——拾う心と蓮の花——

 ミアは話を終え、静かにジョーとモモの返答を待つ。モモはどうすれば良いのか迷っていた。


「ねぇねぇ! ドクターって感情無いの?」


 ミアの話を聞き、質問するジョー。ドクターは答えなかったが、ミアが頷く。


「そっかー、だからシールドが発動しなかったのか。僕達のシールドって死んだお父さんのGiveギヴなんだけどさ、相手の敵意に反応して発動するんだって」


 先程まで戦っていた相手に、シールドの情報をペラペラ喋るジョー。ミアの話を聞き、何故発動しなかったのか納得がいく。


「でもさ、感情が無くなったとか落としてきたって言ってたけど、僕の攻撃が当たってからはあったと思うよ心。だってシールドが発動してたもん」


 黙って聴く三人、ドクターですら少年の言葉に耳を傾けていた。


「落としたんなら拾えば良いよ、無くしたんなら探せば良い。僕が手伝ってあげるからさ!」


 ミアは涙が流れていた。幼い少年の言葉に、心が揺れている。


 モモは黙ってジョーの言葉を見守る。何故かそれが良いような気がしていた。


「それとドクターって職業名でしょ? なんか呼び難いよ。そうだな……土偶どぐうみたいだからって呼ぶね! ドクターと響きも似てるから決まり!」


 姉と一緒で、勝手に人の呼び名を決めるジョー。失礼なセンスもそっくりだった。


「どうでもいい」


 ドグはジョーの言葉を聞き、口を開く。


「あっ、『どうでもいい』禁止。もし破ったら」


 ジョーはミアの顔を見る。


「こっちのミアさんを殴るね」


 ジョーはミアを指差して宣言する。


「馬鹿なっ! なぜミアを殴る? 彼女は関係ないだろう!?」


 ジョーの自分勝手な発言に、思わず声を荒げるドグ。久しぶりに怒鳴る義兄の姿に驚くミア。


「そうして! いくらでも殴ってくれて構わないわ!」


 ミアがドグに負けじと声を張り上げる。


「何を言ってるんだミア? 私が何と喋ろうが彼らには関係ないだろう!」


 訳の分からない状況に、心が渦巻くドグ。


「いいや関係あるね。勝ったもん僕達」


 ニカっと笑うジョー。


「そんな約束はしていない! 馬鹿げてる……」


 ジョーの言葉に混乱するドグ。その瞳に、少しずつ光が戻っていた。


 三人のやり取りを見て、何か良いことを言おうと口を開くモモ。緑の光が煌き、シールドが発動する。四人の前に落ちる木箱に入ったお昼ご飯だった。


「フフッ、タイミング……。アイツ帰ったら殺す」


 丁度その時、レンが屋上に捕らわれた五人と一緒に出てきた所だった。ヒナと同じくらいの男の子も一緒にいた。


「もうお腹ペコペコだよ! みんな揃ったし、ご飯でも食べよう!」


 モモとジョーはせっせとお弁当を広げる。サンドイッチやおにぎりが、いつもより多く入っていた。母の偉大さを感じながら食べ物を配るモモ。


 食事をしながら経緯いきさつをレンに説明するモモ。ドグは未だにブツブツと呟き、混濁こんだくしていた。


「何なんだこの状況は? 周りはモンスターの死骸だらけ、目の前にはさっきまで戦っていた少年。……何故私の手にはオニギリが乗っているんだ?」


 手に乗ったオニギリを見つめミアに尋ねるドグ。


「私が乗っけました」


 笑って返事を返すミア。


「ねぇ、この病院燃やしちゃおうよ」


 ジョーが突然言い出す。


「駄目だっ! この病院は妻が眠る場所なんだ! 絶対に壊させない!」


 目を見開き、怒鳴るドグ。


「だから燃やすんだよ。じゃないと先に進めないでしょ? 奥さんも言ってたじゃん『ドンドン人を助けなさい』って」


 ジョーの言葉に胸が締め付けられるドグ。


「師匠、燃やせるかな?」


 揺蕩たゆたうドグはミアに任せ、レンに聞くジョー。


「この中に火が出せる奴いるか?」


 レンが助けた五人に問いかける。ヒナの友達が手を上げ答える。


「僕だせるけど、ちっちゃな火だよ?」


「充分だ。みんな下がってろ!」


 レンはみんなを病院から遠ざける。両手を前に出し叫ぶ。


【紙吹雪!】


 レンの手から大量のちり紙が舞い散り、病院全体に降り注ぐ。手の平から小さな炎を飛ばし火をつける少年。炎はちり紙に燃え移り、ドンドンと大きくなっていく。


「後は中のモノに燃え移るだろうよ」


 レンは少年の肩を叩き、一緒にみんなの所へ帰ってくる。


 青く深い夏の空、ユラユラと舞い散る赤い炎。


 ドグはボンヤリとその光景を眺めていた。


 ミアがドグの手を握り、Giveギヴを使って花をその手に乗せる。


 ドグは手に乗るはすの花を見つめ、ボトボトと大粒の涙を落としていた。




 


 


 

 







 

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