第86話

 何も期待しない。

 私たちは私たちで何とかする。

『おお、このあたりの大地の力を戻しておこうかの。あの街の魔法使いがこのあたりの大地の力を根こそぎ畑にと奪っていっておったが。壁をあやつらの魔法が通過することはない。このあたりの大地は甦るじゃろう』

 土の精霊さんの言葉に、ぽつぽつぽつと小さな光が突然無数に現れた。

「王様ぁ、この辺に住んでもいいの?」

「王様、ぼく、ここがいいや」

「王様、王様」

『妖精たちが戻ってきたの』

 つ、つ、土の妖精?

 小さな人間に背中に半透明の羽根が生えているのを想像してたのに……。

 大福くらいの大きさの、ハムスター……も、もふ、も、もふ……

「もふもふだぁ!」

 すごい、かわいい。黒くてまん丸のお目目がくりんくりんで。

「ちょっと、ネウス君降ろして」

 お姫様抱っこなんてされている場合ではない。もふらねば。

 もふらねば。

 もふらねば。

 ネウス君がきょとんとして首をかしげる。

 ん?

 あれ?

 ……まさか……。

「ディラ、降ろしてくれる?」

「あ、うん」

 やっぱりー!

「ディラ、あんた、ネウス君の体のっとったの?出ていきなさい!人としてやっていいことと悪いことが、いや、人じゃないって話か?幽霊としては正しいのか?あー、もう、」

「ごめん、怒らないで、大丈夫、ちょっと借りただけだから……あの、ネウスの意識がないときにしか借りてないから……」

 と、ネウス君の姿でディラがしょぼくれる。

 そして、ポーンと手に持っていた剣を投げると、しゅぽーんと、ディラがネウス君の体から出て行った。

「うわぁぁ!」

 意識のないネウス君は制御主であるディラがいなくなって、後ろに倒れていく。とっさに手を出して支えると、ネウス君が目を覚ました。

「あれ?俺……」

『なんだ、ディラの坊主、お前どうしてこんなところにいるんだ?』

 サラマンダーさんが、ディラの姿を見て声を上げた。

『え?ええ?誰、ですか?』

『ん?お前、私のことそういえば見れなかったな。そうか、シーマと一緒にいたけれど、見たことはなかったか、って、今は見えるのか?』

『赤いマント……まさか、サラマンダー様?』

 えーっと。

 二人は知り合いですかね?

 どうでもいいや。とにかく、もふる!

 近くにいた土の妖精ハムちゃんと目が合う。

 か、かわいい!

 そっと手を伸ばしても逃げないので、そのまま頭に触れ……。

「ああああっ、触れない、触れないよぉぉぉぉっ」

 なんてことでしょう。

 霊の姿は、幽霊も精霊も妖精も見られるのに、触れないときたもんだ。っていうか、妖精も霊体なの……?

 もふもふが。もふもふが。

『それより、ディラはなんでこんなところに中身だけでいるんだ?』

 サラマンダーさんが変なこと言い出した。

 そりゃ、300年前に……。

『最終決戦で決着がついた時点でお前たちの体は自動転送されるようにシーマが魔法をかけてあっただろう?私の炎の結界の中で、ずっと眠ったままになっているはずだが、目覚めないのはお前に心が入ってなかったからか』

 ん?

 んん?

『あ!そうだ!あの時、そうだ!びゅーんって飛ばされそうになって、剣を持って行かなくちゃと思って剣に手を伸ばしたら、体からなんかすぽーんと抜けたような?あれ?僕の体って、どっかにあるの?もう、朽ち果てたとかじゃなく?』

 ん?

 んん?

 たくさんの土の妖精ハムたちが、うんしょうんしょと土を足でちょいちょいと掘り起こす。すると、そこからなんか芽が出て植物が成長していく。

 すごい、かわいいし、すごい。

 あれ?かわいくてすごいって、ディラが私に言ってなかった?

 ……そうか。ディラの目から見ると、私は女じゃなく、小動物系に見えてたってこと?

「すごいね、夢のような世界だ……」

 見る間に植物が成長して、荒れ果てた大地が緑になっていく。

 それを見てネウス君がため息をついた。

「そうだね。これだけ力のある土地ならさ、魔法なんてなくたって、麦も育つよ!ネウス君、魔法が使えなくたって、パンが食べれるようになるって、おばばに教えてあげよう!帰ったらさっそく畑を作って、ああ、でもその前に水源を何とかしなくちゃ!」

『あら、水源なら、私に任せて』

 ちょっと待って、誰の声?

 ねぇ、なんか、嫌な予感がして……。

 左手を見るのが、怖いんですけど……。

 指輪が……増えたりなんて……



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ご覧いただきありがとうございました。第一部完結というか、完結です。


ディラの体を取り戻す旅に出たり、恋が芽生えたり……。きららがその後どうなったかとかいろいろ思い残すことがありますが、おしまいです。

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私の作る魔力回復薬が欲しい?――知らんけど。 とまと @ftoma

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