第4話 こ、これは事故です。
「あ、あの...」
「はい...なんでしょう...?」
俺は今、何故かあの佐藤陽葵を押し倒していた。
さてと、状況を整理しよう。
あれは今から約5分前。
俺は突然逃げ出して行った陽葵を探しに行った。
そして今から約3分前。
俺は自販機の前で佐藤陽葵を見つけた。
喉が渇いたのかと思ったが、一向に買う気配がない。
「はぁ、はぁ、さ、佐藤さん...ど、どうしたの...いきなり...」
「あ!俊くん!な、なんで!?」
「なんでって...突然逃げ出したから...追いかけてきたんだよ...」
俺は息を整えながら会話をした。
「はぁぁ...」
ようやく整った。
というかなんで陽葵はこんなに余裕なんだ?
あっ。俺運動できないんだった。
それに比べて陽葵はスポーツ万能。
なるほどね。神様恨むよ。俺。
女の子に負けるってどんだけ悔しいか分かってないでしょ。
(分かんないでしょうね!!神様ですから!)
なぜか神様にキレてしまった。
落ち着け俺。
余裕を見せろ。せめて、陽葵の前だけでも。
「佐藤さんさ、なんで急に逃げ出しちゃったの?」
「だ、だって...」
陽葵の顔が真っ赤に染まっていく。
そして近くにいる俺にも聞こえない声で、
「な、名前で呼ぶから...」
「?」
俺は聞こえなかったため、もう一度言って。
という顔で陽葵を見つめた。
すると、今度はギリギリ聞こえるくらいの大きさの声で、
「な、名前で呼ぶから!」
名前で呼ぶから?
名前で呼ぶから逃げ出した=呼ばれなくない
呼ばれなくない=嫌い
という解釈になった。
そこで俺は絶望的な顔になった。
血の気が引くような、真っ青になっていくような...
(あぁ、終わったな、俺の初恋...)
俺は明らかに俯いていた。
誰が見ても分かるくらい落ちこんでいた。
(やっぱり俺には、陽葵さんに釣り合う男には慣れないんだな...)
「よ、呼んでくれても...いいよ...?」
俺は光のような速さで顔を上げた。
「え!ほ、本当!?」
おっと、落ち着け俺...
声が裏返ってしまっているではないか。
「ほ、ほんとにいいの?」
今出来るだけのいい声で言った。
「う、うん...俊くんなら...いいよ...」
おっと?
これは勝ったのではないか?
俊くんなら、と言ってくれた。
今すぐにでも飛び跳ねたいが、冷静にと。
「じゃ、じゃあ、これからよろしくね、陽葵さん。」
そう言った途端、陽葵の顔が爆発するのではないかというぐらい真っ赤になった。
「や、やっぱむりぃぃぃ!」
「あ!危ない!」
陽葵が何かのコードに引っかかってしまったのだ。
俺は陽葵の背中に手をまわして、支えていた
だが、なんだろう。
この格好。押し倒したみたいになっている。
「あ、あの...」
「はい...なんでしょう...?」
「も、もうむりぃ...」
「ちょ!陽葵さん!!」
陽葵は頭から煙をだして意識を失ってしまった。
余裕(余裕じゃない)彼と、余裕がない彼女の物語 Mocha @mocha0428
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