第9話 つのる思いと夜の帳

湊は湯船に浸かりながら六花にどうやって感謝しようか考えた。絶望に飲まれていた自分を励まし、尽くしてくれる人なんていただろうか。思いを巡らすたびにどんどん分からなくなってしまった。長湯の性(さが)だと気づいたころにはもう体が動いていた。六花は来客用のパジャマを貸してくれた。湊は彼女の女子力の高さに驚きつつもいつの間にかリビングに敷かれていた布団に腰を下ろした。つかの間の安らぎを感じていた。頭が少々ぼーっとしているせいか、簡単な「ありがとう」の言葉が出ない。スタスタとスリッパの音が遠くに聞こえてバタンと扉を閉じる音が聞こえた。六花はもう寝室に行ってしまったようだ。流石に10月の夜。だんだんと冷えてくるものだ。湊は湯冷めしないように早く布団にくるまった。頭が良いとは言えない湊だが、そういうところはちゃんとしている。まったく面白いものだ。あくびで眩んだ眼をこすりながら手を伸ばす。ダイニングテーブルにあったシーリングライトのリモコンをとった。最新式のものだろうか、デザインが先進的だった。やはり人の家のものだから見慣れなかったが、流石に消灯の二文字はわかるものだ。その二文字を押して数秒。意識を失うように深い眠りへと湊はついた。——

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清流の音に雪の花は舞う @sui_vc_light

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