第8話
「シャー」
目を覚ましたところで、塀の上にいた一匹の猫に威嚇された。
思わず仰け反り、尻餅をつく。あれ? 既視感を覚え、寝惚け眼を塀の上へ集中させる。
逆立つストライプ柄の茶色の毛並。こちらをねめつけるブルーの瞳。
見覚えがあるような、ないような。しかし先程まで見ていた夢と同様、思い出せない。
そもそも、どうして僕は道路の真ん中で突っ立ったまま眠ってしまっていたのか。
それもこんな寒い日の朝方に。
おそるおそる立ち上がり、ズボンの汚れを払う。
「おーよしよし。落ち着いて」
毛並を逆立たせる猫と自分に言い聞かせ、塀に近寄る。
しかし、ほんの僅か数センチのところで、猫が塀の向こう側に立ち去った。
野良猫を見るのは初めてではないが、これ程までに警戒心が強いやつには出会ったことがない。
それとも、知らず知らずの内に恨まれるようなことをしまったのだろうか。
「まさかな」
呟くのと同時、後ろの方からサイレンの音が聴こえてきた。
振り向くと、赤色灯を回転させ、猛速度で走行するパトカー数台とすれ違う。
何か事件が起きたのか。ああ、そういえば、最近ここらには放火魔が出るのだったか。
脇に置いていたバッグを担いで、パトカーの走り去った先、海岸線沿いのバス停に向かって僕も歩き出す。
もしかしたら、犯人がバス待ちの乗客に混じっていて、今まさに取り押さえられているのかもしれない。そんな馬鹿げた空想をしながら、乾いたアスファルトを一歩一歩踏みしめる。
健全な一般市民としては、一刻も早くに犯人が捕まることを心から願うばかりだ。
――了
罪人達の走らない棺桶 ぴよ2000 @piyo2000
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