第1話


十年前に引っ越してから私はずっと、この街に帰ってくる事を夢見ていた


高校は前の街にある学校にすると親に言い、渋る親を説得して受験した


合格通知が届いたときは思わず泣いてしまった


両親は仕事があるので私一人での引っ越し


引っ越しの日、両親は私を抱き締めて泣いた


両親と離れて暮らす事に不安はある


しかし、それ以上に彼に会える事が楽しみだった

 

懐かしい街に着いたのは夕方だった


運び込まれた荷物を片付けながら明日は街を見て回ろうと考える


なかなか片付かない荷物に悪戦苦闘しながらも私は心を弾ませた


彼はどんな風になっているのだろうか


会ったらまず何を話そうか


そう考えるだけで楽しかった

 

ある程度片付け、私は布団を敷く


敷き終わると倒れ込みそのまま眠った

 

 

起きるともう昼だった


寝過ぎてしまったと後悔しつつ私はお気に入りの薄水色のワンピースを身につけ、軽く化粧を施す


一目惚れして買ったパンプスを履き、私はドアを開け外へと飛び出した


十年の間に懐かしい街は少し変化していた


私が住んでいた時は無かった店、無くなった建物


それが何だか私を置いてけぼりにしているようで少し寂しさを感じた

 

「なぁ、お前藍莉だよな?」


背後から声をかけられ私は振り返る


そこにはヤンキーの様な男が立っていた


誰だか分からずたじろぐ

 

「確かに藍莉ですけど、あの、あなたは…」

 

「あ、覚えてない?俺、清川綾人っていうんだけど」

 

私はその名前にピンと来て驚いた

 

「え、綾人君!?誰か分からなかったよ〜」

 

私がそう言うと綾人はホッとした様に表情を緩めた

 

「覚えてて良かったぜ〜!知らん人に話しかけたと思ってビビったやん!」

 

「本当に誰このヤンキーって思ってびっくりしたんだからね!」

 

「いや、ひでーな!!!」

 

綾人はそう怒った様に言った


そんな彼に私は思わず吹き出す


するとつられたように彩人も笑い出した

 

「それにしても久しぶりだよな…。十年ぶりか?」

 

「うん。あ、私ね今年からこっちの高校に入学するんだ!」

 

私がそう言うと綾人は嬉しそうに顔を綻ばせた

 

「マジか!めっちゃ嬉しいわ…!」

 

「そういえば、よく私の事分かったね!」

 

「大人っぽくはなってるけど、変わってないからな。すぐ分かったわ!」

 

「綾人君は変わり過ぎてるけどね!」

 

そう言い二人でまた笑う


変わってないものもあってなんだか私はホッとした


その後も話が弾み、綾人に街を案内してもらうことになった


小さい頃親に連れてきてもらった事のある喫茶店が残っていたので、そこで綾人とお茶する事に

 

「ねぇ、綾人君。直生君は元気にしてる?」

 

私がそう切り出すと綾人は何処かバツの悪そうな表情を浮かべる


話しにくそうにしていたが、おずおずと直生の事を話してくれた

 

「五年ほど前に直生、事故にあってんだよ」

 

「え!?直生君大丈夫なの!?」

 

「頭を強く打っててさ、記憶が無くなってんだ」

 

綾人の話に私は目の前が真っ暗になったような気持ちだった


彼、直生に会う為にここに帰ってきたのに


直生は私の事も忘れてしまっている


ショックだった

 

「藍莉、直生の事好きだったもんな」

 

「…うん。でも、今は直生君元気ならそれでいい」

 

嘘だ


本当は忘れられた事が辛い


でも、元気にいてくれるなら思い出されなくてもいいとも思う


矛盾する心に胸がズキズキと痛む

 

「…あと、言いづらいけど今の直生には近づかない方がいい」

 

「どうして?」


「今のアイツを見たら分かる。俺もだけどアイツも藍莉と同じ高校だからさ」

 

綾人は苦々しく顔を顰めそう言った

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君想い 結月夜紫 @yoshi_91247619

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