第3話 初恋

2017年3月14日

県立東中学校 第58回卒業式


「はいチーズ」

「よーしおつかれ〜」


「侑斗、3年間ありがとな!」

「おう今村!高校でも頑張れよ!」


中学校生活も今日で終わり。本当に色々あったが、どれもいい思い出だ。すげぇ楽しかった。


「おい侑斗、祝賀会行くだろ?」

やりきった感がすごい。悔いはない。


「モチのロン。花宮、高校でもよろしく頼むぜ!」

「あぁ、せっかく受かったんだから振り落とされるなよ」


「あの、乾くん……ちょっといいかな」

「え?」

振り返ると、同じクラスの井口さんが居た。


「いいけど」

「侑斗、遅くなるなよ」



皆お祝いムードで構内は賑やかだ。校門や教室で写真を撮ってワイワイやっている。後者の裏に来る人間なんて、俺と彼女の2人だけだ。


「あ、あのね、私、」

井口さんは唇を震わせながら、何度も目を合わせたり下を向いたりしながら、一生懸命何かを伝えようとしてくれた。


正直、何を伝えようとしているかは、状況的に判断できたが、今はただ、彼女の言葉を真っ直ぐ聴くべきだと思った。


「ずっと、好きでした……ごめんね、久しぶりに会って、急にこんなこと言って、困るよね。でも伝えたくて、それだけで、ごめんね」


「ありがとう、すげぇ嬉しいよ。告白されたのなんて初めてだわ、校舎裏でとか、本当にあるんだな」

俺は、冗談交じりに笑って言った。


「へへ、そうだね。私もこんなことしたの初めて、でもどうしても伝えたくて」


急に、頭が冷えた


正直何を言われるのか分かっていた、だから、もうさっきからずっと、自分を騙して笑おうとしてた






ごめん、なさい、


井口桜 は、3年の夏明けから学校に来なくなった。2年の時から同じクラスで、そこまで仲が良かった訳では無いが、友達を含めて何人かでよく話していた。


学校に来なくなった理由を知ってる。虐めだ。


俺は知っていた。一学期から理由は分からないが、クラス問わず一部の人間が彼女の事を酷く言っていた。


なぜ急に、この間までみんな普通に話していたじゃないか、彼女も普通の子じゃないか、星を観るのが好きと言っていた、特にはくちょう座が好きで、教室の広報の窓際で、よくみんなでだべったのに、


知っていた。俺だけじゃないはずなのに、なぜ誰も、止めなかったんだろう、なぜ俺は……


「あ、あの、井口、さん、ごめん、俺」

「いいよ」

「え、」

「ごめんね、でも、乾くんは悪くないよ」







2017年6月15日


俺は高校生になった、のだろうか。

なんだか、中学を卒業して以来、気分が晴れない。特に目的もなく、ダラダラと毎日を生きている。


このまま、何もせずに卒業して、適当な大学に入って、そこもまた適当に卒業して、何をするんだろう


何をして生きていこう


俺に何か、出来ることがあるとすれば


もう誰も傷つけないように



こんなクズは、生きていても何の役にもたてないだろう



「おい侑斗」

「お、花宮じゃん、どったの」


「覇気がないぞ、せっかく合格した高校だ。結局部活も入らず、勉強もしてるのか?来週は最初の対外模試だぞ」


「あぁやってるよ、まぁ部活はさ、なんかパッとしないんだよな、どれも」



「そうか、ヤル気が出たらうちにでも来い」



ヤル気って、何のだよ


1人にしてくれ、じゃないとまた……





「ねぇーーーー乾くーーーーん」

あ?

駅へ向かおうと歩いていると、道路向こうの公園から名前を呼ばれた。


あれは同じクラスの七瀬 結衣ななせ ゆいか?


