第83話
聖女だとかそんなことではなく、本当に、純粋に、魔力があるということだけが目的だった?
「食料が不足し始め、魔力を供給できない魔力なしを街から追い出し始めたんですか?」
「当たり前だろう。役に立たないクズどもに食わせる余裕なんてないからな!」
……そうですか。
でもね。
瓶のふたを開けて、傾ける。
トクトクと音をたてて、魔力回復薬が地面に吸い込まれていく。
「何をする!お前ら、あの蛮行を止めろ!」
陛下の声に、周りの人間が私に向けて魔法を放ち始める。
右手で左手の指輪に触れる。
「【開】守って」
『うおう!なんじゃ、ワシの大切なユキに何をするんじゃ!土人形ゴーレム、愚かな人間どもを』
「あっと、土の精霊の作り出したゴーレムが現れるから、気を付けてくださーい。降伏すれば、攻撃しないんで!」
と、声をかける。ノームおじいちゃんにも心の中で、降伏した人は攻撃しないでねと頼んでおく。
ちょうど、そのタイミングで、ゴーレムという土人形……でかいな。5mほどのごつごつした人の形をした岩が6体姿を現す。
「うわぁーーーっ」
「土の精霊だと?」
「助けてくれー」
戦意喪失して逃げ出す兵に、陛下が口を開いた。
「逃げるな、そんなに街を追い出されたいか!背を向けた者は、外民だぞ!二度と街で暮らせなくなるぞ!」
そういうことか。
すとんと胸に落ちた。
何故、そこまでして封印を維持するのか。
外にモンスターが出るのを恐れているわけではないんだ。
いいや、もしかすると、街の中の人……国民は外に出たら生きてはいけないと恐怖を植え付けられているのかもしれない。
だけれど、上層部、陛下やその周りの人間、天上民とかいう立場の人は、外にはもうモンスターはいないということは知っているのだろう。
それなのに、結界を解かない理由。
権力を握り続けるためだ。
中にいる人間は特別だと。外に出された者たちは自分たちより下の人間だと。
外での暮らしはひどいものだと。モンスターに襲われて死ぬぞと。
中で暮らしていたいなら言うことを聞け。そんなことをしたら外に出すぞ……みたいな、そういうために……。
自分たちの地位を安定させるために、そのために便利な、外に出ることはできるけれど、外から中に入ることができない結界を維持し続けているんだ。
ばかばかしい。
なんで、犠牲にならなくちゃいけないのよっ!結界を維持しようなんてしなきゃ、結界に回す魔力を食料を使うのに使えば……。魔力ゼロの人にも食べるものはいきわたったんでしょう?
おばばさんが守りたくても守れなかった小さな命たち……。
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