告白



甘々日和


告白



今日は先輩と出かける日だ。ボクは普段より早く起き、目を覚ますためにシャワーを浴びる。昨日はドキドキしてベッドに入ってからしばらくは眠れなかったので、ちょうどいい。

軽く朝ごはんを食べ、テレビを流しながら準備と家事をし、気を紛らわす。


(少し早めに出よう、待たせたら悪いしな。)



――――――――



由良里も同様、普段より早くに起床しシャワーを浴びる。朝ごはんを食べながらテレビで占いをチェックしていた。

【今日の星座ランキング1位はさそり座のあなた!密かに想っている相手と距離が縮まる予感、ラッキーアイテムは緑のアクセサリー!… 最下位はうお座のあなた。突然のアクシデントに注意!少し考えたらわかるから冷静になってみて!お助けアイテムは黒のカーディガン!】


(12位かぁ、あんまり信じてないけど一応黒のカーディガン着ようかな…)

占いは番組によって違うのであまり信じてはいないが、見てしまったら少しだけ気になってしまう。


服装は昨日から考えていたが、少しだけ考え直そう。デートというわけではないが、初めてのお出かけだ、派手過ぎない格好にしよう。それに黒のカーディガンも着れるようにしたいし。

化粧は元から薄めなのでいつも通り準備を進める。


二人ともそれぞれ考えながら約束の時間が近づいてくる。



(もし早めに来てくれてたら待たすの嫌だしもうすぐしたら出よう)


律は約束の30分前には着けるように支度を整え家を出る。


(よかった、まだ来てないみたい。一応飲み物だけ買っておこう。)


二人分の飲み物を買い、カバンの中に入れておく。



由良里も身支度を終え戸締りの確認をしてから約束の場所へ向かう。

(もうすぐ着くし連絡入れておこう、もう着いてくれてるのかな?待たせちゃってたら悪いし。)


【おはよう。もうすぐ着きます、遅れても大丈夫なので気を付けてきてくださいね。】


送ってから少しすると、律からの返信が来た。


【おはようございます。ボクももうすぐ着きます、急がなくても大丈夫なので先輩も気を付けてきてくださいね】


―――――


「おはよう?こんにちは?かな、春夏冬君。お待たせ、楽しみで少しだけ早めにきたんけどもう来てくれてたんだね。ありがとね」


由良里は薄緑色のロングスカートに白のプルオーバーパーカーに黒のカーディガンを羽織っていた。おっとりしている先輩らしい可愛い服装で少しドキッとする。


「おはようございます。ちょうどさっき着いたところなんでよかったです。ボクも楽しみだったので少しだけ早めに出といてよかったです。最初に会ったときから思ってたんですけど先輩の私服やっぱり可愛いですね、似合ってます。」


楽しみで早く出すぎてしまったが先輩も早く来てくれたことが嬉しくて口角が上がってしまう。あまり見られないように少しだけ後ろを向いてごまかす。


「…ありがとね、ちょっと恥ずかしいな。春夏冬君もよく似合ってるよ」


「ありがとうございます。喉乾いてないですか?飲み物よかったら飲みますか?」


ボクはカバンの中に入っている温かいお茶を差し出す。由良里は礼を言ってお茶を受け取り、少しだけ飲んだあとにカバンにしまう。


「どこ行きたいかとかありますか?特にないなら少し歩いた場所に喫茶店があるんですが。食べたいものとか行きたいとこあれば先輩の行きたいところに行きましょう。」


「特にはないかな、お言葉に甘えて案内してもらってもいい?」


由良里は嬉しそうに返事をする。それが嬉しくて、それまでもだが心臓が高鳴りっぱなしだ。だが心地いい。律は張り切って由良里をエスコートする。


「昨日はよく眠れましたか?」


「おかげ様でよく眠れたよ、早く起きてゆっくり準備できたよ。けど占いで12位だって少しショックで出てきたの。ラッキーアイテムが黒のカーディガンだったから急いで着ていく服だけ変えたけど。春夏冬君はよく眠れた?」


「ボクもよく眠れましたよ、いつもより早起きしたんですが楽しみで時間たつのが遅かったです。もしかしておんなじ占い番組見てたかもですね。ボクはラッキーアイテムが緑のアクセサリーだったので緑のピアスだけつけてきました」


