第12話 ダルマさんが転んだ②
だーるーまーさーんーがーこーろーんーだー。
鬼の男子の声に合わせて、全員動く。
美海のクラスのダルマさんが転んだは、止まった時に変なポーズをしなければいけない、と言う男子が考えたルールがあった。
止まった時に、皆お互いに見合ってクスクス笑うのが楽しいのだそうだ。
美海は 、あと数歩で鬼にタッチ出来そうな所まで近づいたが、笑うのを我慢する事が出来ず、
動いてしまった。
「はい、みうちゃん動いた!」
と男子が大きな声叫んだ。
鬼を男子と変わり、目の前の大きなザクロの木に、腕を立てて顔を隠す。
「だーるーまーさーんーがーころんだ!」
転んだの部分を早口で言いながら、美海が振り返えると、全員微動だにせず止まっていた。
お笑い芸人の真似をする人、でんぐり返しをしている人、様々だった。
もう一度木の方を向こうとして、異変にが起こった事に気がつく。
体が動かなかった。眼球も含めどこも動かせない。
よくよく見ると目の前にいる友達も、動いていないのでは無く、止まってしまっている様だった。
声も出せず、今自分が呼吸しているのかもわからなかった。ただ苦しくはないので、直ぐに死んでしまう事は無さそうだ。
美海は今の状況を少しづつ確認する。
匂いは感じない。風も感じない。そう言えばいつの間にか音も聞こえていなかった。アマガエルの鳴き声も、木の葉のこすれる音も聞こえない。
狭い視野で確認出来る事を把握しようとしていると、突然ふすまを開いた様な大きな音が響いた。
そして目の前に 、大きな男が立っていた。
顔はどんなに見ても、ボヤけて認識する事が出来ない。しかし、なぜか男だと言う事は分かった。
他の子供達を挟んで、美海の反対側には祠があった。
男が影になって見る事が出来ないが、先ほどのふすまが開いた様な音は、恐らく祠の扉が開いた音だとわかりした。
男の身長は、2mくらいあるだろうか。
上下共に麻の様な白い服を着ていて、濃い茶色のセミの羽根の様な模様の肩掛けを巻いている。
男は両手をダラリと下げ、ゆっくり歩きながら、美海に近づいて来る。
歩きながら、隣に来た子供たちの顔を体をありえない角度で捻って、一人一人覗き込むように確認していた。
美海は最後の子供の顔を覗き込んでいる姿を見て、次は自分の番だと確信した。
どんなに怖くても、声も涙も見たく無いからと、目をつむる事も出来なかった。
遂に男は美海の前に立ち、静かに腰をかがめて顔を覗き込む。
相変わらず、顔はボヤけて見えないのに 、目が合った気がしまた。
「いた。」
くぐもった太い声が、響いた。
音は聞き取れないくらい不明瞭なのに、意思だけが鮮明に理解出来る声だった。
「今までも共にいた。昨日も、その昨日もその昨日もその昨日も。」
「見てきた。理解した。授ける。明日も、その明日もその明日もその明日も。」
そう言い、右手を美海の頭にかざす。恐怖は限界だった。怖い時に叫び声を上げる事が出来ないのが、こんなにも辛い事だとは知らなかった。
「お待ちください。」
お姉さんの声がしました。
男は頭に手をかざしたまま、動きを止めた。
「この地の者は、生を受けて以来、自分の務めを果たさせて頂いております。皆の心身もともに満ち足りた 、平和な時代となる様にお守り下さってます事。時代の流れに惑わされる事の無い様、人生の道を踏み外さぬ様、清らかな心にお導き下さっている事。誠に感謝し、かたじけなく思っております。恐れながらこの子は、まだ決めておりません。意味を理解し、望むまでは授ける事をお待ち下さい。と申し上げる事を、お聞き届けくださいと。恐れ多くも申し上げます。」
男は手を下ろし、もう一度美海の顔を覗き込む。
そして振り返り、祠の方にゆっくり歩き出した。
男が真っ直ぐ進み、頭を下げて膝まづいているお姉さんをすり抜けた。
祠の前で男は消え、音が戻り、みんなが動き出した。
「ごめんね、帰らなきゃいけない時間だから、美海ちゃんと郁美ちゃん迎えに来たの。」
お姉さんが、二人の肩に手をかけながら、友達に呼びかけた。
美海はさっきまでの緊張の糸が切れて、震えが止まらない。友達にバレない様、お姉さんに強く抱きついた。
わたしが魔女になるまで 國分 @m_kokubun
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