を向けて元気よく大声で話す。
「何時パル!? 何時地球に行けるパル!?」
「……はぁ、お前は何時も問題ばかりおこして、そんなにここが嫌いか?」
「嫌い? ホワンの事は大好きパル!」
「では何故そんなに追放で喜んでいる」
玉座に集まる兵士たちに向かいライオンは手を向けて止め、動揺する兵士達をよそに目の前にいる問題児に意識を集中する。
わくわくを抑えられないのか体を左右に振っているパルパルについにライオンは目元に手を置くがパルパルはその腕を掴んで勢いよく揺する。
「王様! 何時パル!!!」
「………パルパル、地球はホワンと違ってつらい事がいっぱいある、それは教えただろう? ホワンが嫌いじゃないなら何でそんなに地球に行きたいんだ?」
「決まってるパル! パルパルは地球で戦隊ヒーローを作りたいんだパル!」
パルパルの宣言に目の前のライオンは呆れ、周りの兵士は驚きのあまり目を大きく丸くしパルパルの事をよく知る灰色のクマはまた何時もの病気が始まったと顔をしかめて額を軽く叩いたき、黄色いクマは笑い声を大きくさせる。
興奮したようにパルパルはライオンの体を揺する速度を上げて行き、気持ち悪さを覚えたライオンはパルパルの腕を退かして悲しそうに眼を細めるとパルパルに語り掛ける、二人の間に流れる温度差にパルパルだけが気づかずにただ話を進める。
「昔広場でロロが言ってたんだパル! 地球にはオレンにはないものがいっぱいあるって、その中でも戦隊ヒーローの話が一番面白かったんだパル!」
「パルパル……戦隊ヒーローは作り物で現実には――」
「ないなら作ってしまえばいいんだパル! ブランの奴らを相手に戦うんだパル!!!」
「パルパル……地球の人間とする契約はとても大切なものだ、それを――」
ブランと争いを続けるホワンは地球に優れた仲間を送り必要なエネルギーを契約者を通してオレンに送らせている。
ただそれには仲間内で選ばれた者だけに与えられる特権であり追放されるパルパルに契約を施す権限は与えられない、そう王様が伝えようとしたところで先ほどまで腹を抱えて笑っていた黄色いクマが口を開いた。
「王様、僕の枠をパルパルにあげるポン」
「ポポン、お前まで何を勝手なことを言っているんだ、そんな勝手が許されるわけがないだろう、皆で決めたことだ急に変えられない」
「どうせ追放するならパルパルに任せてみるのも面白いポン、もしパルパルがエネルギーを集められなかった時は僕が連れ戻してそのまま地球でエネルギーを頑張って集めるポン」
「……仕方がない、パルパル、契約者を決めるときに気を付けることは解るな?」
「直感パル!」
元気よく笑顔で答えるパルパルに王様は眉間にしわを寄せ、黄色いクマは軽く噴き出すとゆっくりと玉座の前の階段を上がり自分たちの王を目の前にしても普段通りの問題児の肩を軽く叩く。
オレンの空に浮かぶ鮮やかな星々を思わせる瞳に向かい笑いかけると黄色いクマは静かに語り掛ける。
「契約者に大切なのは保有する生命力パル、僕達ホワンやブランとは違って地球には魔法がないから代わりに生命力を使うからとても大切ポン」
「生命力パル? それって見て解るパル?」
「元気な子や感情豊かな子なら問題ないポン」
「……つまり直感パル!」
体を再度揺らしながら震えた声でそ、そうポンと答えるポポンと元気よくはしゃぐパルパルをライオンは静かに見ながらも考える、確かにパルパルに任せるのも一興かと。
王は知っている、異世界である地球はオレンのように暖かく優しい世界ではない事を、それ故にブラン達の好む不幸エネルギーの方が摂取しやすい事も。
地球に向かった仲間達はオレンとの温度差に驚き上手く適合出来ないこともしばしばある、ならばマイペースであまり動じず魔法の扱いも上手いポポンをと思ったがこの際ホワン一問題児であるパルパルを送るのは案外悪くないかもしれない。
そう思いながら優しくたてがみを撫でるライオンはいまだにその場で軽く体を跳ねるパルパルに向かい口を開く。
「……一応言っておくが地球に住んでいる人間達に私たちの事は知られない様にな」
「解ってるパル! 正義の味方は秘密が多いんだパル!」
「……ブランと戦う事はあるだろうがあくまでも幸福エネルギーを集めることが大切なのを忘れるなよ」
「ヒーローは人を助けるものパル! 人助けをしたら勝手に幸福エネルギーも手に入るパル!!!」
ズレいているのか噛み合っているのかわからない会話をする中パルパルはライオンと話す中段々と興奮してジャンプする力が増して高く飛び跳ねる。
困惑と憤怒が多く突き刺さるがそんなことを少しも気にしないパルパルにライオンは不安に思いつつもポポンに目をやる、ポポンはそんな飛び跳ねるパルパルを見ながら相も変わらず笑っていてそんな不敬な2人に頭痛がした灰色のクマは目をつむって何とか気を落ち着かせようとした。
メルヘンの問題児とリアルの問題児 カリカリ唐揚げ @aizawabob
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