そんな他愛無い会話をしながら、目的地のカフェに着く。


「いらっしゃいませ。お二人様でよろしかったですか?あちらの席へどうぞ」


「先輩何頼みますか?ゆっくり選んだらいいですからね。」


「ありがと、んー、ホットミルクとサンドイッチにしようかな。春夏冬君はどれにする?」


「じゃあボクはアイスコーヒーとサンドイッチにしようかな。」


二人で昼食を食べ、ゆったりとした時間を過ごす。


「春夏冬君って変わった苗字だよね?初めて聞いた。」


「前に聞いたんですが、秋が入ってないからって理由で『あきなし』っていうらしいです。珍しいから初めはよく間違えられるんですが気に入ってます。」


「へぇ、いい苗字だね。私は秋月だから二人足したら全部揃うね、なんか運命みたいだね。」


無意識に言ってるんだろうか。想っている人にそんな風に言われたら余計に意識してしまう。

お互いの話をしているともう3時間ほど経っていた。楽しい時間は早く過ぎるというが本当に早い。


「ちょっとお手洗いに行ってくるね。」


そろそろ会計を考えていたので由良里が席を立ってからボクは会計をすまし席に戻って待つことにした。


「おかえりなさい、そろそろ出ましょうか。他に行きたいとことかありますか?」


「そうだね、ちょっと散歩とかしたいかなぁ。それでもいい?」


「はい、もちろんです。ボクもまだゆっくりお話したかったので。お会計はさっき済ませたので大丈夫ですよ。」


「そんなの悪いよ、いくらだった?ちゃんと払うから。お店も連れてきてもらってお会計もしてもらってなんてできないよ。」


「いっぱいお世話になってるんだから大丈夫です。普段のお礼も兼ねてです。それに一応男なんでちょっとくらいいい格好させてください。さ、出ましょう。」


むすっとした表情の由良里の手を引き二人で店を出る。

そんなところもかわいらしく見え、また惹かれていく。

店を出て二人で話しながら30分ほど歩き、公園で一休みをする。


「春夏冬君とは仕事の話ばっかりだったから今日はいろいろ知れて嬉しかったし楽しかったよ、ありがとね。」


それを言いたいのはボクも同じだ。先輩のいろんな所を知れて、前よりもさらに好きになっていった。まだ言えないが告白したら今までの関係は崩れてしまうのかな。でもずっと抑えられそうにないので、少しずつ好きになってもらえるように頑張ろう。


「ボクもすっごい楽しかったです!先輩の良いところがいっぱい知れました。もしよかったらまた誘ってもいいですか?無理には言いませんので」


「いいの?春夏冬君さえよかったらまたいつでも誘ってほしい。今日ずっと楽しかったもん。無理なんて言わないから、絶対誘ってよ?」


少し意地悪気に顔を近づけてくる。わざとやっているんだろうか。そんなところも全部可愛く見えてくる。


「わかりました。あんまし覗き込まないでください。照れます。最後に晩御飯の買い物だけして帰りましょうか。」


ボクはあまり見られないように急いで話題を変える。


「そうだね、夕ご飯の買い物だけして帰ろっか。いつもいってるのは〇八スーパー?一緒だね。私たちの家思ったより近くてびっくりしちゃった。」


二人でそれぞれの夜ご飯の買い物をして由良里の家まで話しながら帰ってきた。


「今日はありがとね、それに家まで送ってもらって。すっごい楽しかったよ。」


「ボクもです。また誘います。よかったら構ってくれたら嬉しいです。」


「なにその可愛い言い方。もちろんだよ、ほんとにまた誘ってね?約束だよ。」


ニコッと笑いながら言う由良里の顔を直視できずに照れながら返事をする。


「かしこまりました。冷やさないといけないものもあるでしょう。そろそろ帰りますね、今日はほんとにありがとうございました。」


顔が赤くなってはいなかったか?見られてしまわないように急いで視線をそらしお別れの挨拶をする。


「そうだね、ほんとにありがとね。春夏冬君、気を付けて帰ってね。」



ボクは少し早足で帰り、ベッドにもたれかかる。今日一日何回ドキドキしたんだろうか。次から会社で出会ったら前よりも意識してしまうだろう。でも、早く会いたいと思ってしまう。



それから2ヶ月ほど連絡を取り合い、2週に1度ほどは一緒にお出かけをしたりと以前よりお互いのことも知り、お互いがさらに惹かれていった。


何度目かのデートの終わりに、いつも通りに由良里を送っていった時に家の前で律が真面目な顔をして由良里に話を始める。


「あの、先輩少し真面目な話があるんですが。」


「ん?どうしたの?お仕事の話?なんでも聞くよ。」


由良里はいつものニコッとした笑顔から、少し真面目な表情になる。


「えっと、その、あのですね…」


言いたのに言葉が上手く出てこない。ちゃんと言うんだ。

ボクは不安になりながらも少しずつ言葉を紡ぐ。


「先輩に出会って、お世話になって、一緒に出かけたりして、色んなところ知って嬉しかったです。それで、断られたら職場で気まずくなるかなって思ってずっと言えなかったんですけど、その、ボク先輩のこと好きです。急にごめんなさい、返事、今じゃなくて大丈夫ですから。それじゃ、」


