Buddies
@smile_cheese
Buddies
独りでいることには慣れていた。
神様以外は信用できない。
山﨑天は今日もポストを覗き込む。
当然のようにポストの中は空っぽだった。
何かを期待するように彼女は毎日来るはずのない手紙を待っている。
ため息をつくと、彼女はいつものように協会へと向かった。
これもまた彼女にとっての日課だった。
元は神に使える天使という存在だった彼女は、神にとても従順だった。
他の天使たちが罪を犯さないよう、監視役としての任務も任されていた。
しかし、唯一心を許していた天使が犯した罪を見て見ぬふりしてしまったことで神の怒りに触れてしまい、25人の天使たちと一緒に天界から追放されたのだ。
それから、彼女は神に許しを乞うために協会へと足を運び、祈りを捧げるようになったのだった。
そんなある日、いつものようにポストを覗き込むと1通の手紙が投函されていた。
それは天が待ち望んでいた神様からの手紙だった。
しかし、期待とは裏腹に手紙に記されていたのは、更なる試練だった。
『天界に戻りたければ共に堕落した天使たち全員を集めよ』
『全員を集めることができなかった場合、主はその命が尽きるまで人間として生きることになる』
25人全員を集めなければ天界には戻れない。
これこそが監視役としての任務を怠った罰なのか。
天は酷く落胆したが、天界に戻るためにはその試練を受けるしかなかった。
天は覚悟を決めると、堕天使たちを探す旅へと出発した。
天「やあ。元気かい?」
最初に見つけたのはホノという堕天使だった。
彼女こそ、天が追放されることとなったきっかけを作った天使である。
ホノは人間に興味があり、一度だけ地上に降りて人間と言葉を交わしてしまったのだが、天はそのことを神には報告しなかった。
天「あのとき、素直に報告しておけばよかった」
ホノ「ごめんね、私のせいで」
天「そもそも、なんであんなことを?」
ホノ「私ね、人間とお友達になってみたかったの」
天「友達?そんなことのために罪を犯したの?馬鹿みたい」
ホノ「ごめん」
天「もういいよ。それより、あんたも手伝って」
ホノ「手伝う?」
天「他の堕天使たちを探すのよ。そうすれば、私たちは再び天界に戻ることができる」
ホノ「わかった。あなたのためなら何だってする」
こうして、2人は世界中を飛び回り、1人、また1人と堕天使たちを見つけ出していった。
そして、天はホノを含めた24人の堕天使を集めることに成功したのだった。
その頃には天も他の堕天使たちと打ち解けるようになっており、次第に25人の間には友情が芽生え始めていた。
カリンという堕天使とは恋の話もした。
天はこれが人間たちの言う『仲間』というやつなのだと思った。
そして、そんな仲間たちと一緒に天界に戻りたいと強く願った。
ところが、最後の1人であるひかるの元を訪れてとき、事態は急変する。
ひかる「私はここに残るわ。この汚れた空が案外気に入ってるのよ」
なんと、ひかるが天界に戻ることを拒み、人間として生きていく道を選んだのだ。
ひかるを連れていかなければ天界には戻れない。
天は全てを理解した。
神はこうなることを知っていたのだ。
天を許す気など最初からなかったのだ。
天「そうか。それじゃあな」
天は覚悟を決めた。
自分の身勝手な願いのために、ひかるを無理矢理連れていくわけにはいかない。
せめて、自分以外の24人だけでも天界に戻そうと、神ではなく自らの心にそう誓った。
天は空に向かって中指を立てているひかるに別れを告げると、神様との約束の地へと向かった。
約束の地に着くと、天は仲間たちに試練のことを告げた。
皆、困惑した表情だった。
天が戻れないことを知り、泣き出す者もいた。
そんな仲間たちを天は優しい顔で見つめていた。
天「私なら大丈夫。独りには慣れてるから」
天は空に手のひらを掲げた。
いよいよ24人が天界に戻るときが来たのだ。
空が眩い光りに包まれる。
天(さようなら)
そのときだった。
??「なるほど、そういうことね」
声のする方を振り返ると、そのにはひかるが立っていた。
天「ひかる?どうして、ここに?」
ひかる「別れ際の顔が悲しそうだったから、何かあるなと思ってこっそり後をつけてきたのよ。そういうことなら最初から言いなさいよ。私が悪者みたいじゃない」
ひかるはそう言うと、天の手を強く握った。
ひかる「みんなで一緒に帰るわよ」
天の顔は涙でグシャグシャになっていた。
ひかるは天を強く抱きしめた。
天「ありがとう」
そのとき、天たちの目の前に神が現れた。
『お前たちの犯した罪を許そう。さあ、天界に戻るがよい。ただし、天とひかるを除いてな』
天「な、なぜですか!?」
『天が我を呼び出したとき、まだひかるは現れていなかった。つまり、試練は達成されなかったということだ』
ひかる「そんなのあんまりじゃない!」
神に殴りかかろうとするひかるを天が制止する。
天「ひかる!大丈夫。大丈夫だから」
『神は全てのものに平等なのだ。特別扱いはしない。人間としてその罪を一生背負うのだ』
この言葉を聞いて、天の中で何かのスイッチが入った。
天は神の目の前で試練の書かれた手紙を破り捨てると、中指を立てながらその場を立ち去っていった。
天「二度と神なんて信じない」
ひかるも中指を立て、天の後を追った。
願いは叶わなかったが、天はなんだか清々しい表情をしていた。
離れていてもみんな仲間だ。
もう独りじゃない。
ひかる「かっこよかったわよ」
天「あんたの真似しただけよ」
ひかる「ふふ、これからどうするの?」
天「さあね。あんたは?」
ひかる「私は…ねえ、あれ見て」
振り返ると、天界に戻ったはずの仲間たちがこちらに向かって駆け寄って来ているのが見えた。
天「みんな…なんで?」
ホノ「私たち、仲間でしょ。みんな一緒だよ」
カリン「天界だと恋もできないしね」
ひかる「よく神様が許してくれたわね」
ホノ「私たちが走り去っても何も言わなかったわ。もう私たちには興味がないみたい」
ひかる「これで本当に神に見放されたってわけか」
皆、お互いの顔を見合わせて笑い合った。
さあ、ここからもう一度始めよう。
私たちは自由だ。
何も持ってないけど、
みんなとなら、どこへだって行ける。
生きよう、歩こう、未来へ。
私たちは、仲間だ。
天「で、これからどうするの?」
そのとき、どこからか櫻の花びらが風に乗って運ばれてきた。
その花びらはとても美しい色をしていた。
ひかる「とりあえず、みんなでお花見しない?」
完。
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