第40話 旅行②

 金沢駅で海鮮を楽しんだ俺たちは、そのまま電車で福井駅までやってきた。

 一度旅館に荷物を置いて、そのあと福井のあちこちを見て回る予定だ。


 電車で揺られること1時間、目的地の福井駅だ。


「ここが福井駅……」

「見て見て‼」


 改札を出て感動を楽しもうとしたところで、嘉瀬先輩が大きな声を出して指さす。


 その先にあったのは、たぶんこのあたりで一番目立っているオブジェクトだ。


「でっかーい‼‼」

「これは……すごいですね……」


 大きな声ではしゃいでいる先輩とともにあの相坂さんでも絶句しているそのオブジェクトは、高さ6メートルもあるフクイティタンだ。

 なんでも福井に生息していた恐竜を再現したモニュメントらしく、その大きさは規格外と言わざるを得ない。

 近くにフクイラプトルとフクイサウルスも躍動感ばつぐんで立っているが、フクイティタンは圧倒感がある。


「この恐竜広場は5年以上前に作られたものみたいです。まあ日本で恐竜といったら福井だから、全面的に押し出していきたい感じですかね」

「「……………………」」


 と、こんな感じで解説をしていると、先輩と相坂さんがこちらを見てじーっと冷たい視線を送ってきているのが分かった。


 あれ、ちょっと、なんかまずいことでも言った?


「……千太くんは、盛り上がらないの? このおっきな恐竜さんを見て」

「成瀬さんはセンスがないですね、センスが」

「そんなに言われます⁉」


 酷い言われようだった。それはもう、ボロクソといって差し支えないほどだった。泣きたくなった。


「いえ、あの、すごく驚いてはいるんですが」

「そうじゃなくてさ、内なる少年魂みたいなものが、こう、ぐわあああって燃えてくる感じとかないの?」

「ワクワクはします、が……」


 非難されるような覚えはなかったけど、たしかに知識が先行して目の前のものに素直に向き合っていなかったかもしれない。

 くそう、調べてきたのがあだになったか。


「こらこら、あまり険悪な雰囲気にしないでください」


 そこを、先ほどまで俺にきっつい罵倒をかましていた相坂さんがフォローに入る。

 変わり身っぷりがすごい。


「とりあえず旅館に移りましょう」


 相坂さんがそう言うと先輩も何も言えないのか、恐竜に執着を見せていたが唇を尖らせて相坂さんの後ろに付いていった。





「あのう……お客様、申し訳ないのですが2時間ほど前にお客様のお泊まり予定だった部屋が2室とも空調機器が故障していると判明しまして……お部屋を移っていただくことはできないでしょうか? ええ、もちろん部屋は前よりも上級のものを……はい、もちろん追加料金も、はい」


 相坂さんがホテルの人と話し込んでいるのが見えた。


「梨花、大丈夫かな?」

「なんかトラブルでもあったんですかね」

「どうしよう! 泊まれない、とかなったら!」

「さすがにそれは大丈夫だと思いますけど……」


 そう言いながら、相坂さんの緊張した面持ちを見ていると最悪の想像をさせられる。

 俺はいいが、女子二人を野宿させるわけには……。


「真理、戻りました」

「どうだった?」

「それが、ですね……」


 相坂さんは言いにくそうな表情を浮かべる。

 本当に何かトラブルがあったらしい。


「大丈夫ですよ、泊まれるならなんでも」


 だからこそ俺はこんな励ましをしたが、事態は思っていたよりも深刻だった。


「実は……泊まる予定だった部屋が問題があったみたいで…………他の部屋に移ってくれないかと」

「えー別にいいじゃんー! そんなこと?」

「いや、それが…………他の部屋が1部屋しか空いてないみたいで……」

「え?」


 思わず声が出たのは俺だった。


 そして遅れて先輩もその意味に気が付いたのか。


「え、じゃあ、この3人……一緒の部屋で寝る…………ってこと⁉」

「はい…………」


 さて、この旅行自体の雲行きがかなり怪しくなってきたぞ。


 次回、ドキドキの夜と越えられてしまう一線…………って、越えるわけないだろうが‼

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