「こっち来てーーー」

は?なんだいきなり、話したことも無いはずだが、小学生に囲まれている。絶対面倒事だ、こっちは自殺まで検討し始めた馬鹿だぞ、本当にやめてくれ


「どうかしたの?」

不味いな、つい癖というかなんというか、呼ばれると来ちゃうんだよな。


「あのね、この子達のボールが木の上に乗っちゃって取れないんだって」

「なるほど」

「でも私じゃ届かないから、お願い、私を肩車して!」


何を言われるのかと思いきや、女子高校生を肩車だと、馬鹿か?馬鹿じゃないのかコイツは、大体肩車しても届かないだろこれ、クソが、絶対金輪際関わらない方が良い奴だな。


が、

「嫌に決まってんだろ、お前は下で待ってろ」

やっちゃうよねぇ、体が勝手に動くんだもん、しょうがない。

「え?」

「このくらい登れる」



やらかしたァァァァ完全にやらかした。なんで助けちゃうんだよ、そしてなんでお前は着いてくるんだよ。


「東中出身なんだね、珍し〜」

流れで駅まで一緒にとなったのは分かるが、わざわざ俺の買い物にまで着いてくるなよ。


「そういえば初めてだよね、話したの」

「そうだな」

そして最後だ


「ねぇ彼女いるの?」

「そういう話を初対面の男に噛ますのはやめておけ、勘違いされるぞ」


「えぇケチだなぁ、まぁ乾くんモテなさそうだしね」


コイツ、久方ぶりに感情が高まってきたぞ、潰そうか、ひねり潰そうか。悪気がないのかずっとニコニコしてるのも癪に障る。


「お前よりはモテるわ、いいから恋バナはやめろ」

「まぁいいけど、じゃあ趣味は」

「ない」

「じゃあ星見るといいよ、星」


「え」

「私星を観るのが好きなんだよねぇ」



私星を観るのが好きなんだよね




ごめん、俺が、俺が

「ごめん、」

「ん?」

「ごめんなさい、もう二度と、俺が、ごめんなさい、」

「え!?どうしたの急に!」



このアホ程明るい笑顔を、もう誰にも傷つけさせない。俺が、少なくとも、この3年間、俺が守るから。絶対に、笑顔で卒業させてやる。次はもう絶対に






2017年9月8日

「侑斗〜〜」

「おい泣くな馬鹿」

好きだった先輩に彼女がいたらしい。まぁショックなのはわかるが、声がでかいって、教室に誰もいないことが救いだが……


2018年8月12日

「ほら早く、始まるって」

「てめぇ、待たされたのはこっちだぞ」

観たい映画が、女友達が興味を示さないものだったらしく、というのは分かるがなんで俺が



2018年10月10日

「え?侑斗七瀬さんと付き合ってないの!?」

「なんの驚きだ、勝手に勘違いするな、そして変な噂を流すなよ」

まぁ、冬弥以外でも、そんな馬鹿な勘違いをしてる奴はいるだろうが。


俺は、アイツを守りたいだけで、アイツが笑顔でいてくれればそれで良くて。俺は別に、






2018年12月25日

ピロン

「優香か」

洗剤のみ。晩飯はもう母さんか優香が作ったんだろう。




「結衣……」



隣のクラスの男と、歩いていた。


「いや別に、一緒にいたから何ってわけじゃないし、なんか野暮用かもしれないし、あいつのことだから俺の時と同じ様に……」


俺でなくても、いいのかな……


そばに居るのは、俺でなくても、


いや、あいつが笑ってるのなら、俺は別に、好きでもなんでもないんだから


俺は……




23時12分


「あぁまずいもうこんな時間か、何やってんだ俺は馬鹿なのか?送るなら早く送れ俺、弄る感じで、今日男と歩いてただろぉ?まさか彼氏かなぁってそんな感じでいいんだ」


ダメだ、俺はそんなキャラではない。

LINEだと逆にあれだし、明日学校で聞くか


「ダメだ、クラス違うんだしいつ会えるかもわからん」


いやでも今日はクリスマスだしクリスマスに男女でとかそれはもうデート以外の可能性が非常に薄くてですね

不味い、思考が混乱している。何を考えているんだ俺は


「まさか」


まさか

「あ、」


「やらかしたァァァァァァァ送信しちゃった、何やってんだよ送信取り消し送信取り消しはどうすんだっけ、あ、」


既読ついちゃった〜




〖ただのクラスメイトだよ(笑)好きな子と2人だと恥ずかしいからって言われて友達と6人くらいで遊んでたんだよ〜笑〗


あ、あぁ

「はぁ、なんだよ、んな事かよ」


〖もしかしてヤキモチかな?〗


〖うるさい、彼氏なら弄ってやろうと思っただけだ〗


あぁやばい、自覚してしまった。俺はコイツのことが好きなのか……


「マジかぁ」




2019年 12月25日 1時32分


〖クリスマスだな〗


〖そうだね……〗


〖今年もイルミネーション綺麗だよな!〗


〖そうだね……〗


〖反応悪いな〗


〖そういう気分じゃないんだよねぇ〗


〖まぁ、クリスマスでも受験勉強だからな。頑張ってるか?〗


〖やってた〜けどもう寝る、おやすみ〗


〖おう、お休み〗






2020年3月1日18時5分


不味い、ついにこの日が来ちまった。


なんで卒業式の日にしたんだ俺は

でももう後戻りはできない。伝えないと絶対に後悔する。


俺は結衣のことが好きだ。この気持ちに嘘はない。


志望校も違うし、1年間殆ど会えなかったし話せなかった。


アイツも当然フリー、条件はまぁ耐えてるだろう。


春からは、ガチで会えなくなる。この1年でこのザマだ。きっと別の場所に行ったら、もっと疎遠になるだろう。




20時9分


「結衣、好きだ、付き合って欲しい」


20時10分


「ごめん、ちょっとだけ考えさせて」




23時20分

「ああぁ疲れたぁ、主に精神が」

考えさせて、か、一般的には

考えとくね、は振られ文句だが……


いや、信じるか



3月7日


〖ごめんなさい。私、侑斗のことをそういう対象として見れないというか、付き合った様子を想像できないんだよね。親友でいよう、ごめんね〗










はぁ、本気で人を好きになったのは、これが初めてだったんだがな……



失恋か







2020年8月20日


「はぁ」

案の定疎遠になってしまった。LINEを送ってもいいのだが


俺から送るのも、なんだか


いやもうすぐ半年経つんだし別に、


「せめて同じ町にいればなぁ」


結局、まだ好きなんだよな






2018年12月25日

23時12分


さてと、

「どうするか」

タイムスリップ問題のせいでてっきり忘れていたが、2年前の俺は今頃、恋する純情少年みたいな文章を、意中の女子に送り付けてる頃だ。


同じようにした方がいいのか。下手したら歴史を変えかねないからな、だが

「答え知ってんだよな。てか、どうせろくでもない歴史なんだし、変えても良い気がする」


別にいいか、先のことは全て見えている。それにもし、全て元に戻ったとしたら、今何を変えようと無意味だ。


寝よう。

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もう戻れない平成に @Sakurai133

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