第84話
なんで、あんたたちの犠牲にならなくちゃならなかったのよっ!
「精霊よ、逃げる人たちの退路を断って!」
『了解した。って、あれ?かわいいお嬢ちゃん、誰?シーマが変身したのか?ん~まぁいいや。後で話を聞かせてね~』
え?
今の、誰?
真っ赤な髪をした、ちょっとチャラそうなお兄さんイケメン…が、真っ赤なマントを翻して街の中に飛んで行った。
真っ赤なマント?
『なんじゃぁ、サラマンダーのやつ!どういうことじゃ、って、ユキ、その手の指輪』
ああああっ、やっぱり、嫌な予感が、嫌な予感がしてたのよっ!
仕方がない。
「逃げられると思っているの?降伏すれば攻撃はしないと言ったの。火の精霊サラマンダー様の炎で焼きつくされたい?」
逃げていこうとした兵たちの後ろに、炎の壁が出現した。
「はったりだ、そんなもの、消せ!水魔法の得意な者たちで消し去れ!」
陛下の声に、炎の壁に向かって水魔法を繰り出す兵たち。
『あはー。ちょっと精霊の力をなめてもらっちゃ困るというか、知らないのかねぇ、精霊というものを』
街を覆いつくすような巨大な火の玉が空に出現した。
煮えたぎるようなという表現をしたくなるような、なんというか、こう……ぱちぱち爆ぜた音を立てる焚火のようなかわいらしいものではない。
何キロにもわたるような大きな、まるで太陽のような火の玉だ。
「火の精霊の力を見くびらない方がいいですよ」
『ぬぅ、サラマンダーめ!ワシの方がすごいってことを見せてやる』
って、おじいちゃん、対抗意識燃やさなくてもいいから!
土人形ゴーレムがむくむくと巨大化して、炎の玉に頭が届きそうに……
……ってね、陛下たちの戦意は喪失してる。そうだよねぇ。
「ありがとう、もういいわ」
私の言葉で、火の玉もゴーレムも消え去った。
「精霊……まさか、精霊と契約を……その指輪は……」
陛下のおつきの者がガタガタと震えている。
「あなた方を脅すつもりはないわ。ただ、もう、取引するつもりもなくなったけれど」
魔力が足りなくて困っている理由が、権力維持のためなんて。
みなが幸福に暮らすためじゃないなんて。
「と、と、取引?どういうことだ……街で暮らしたいというのならば、一時的に封印を解いて、中に入れてやっても」
ばっかじゃないのか。
それほどまでに中の暮らしに価値があると信じてるんだろうか。
収納鞄から、魔力回復薬をさらに取り出す。もちろん私たちが作ったものだけ。
持ってきただけで100本近くあるだろうか。
「そ、その大量の魔力回復薬は……」
誰のつぶやきだろうか。
「私たち、魔力なしは、魔力がないから魔力回復薬を”作る”ことができるんです」
私の言葉に、おつきの者が叫ぶ。
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