ボクはなんとか言葉にした後逃げるようにその場を離れてしまった。

由良里は少しポカンとしたあとすぐに冷静になり、顔が赤くなるのが自分でもわかった。


(え、春夏冬君もおんなじように思ってくれてたの!?嘘じゃないよね?あんまりにもびっくりして、返事も何にもできなかったけど。)


少し追いかけてみるがもう律の姿はもう見えない。返事は決まっていたので心の準備だけ整えてすぐに返事をしよう。


ボクは急いで家に帰ってきて、ベッドに倒れこむ。


(言ってしまった、先輩驚いてたな。嫌だったかな?仲良くしてくれてたのは仕事仲間だったからかな。嫌な考えばかりが頭の中で繰り返される。)


考えていたらどんどん不安になってくるのでシャワーでも行って少し落ち着こう。

シャワーから上がると、通知が2件入っていた。ボクはすぐに確認をする。


【春夏冬君、さっきはありがとうね、急だったからびっくりしちゃった。お返事したいけど電話じゃちょっと嫌だから少しだけ会えないですか?もしいいならまた連絡ください。】


【無理には大丈夫だからね、都合悪いならまた今度で大丈夫だから。】


ボクはすぐに返信を返す。


【かしこまりました。先輩こそ大丈夫ですか?もしいいなら会いたいです。】


【ありがと。じゃあ春夏冬君の家の近くの公園でもいい?待ってます。】


【すぐ行きます。】


ボクは上着を取り、すぐに家を飛び出る。お互いの家の中間地点ほどのところに公園があるのでそこまで急いで向かう。

髪も半乾きだったが、そんなこと気にもならないぐらいだった。

公園まで急いでいくと、ベンチに由良里の姿があった。ボクは走って駆け寄る。



「…はぁ、はぁ、お待たせしました、ごめんなさい。待たせちゃって。」


「ううん、大丈夫だよ。ごめんね、急に呼び出しちゃって。」


「いえいえ、ボクの方こそ待たせてごめんなさい。それで、あの…」


「うん、少しだけ聞きたいことがあってね、えっと、その、私でいいの?私こんなんだよ?それにもっと知ったら嫌いになっちゃうかもしれないよ?」


「そんな所も含めて好きになります。先輩がいいです。」


迷わず答える。そんな律を見て由良里はホッとしたような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべる。そしてすぐに顔を赤くして照れながら


「私なんかで良ければ、お願いします。」


「ボクこそ、不束者ですが、よろしくお願いします。」


「ふふっ、なにそのかしこまった言い方。これからもよろしくね。」


二人で笑いあい、改めて目が合うと照れてしまう。先に言葉を発したのは律だった。


「ボク、飲み物買ってきますね。先輩何が飲みたいですか?」


「ちょっとだけわがまま言っていい?春夏冬君とおんなじのがいい。」


「…?わかりました。甘めのコーヒー、買ってきますね。」


ボクは少し走って自動販売機まで向かう。わがままってどういうことだ?とりあえず買っていこう。


「先輩、お待たせしました。はい、どうぞ。」


2本買ったコーヒーのうち1本を由良里に渡す。


「私が言いたかったのは、春夏冬君とおんなじのが飲みたいってことだよ。1本で良かったのに。」


そう言って受け取ったコーヒーを開け、由良里が先に一口飲む。そのあと、少しだけ不安そうにボクにコーヒーを差し出してくる。


「…いや、だった?いきなりはちょっとはやかったかな。無理には飲まなくていいからね。」


そういって差し出していたコーヒーを自分のもとに戻す。律は驚いて固まっていたので何もできなかった。由良里の不安そうな顔を見てすぐに我に返る。


「いやなんかじゃありません!ちょっと急でびっくりしただけです。ください!」


「ふふっ、ありがとね。可愛いなぁ春夏冬君は。はい、どうぞ。」


ボクは恥ずかしい半分嬉しい半分の気持ちでコーヒーを飲む。普段より甘く感じた。これから先輩と一緒にいれるんだ。



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甘々日和(かんかんびより) @taiyou_tuki

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