パラダイス横町の見習い職人(ペンギン)
HiroSAMA
パラダイス横町の見習い職人(ペンギン)
パラダイス横町の朝は早い。
中でもかき氷専門店『
見習い二年目のペンコもそこに紛れ懸命に働いていた。
ただ、他の
なにより、重い氷塊を運ぶには少女の腕は細すぎる。
無理をしては足を滑らせ、かえって周囲に迷惑をかけてしっていた。
◆
店内に運び込まれた氷塊は、巨大ノコギリで
おなじ氷塊から切り出された氷でも、部位によってわずかなバラつきが生じる。
特に『
暑い日には涼をとりやすいように
氷の目利きはかき氷の味に直結する重要な仕事。
それを行うのは立派な眉のペンギンパーカーをまとった店長の仕事である。
「コウテイ、今日は『辛め』が良いのではないでしょうかペン」
ペンコは空の純度を確認しながら、レシピをうかがいたてる。
コウテイは「ペペンペンペン」と、見習いの予測を半分だけ肯定したものの、午後からは天気が崩れて気温が低下するだろうことを告げる。
そして、それに対応できるよう予め甘い氷も用意するよう指示し、開店準備を急がせるのだった。
◆
開店するとパラダイス横町を歩いていた
だが、いかに人気店とはいえ、平日の昼間からかき氷を求める
稼ぎ時はサラリーマンやOLがひと仕事終えた昼以降。
店先には並べられた五台のペンギン型
「ペペンペンペン」
粉雪のように削られた氷片は、ペンギンの愛らしいクチバシから放出されると、ガラスの器に積み重ねられていく。
やがて白麗な氷山ができあがると、井戸水に良質の白ザラメ(粒が大きく糖度の高い砂糖のこと。果実酒や菓子作り、煮物などにも用いられる)を溶かしたスイをひと振り。
最後に季節の果物とアイスクリームをトッピングして完成である。
「ペペンペンペン」
「ありがとうね」
常連
その笑顔は極上のかき氷に対する感謝に満ちていた。
だが、
◆
「やっぱりちがうペン」
昼時の混雑がさばけると、
ペンコはその時間を利用し、先輩の
材料は
素人が適当に欠いただけでも十分美味いかき氷は作れる。
だが、ペンコはベテラン
そのせいで完成に時間がかかり、溶けかけの部分が増えてしまうのだ。
それに全力でハンドルを回したせいで、氷の削れも粗くなっている。
とても
見習いとして店にやってきたとき、非力なペンコが一流の
一流への道がたやすいものでないことは覚悟していたが、それでも二年の歳月を経ていまだ満足に氷も
「ぺぺんぺんぺん」
自らが欠いた失敗作を消化していると、先輩
どうやら仕入れ先から、なにやら確認の電話があったらしい。
ペンコは先輩
片付けを引き受けた気の良い
◆ ◆ ◆
その日、ペンコはコウテイから呼び出しを受けていた。
『
雑用以外の仕事は初めてである。
新しい仕事をもらえたことに対する喜びはあるが、同時に疑問も生じていた。
「その、私で良いんですかペン?」
ペンコはコウテイに確認する。
配達員は現地に氷を運ぶだけではない、その場で
まだ
そして、「ペペンペンペン」という返事もまた、ペンコの喜びを半減させるものだった。
今回の配達先は女子高だという。
そんな場所に、ペンギンパーカーをまとったオス
女子高生とはまことに自分本位で身勝手な生き物である。
そのことは二年前までおなじ女子高生をしていたペンコにも十分理解できる。
その点、同性であるペンコならば性的なハラスメントを受けることはまずない。
だが、中退を選択した身で再びそこに足を運ぶことには
なにより、メスであることを理由に仕事を回されるなど『味は認められない』と言われているようなものである。
見習いの不満を感じとったのだろう。
コウテイはそれを溶かすよう「ペペンペンペン」と告げる。
誰しもおなじ氷を削ることはできないのだ。
例えおなじに削れたとしても、食べる環境はその都度ちがう。
むしろベテランの
そして、コウテイはロッカーから一台の
それは他の
「これは……」
「ペペンペンペン」
戸惑うペンコに、それが彼女のためだけに作られた専用機であることが教えられる。
試すようにハンドルを回すと、それは従来のものよりもズッと軽く回すことが出来た。
小粒なくちばしの内側から粉雪のような氷片が放出される。
その量は通常の
だが、今回の
一度の量が少ないことは、バリエーションを楽しむことができるメリットとなる。
それに、ハンドルを自在に操れるのであれば、
匙を置いたコウテイは満足げに微笑むと、改めて
「わかりましたペン」
ペンコは己の相棒を抱きしめると、『
そして、配達用のペンギンバイクにまたがると、パラダイス横町から勢いよく羽ばたき出ていくのだった。
〈了〉
パラダイス横町の見習い職人(ペンギン) HiroSAMA @HiroEX
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