第85話

「そんなバカな、聞いたことがない」

「聞いたことがない?昔の文献すべてを調べたことがある?まぁいいわ。とにかく、これ、私たち魔力なしが作った魔力回復薬です。まだたくさん作っている途中だし、毎年毎年同じようにたくさん作るつもりで、少しでも売れないかなと思って持ってきたんですけど」

 陛下が口を開いた。

「買う、買わせてくれ!いくらだ?」

 はぁーっとため息がでる。

「だから、取引はしません。初めから、売りに来たと言ったのに。お金も払わず奪おうとした挙句、私たちを攻撃したんですよ?そんな相手に売ると思います?確か、土の精霊の話では、他にも街があるみたいですし。街というか国かな?別のところと取引することがあって、その国が魔力が潤沢になり、他国へ攻め入るようなことがあっても、私たちのせいじゃないですからね?魔力なしと馬鹿にして街を追い出して、挙句に殺そうとして……」

 陛下のおつきのものが慌てて何か呪文を唱えた。

 陛下の前にきららが現れる。

「い、いいのか?この女がどうなっても?このまま魔力をずっと奪われ続けるのだぞ?助けたいと思わないのか?」

 きららが私を見た。

「ユキお姉さん、ずるいっ!」

 ずるい?

「なんで、そんなにいい男と一緒なの?ねぇ、そこの人、ユキお姉さんより、私の方がかわいいし、こっちへ来て」

 きららは、私に助けてなんて言わないとは思ったけれど。

 まさか、ネウス君に目をつけるとは……。うん、なんだかんだいって、そんなに不幸じゃないんじゃない?

「怖い!女の人、怖い!」

 ネウス君が私の背中に隠れた。

 へ?

 女の人怖い?

「ユキ、帰ろう。もう、用事済んだよね?」

 ネウス君が私を抱き上げて、街に背を向け猛ダッシュ。

 ちょ、ちょ、まって、どういうこと?なんで?

「待ちなさいよ!ユキ姉さんのくせに、お姫様抱っこされるとかありえないわ!」

 キーキーとうるさい声が遠ざかっていく。

『ん?追いかけてきたぞ?』

 ノームさんの言葉に街の方を見る。

 ああ、いいんですかね?封印の外に人たちが大量に飛び出してきてますけど。

 いったん封印を解除してもとに戻すとか言ったのかな。

「ノームさん、何とかならない?、関わりたくないの。あ、殺さないでね」

『お安い御用じゃ。魔力回復薬を守るためならなんじゃってするぞーい。ほほーい』

 あ、すごい。

 どどどーんと、20mはあろうかという壁が立ち上がり、街の周りをぐるりと囲ってしまった……。

『ワシの加護がある者は通過できるからの。問題ないぞ』

『爪が甘いね、年寄はこれだから。壁の上を通れる魔法使いくらいいるでしょ。お嬢ちゃん、見ていて。それ」

 えーっと、サラマンダーチャラお兄さんが、壁の上に1m間隔くらいで炎をともした。

『通過しようとすると炎に包まれるようにしておいたよ』

 壁の向こうから、声が聞こえてくる。

「これは俺のだ!」

「よこせ、私が先に手にしたんだ」

 ……何やってんだろうね。もしかして置いて来た魔力回復薬の奪い合い?

 まあいっか。もう、関係ない。完全に縁を切りました。

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