こどものおはなし

みっどないと

第1話 北風と太陽

昔、北風と太陽が賭けをしました。

どちらが、あの旅人の外套を脱がせることができるだろうか。


まず太陽が優しく光を投げかけました。

すると旅人は、外套の頭巾を深くかぶり、光を避けました。


ならばと太陽は、もう少し高い所から旅人を照らしだしました。

しかし旅人は、さらに頭巾を深くかぶり、手拭で口元を覆います。


むきになった太陽は、ジリジリと灼けつくように強く強く照りつけました。

これでは、外套の中は、たまらない暑さでしょう。


しかし旅人は、日陰を求めて逃げ回るばかりでした。

真っ赤になってしまった太陽に、北風が話しかけます。


どうやら私の番のようだな。


太陽は暑さと悔しさで真っ赤になりながら退場し、

大地は夜になりました。

美しい月が、静かに旅人を照らします。


北風は、そこに雲を吹き運び、月を隠してしまいました。

すると暗闇の中で、旅人はようやく息をつき、小さな焚火の前で、自ら外套を外したのでした。


賭けは、北風の勝利です。


太陽は、この結果に納得ができません。

あまねく世界を照らし、恵みを垂れる偉大な太陽です。

なにゆえ、お前にかなわぬのかと北風に問いました。


北風は悲しげに答えました。


太陽よ

明るい世界しか知らぬお前は、知らなかったのだろう。

あの旅人は、安楽の地を追われた、罪人というものだ。


人とは愚かなものよ。

自ら罪を犯しながら、自らの罪を正視することに耐えられぬ。

耐えられぬが故に、あてのない旅を続ける。


太陽よ

地に足をつけ、穏やかに生きる者であれば、お前の光の暖かさの中で外套を外したであろう。

しかしあの旅人にとって、お前の光は、ただ苦痛となるのだ。


お前は、隠し逃れんとする罪を、その弱さと醜さを、光の中に晒してしまう。

あの者にとっては、あの闇の中のささやかな焚火こそが安らぎなのだ。


やましさを抱えた者は、自分の愚かさを見る事を、醜さを晒される事を恐れるあまり、お前の光を憎むのだ。

私はただそれを

隠してやったにすぎぬ。


いずれ・・・

かの者が己の愚かさと向き合い

悔い改める事ができたならば。


しかし太陽よ

光を与える事しか知らぬ太陽よ

清く明るく正しき太陽よ。


今は、お前にできる事は何もない。


お前は、お前を必要とする者を照らすがよかろう。

そして雨雲の下で起こることを

知ろうとなどはせぬことだ。


太陽よ

いかなお前といえども

全てを照らしだしてよいものではないのだよ。


太陽は完敗を認め、北風に一目おくようになりました。


それからです。

北風の強く吹く季節、太陽が光をひそめるようになったのは。

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こどものおはなし みっどないと @mid_knight

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