シクラメンの香り

○月○日日曜日︰晴れ


12時15分、母は私に興味が無いようだ。妹にだけお昼が出来たことを伝え満足している。どうやらこれから母のほうの祖母の家に行くらしく、忙しそうに支度をしている。家族は私に声をかけない。祖母の家に行くことを伝えず、母と父と妹で祖父の誕生日を祝いに行くと喜んで話している。いつものことだから私は慣れっ子だ。1人置いていかれたって文句ない。なんて、心の中で強がることしか自分には出来ないことが悔しくて辛い。本当は泣き出してしまいたい。そんなことを考えながら、食卓へ向かい、料理と言えるのかどうか分からない手抜きの大根サラダを口へ運ぶ。千切りにした大根にごまドレッシングをかけただけにしては美味しい。少し気に入った。私が黙々とサラダを食べていると、隣の部屋のデスクから父が母と何か話始める。


━「さっき、母さんと話してたんだけど、美穂のお母さんにシクラメンの花を貰ったお礼がしたいんだって。」

━「そう。で?」

と母から冷たい返事が帰ってくる。少し不機嫌そうな表情を浮かべ、父は話を続けた。

━「なんか、母さんがお母さんのうちに行くなら途中で何か物を買ってお礼を届けてくれないかって」

そう父が話すと、母はさらに冷たい声で

━「は?なんで私がやんなきゃいけないの?」

と心のない言葉をとばした。別に、ついでなのだからやってやればいいのに、と思うが口には出さない。面倒は嫌いだ。父は呆れて返す。

━「少しお店によって買ったものを渡すだけだよ。」

そんな父の声は母を落ち着かせようと、静かで低く優しい音だった。母は見ているテレビも消さず、早く話が終わらないかというように早口で喋り始める。

━「私の親と、あんたの親のことなのに私がやんないといけないのか理由が分からない。この前、お礼にお母さん届け物しに行ったんじゃないの?出かけてたじゃん。」

確かにそうなのだ。先日祖母はそう言って家を出たのだが、届け物はできず帰ってきていた。

━「けど、まだ届け物出来てないんだって」━「へぇ、いつもデイサービス行かないで出かけてる癖に届け物ひとつも出来ないんだ。私がやらなくてもお母さん届け物くらい出来るんじゃない?元気じゃん」

そう言って息をするように笑う母に私は怒りを覚える。

━「いや、だったらいいや」

父も諦めて1階へ降りていった。人の苦労も知らず人を見下すこの人間は何もなかったかのようにテレビを真顔で見続けていた。人の悪いところしか見えない、人を否定し続ける悪魔これが私の母である。


行ってらっしゃい。心の中で唱えた。家族が心のどこかで行ってきますを言っている、そう願いを込めて唱えた。今日も私の人生は母に壊されそうだ。玄関がしまった音が静かな家に響く。



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壊れた家族 神楽 雪 @6261114

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