進歩



甘々日和(かんかんびより)


進歩


ひと月がたった頃、ボクは少しずつ、仕事にも職場の雰囲気にも慣れていき心にゆとりが持てるようになってきた。

まだわからないことが多いが、基礎をしっかりと学ぶことで応用をきかせればゆっくりだが、仕事をこなせるようになってきた。それもこれも由良里先輩が丁寧に、理解するまで教えてくれたおかげだ。

先輩も自分がわからないこともあり、自分のためにもなると言ってくれているのがすごく救いになっている。


(先輩に付いていてもらえるのもあと1か月か…)


研修は2ヶ月の予定なので、あとひと月もすれば先輩は付きっきりではなくなってしまう。それまでに少しは進展させたいが、仕事に支障が出ては元も子もないので、

まだ一人前ではないボクに先輩にアタックできる勇気が出なかった。



―――――――――


(春夏冬君と一緒に仕事できるのもあとひと月かぁ…)


由良里も律と同じように悩んでいた。気を遣いあって仕事の話ばかりだったので、お互いのプライベートな部分はわかっていない。

ようやく手放しの状態でも少しずつ仕事を任せられるようになってきたので少しだけプライベートの話でもしてみようか、ご飯にでも誘ってみようかなど、色んな考えが頭をよぎる。


(こんな時こそ年上の先輩として私から誘ってみよう!今日は金曜日だし明日はお休みだから聞いてみて、断られたらまた今度頑張ってみよう。)


――――――――



仕事が終わり、春夏冬君に声をかけてみる、

「仕事、少しずつ慣れてきたみたいだね。悩み事とかあったらいつでも相談してね。私もよく先輩に頼ってたから、そんな先輩になれるように頑張るからね!」


大事な時に、素直に言えない自分に少し情けなくなる。

ちゃんと言わなきゃ、一緒にお出かけしたいって、ご飯行きたいって。

少し間が空いてしまったが、もう一度言おう。


「あのね、春夏冬君。もし、もしよかったらなんだけど、また今度ご飯でも行きませんか?ダメだったら大丈夫だから!無理はしなくて大丈夫だからね!」


由良里はカーディガンの裾をつかんで少し俯きながら聞いてくる。

こんな可愛いしぐさをされて断れるはずがない、そんなところを見せなくても断る理由がない。


ボクは素直な気持ちをすぐに伝えた。


「はい!いいんですか?先輩が良ければいつでも大歓迎です。先輩にはいっぱいお世話になってもうすぐ研修終わっちゃうから終わってからも仲良くしたいです。ほんとはボクから誘いたかったんですが断られたら、って思ったら勇気が出なくて、」


言ってるうちにボクまで恥ずかしくなってきてしまった。


「いつにしましょうか?先輩の都合がいい時に合わせますよ。一人暮らししてると予想以上に暇な時間が増えちゃって」


「じゃ、もし、よかったら、明日からお休みだし、明日か明後日かとかどう、かな?都合悪いなら大丈夫だからね!」


「はい!かしこまりました。明日でも大丈夫ですか?もしよかったらまた時間とか場所は夜に相談しましょっか」


「わかった!ありがとね、また夜に連絡するね。」


由良里はパァっと笑顔になり、上機嫌の様子だ。そんな由良里を見てボクも自然と口角が上がってしまう。


「じゃあボクは買い物に行ってから帰りますので、また夜に。先輩、今日もありがとうございました。お疲れ様でした、失礼しますね。」


「ありがとね、気を付けて帰るんだよ。お疲れ様でした。」



普段は疲れて、少しだけ気だるげに買い物をするが今日は違った。

家に着くまで落ち着きがなく、少しだけ小走りになってしまう。

どこにいこうか、何を食べようか。ここは年下とはいえ男だ。

近くにあるお店の場所を調べておこう、そんで明日のためによく食べてよく寝よう。いつも通りの家事をこなし先輩からの連絡を待つ。


―――――――



(やった!勇気出してよかった。少しでも春夏冬君と仲良くなれるように頑張る!)


由良里も買い物を終え、鼻歌混じりに家に到着する。一人で食べるのに料理も普段より気合が入ってしまう。家事もスムーズに進んでいく。


(私って単純なのかな…?嫌々きてくれてたならどうしよう…後輩だから、気を遣ってくれてたのかな)


途端に不安になってしまう。けど、もう決めたことだ。どこにしようかと春夏冬君に連絡を入れる。



【こんばんわ、明日、12時頃に駅前で待ち合わせでもいいですか?ダメなら変更するからね。またお返事待ってます。】


携帯に通知が入り少し眠気がきていたボクの眼がすぐに冴え、

すぐに返事の準備をする。


【こんばんわ、お疲れ様です。時間も場所も問題ないです。また現地についたら連絡ください。】

すぐに返事をしようとして送信してしまった。急いでもう一文書き始める。

【朝起きて、体調悪かったり都合が悪くなったら無理しなくて大丈夫ですからね。ちゃんと待ってますから急がず気を付けてきてくださいね。明日楽しみにしてます。おやすみなさい】



律の返事にドキッとしてしまう。

(私が18歳の時こんな風に言えてたかな?言えてないな。いい子だなぁ。明日楽しみにしてます。か、嬉しいな)


すごく新鮮なやり取りに落ち込んでた私はすぐにどこかにいってしまったらしい。


【ありがとね、春夏冬君こそ都合が悪くなったら連絡してくださいね。私も待ってるからゆっくりでいいですからね。私も楽しみにしてます。おやすみなさい】


(早く寝て早く起きよう。そんでゆっくり準備しよう。早く明日にならないかな…)


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