第41話 旅行③
「ひ、ひろいなー」
「ら、ラッキーだね、こんな広いところに部屋を変えてもらえてー」
「恐ろしいほど棒読み」
俺と先輩で形だけでも喜んでいたのに、台無しにする相坂さん。
「でも、本当にこんなことじゃないと泊まれないようなところみたいですね。露天風呂付き、広さも10人でも余裕で寝転がることができそうです。ソファからは景色を楽しめますし、これならゆっくりはできますね」
「おお、珍しく相坂さんがポジティブ」
「成瀬さんがいなければ」
「ですよねー」
しっかり他人をディスることを忘れない相坂さん。もはや達人の領域にあると言える。……言えるか‼
「とりあえず荷物を置こっか! そこからどうするか考えよう」
「はい」
荷物を部屋の端に置いて、同時に肩の荷が下りたような気分になる。ひとまず問題はあれど宿泊は可能であることに安心した。
先輩が部屋中央のテーブルに正座でちょこんと座ってお盆に入っていたお菓子を取り出して食べ始めたので、俺も先輩に倣って同じことをする。
うむ、普通の和菓子だがめちゃくちゃ美味い。
「では、さしあたって問題を整理しましょう」
そして相坂さんが長方形の机の短辺に座って、何やらごそごそと取り出し始めた。
出てきたのはホワイトボード。いや、なんで持ってんの?
「今起きている問題は、あろうことか男女が同じ部屋で寝ようとしているということです」
キュッキュッとボードに書いていく相坂さんに、こくこくと頷く先輩。
なんか無意識に拒絶されているみたいで悲しい。
「では、どうして男女が同じ部屋で寝ることが問題か、ですが。ぶっちゃけ、夜の寝込みを襲われる心配が大いにあります」
「あの、それなんですが、さも当然かのように言っていますけど僕はそんなことしませんよ? さも僕が理性のない獣のような言われ方をしてますけど、そんなことないですよ?」
「などと容疑者は供述しており」
「聞く耳は持たないと、そういうわけですね⁉」
どうやら相坂さんを説得するのは難しいようだと思った、そのタイミングで先輩がおずおずと手を挙げた。
「どうしたんですか、真理」
「あのう……わたしも、別に千太くんはそんなことしない…………と思う……たぶん」
「先輩……!」
語尾のあたりからあまり自信はないようだったが、それでも先輩は俺を信じてくれているようだった。嬉しい、人生で一番うれしい。
「そうですか? 平気で胸を揉んでくるくらいしそうですけど」
それに対し、相坂さんは懐疑的だった。あと、先輩は自分の体を守るように手を押さえないでください。信じてたんじゃないんですか。
「いや…………千太くんはそんなひどいこと……しない‼ と思う……」
「でも、真理も成瀬さんと一緒の部屋で住むってなったときに嫌そうな顔をしてたじゃん」
「梨花、わたしは夜よりも心配なことがあると思うの」
「ほう?」
先輩は強い口調で言った。
「それは一体?」
「それはね…………」
先輩は溜めてから、言う。
「お風呂上がりを…………見られること、だと思う!」
「はあ?」
先輩の提案は、「それくらい我慢しろ」という相坂さんの鶴の一声で一蹴された。
どうやら先輩は、オフの時の顔を俺に見られるのが嫌だったらしい。そんな理由までかわいくて、俺は今すぐにお風呂に行こうかと思った。
それから俺たちは観光をした。
一番楽しかったのは「東尋坊」だ。先輩と相坂さんが自殺する高校生とそれを止める警察官の演技をノリノリでしていた。
先輩が「もうこないでっ!」って言ってるところに相坂さんが「あなたが死んでも悲しむ人が出るだけだわ!」と返していて、なんとなく本格派っぽかった。
いや、自殺名所で何してんねん。
「よし、じゃあ戻ろっか!」
「はい、そうですね!」
ノリノリで帰っていた。もうここからはお風呂で汗流してうまいもん食って終わりだー! 楽しー! みたいなテンションだった、
「あ……」
先輩たちがお風呂に行く準備をしている、そのとき成瀬千太は同じ部屋にいるのだ。
そりゃテンションも下がるわ。
「ぼ、ぼく先にいくので‼‼」
ひとまず事故が起こらないように俺は急いで着替えをもってお風呂場に行く。
「せ、先輩たちはごゆっくり‼」
後ろは振り返らない。俺はこんなところでラッキースケベを起こして先輩たちの信頼を損ねるようなことはしない。
俺は後ろを振り返らないぞー‼
と、急いで体を洗い心頭滅却をしていたことが、仇になることに俺は気が付かなかった。
「え?」
帰ってきたときに、先輩の一糸まとわぬ姿を目撃してしまったのだ。
日本一の美少女に惚れられている僕はそう簡単に高校生活を送れないらしい。 横糸圭 @ke1yokoito
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