完璧なストーリー構成でした。
物語の立ち上がりはかなーり甘々な恋愛パートから始まります。
そして「どうしてこうなったか」と言う流れがそのあとに続きます。
そこに到るまでの物語はとてもシリアスで緊張感があります。
カッコイイ武器と魔法が出て来て、世界観をカッコよく表現してくれます。
ただ緊張させるだけなく、バトルファンタジー好きをワクワクさせるガジェットが多く仕込まれているので、緊張しすぎて疲れることはありません。緊張を楽しめます。
そしてその緊張が終われば、甘々恋愛パートに。
主人公の結月(ユヅキ)は常に自分の在り方や過去のトラウマに悩んでいますが、その悩みがストーリーを停滞させたり、読者の負担になったりすることはありません。
ダリウスさんが甘々だから。バトルがカッコイイから。
恋愛パートでもバトルパートでもないときは、ストーリーが着実に進んでいます。事件が起きています。だから飽きない。テンポよく進む。
彼女がトラウマを抱えているからダリウスさんとの恋愛がずっとじれったい状態になってしまいますが、だからこそそれを乗り越えたときのカタルシスが生まれます。
また、キャラもとても魅力的です。
この作品を通して、私は結月さんのこともダリウスさんのことも大好きになりました。
どうしてここまで好きになれたのかを自分なりに分析しました。
結月さんはうじうじ悩んでしまうと言う欠点があります。しかしそれは誠実さの表れでもあるのです。そしてその誠実さは間違いなく美点。
ダリウスさんはとても嫉妬深いと言う欠点があります。しかしそれは純粋さの表れ。つまりこれも美点になるわけですね。
こうやって欠点と美点を上手いこと表裏一体にしてそれぞれをしっかり表現することで、欠点を欠点のままにしないと言う工夫があります。
これによってキャラに対する悪感情が湧き辛く、感情移入がしやすくなるのです。
これはひとえに、作者様のキャラ愛がなせるわざでしょう。
それだけキャラのことを知っているということでもあります。
だからキャラの行動に説得力が出る。
だから回転が速い物語でも振り落とされないで付いて行ける。
ここまできっちり創ってエンタメを貫いたら、小説は面白くなる。
そのお手本のような作品だと思いました。
また、本作品は女性主人公が最強イケメン前帝に甘やかされるという女性の願望を果てしなく叶えたものになります。
想定読者は女性でしょう。しかし、男の私でも最初から最後まで楽しんで読むことが出来ました。
小説はきっちり創り込んだら、想定読者を超越すると言うこともこの作品により証明されました。
ですので、女性はもちろんのこと、男性にもお勧めいたします。
魔物を滅ぼす力を持つ龍神族のヒロインが、兄の様に慕っていた男と対立する…というファンタジー世界を舞台にした物語です。
展開は「飛鳥尽きて、良弓蔵められ、狡兎死して、走狗烹らる」の例え通りの境遇になり、また恋愛面でも三角関係と明言されている分、悲恋と受け止められる部分は多々あります。
だけど、この物語に哀愁や悲壮感がよい意味で薄い理由は、このヒロインのパワフルさ…豪腕といっていい程の行動する力のお陰であると思います。
暗くなるに十分な用件を持っていますから、物語全体に暗い影は落ちていますが、それが前面に押し出されている訳ではなく、彼女ならば乗り越えられると感じさせられるキャラクター造形が惹かれます。
レビューを書いている時点では54話と、まだ連載中ですが、その他の登場人物も、この物語の結末がファンタジーと恋愛モノを好む人にとって、満足のいくものになるだろうと予感させられるものです。