時限爆弾

弱腰ペンギン

時限爆弾


「さて問題です。赤と青。どちらを切ればいいでしょうか?」

「たぶんどっちもアウトじゃないですかね?」

 俺は先輩と爆弾処理の現場に来ていた。

 残り時間一分。爆弾はこの建物を吹っ飛ばせるだけの威力だと思われる。

 まさか爆弾処理班に配属されてすぐにこんな事件が起こるなんて。思ってもみなかった。

「たぶん赤だと思うんだよねー」

「先輩先輩。気を確かに」

「青かなー?」

「気を確かにつってんだろ!」

 先輩の顔を強めに殴ると、正気に戻ったようで。

「っは。痛い!」

 殴り返された。

「正気に戻ったようでよかったです。さて、どうしましょう」

「逃げようか?」

「現実見てください。後40秒で建物の外に脱出は出来ますが、警察としてアウトです。避難してない人とか万が一残ってたたら——」

「もーいーじゃんそういうやつ! 一時間で出ていけつったのに出てかないのが悪いじゃん!」

「そういうの良いですから! あと30秒!」

「無理だって! 100本もダミーがあんだよ!」

 そう。赤と青だけではない。無数のダミーが仕掛けられており、どれがどうとか、正直わかんない。

「瞬間冷凍装置的なものはないの!?」

「先輩。無い。もう使い切った」

「なんで30個も置いてあんだよ!」

「嫌がらせじゃないですかね?」

「意味が分かんないよ!」

 数字が10を切った。それを見た先輩の顔は。

「……悟ってやがる」

 無だった。そしておもむろにコードを掴むと。

「ハァ!」

 一気に引きちぎった。

 終わったな。爆発したな。そう思ったが数字は動きを止めており。

「……お?」

 爆発は免れたらしい。

「よ、よかったぁ!」

「先輩、ナイス!」

 そしてタイマーが作動した。

「は?」

「ん?」

 数字の下から音が聞こえてきたので、めくってみたらタイマーがあった。

 時間は……。

「365秒だと!?」

「どこを切ったら……止められるんですかね?」

 コードは先輩が抜いてしまったので、残っていない。後はタイマーと本体だけだが、基盤にばっちり溶接されてるのでどうやったものか。

「……逃げようぜ」

「おい」

「だって無理じゃん!」

「まぁ、そうかもしれませんが」

 何か手を考えないと。タイムリミットは迫って……迫って……ん?

「先輩。これタイマー動いてないですよ」

 数字は365から進んでいない。

「だが時計の音はするぞ?」

 タイマーとなっているところから音は聞こえている。しかし、数字は動いてない。

「壊れたのかな?」

「先輩が乱暴に扱うから」

「それ関係なくない?」

 ともかく、後何秒残ってるのかすら正確じゃなくなってしまった。これはまずい。

 どうしようかと考えていると、数字が動いた。

「先輩。364になりましたよ」

「……まさか分か!?」

 だとしたらだいぶ時間があるんだが。そう思ったが一分後に数字は変わらなかった。

「……もしかして時間?」

 違った。

「え、まさか日?」

 あれから一日後、数字を確かめてみると3になっていた。どうやら日らしい。

 ……海にでも持って行って処理するか?

「これ、どうしましょうね、先輩」

「そうだなぁ」

 別の施設の中に移した爆弾は、今日も元気にタイマーを刻んでいる。正直さっさと処理したほうがいいのだが、中身が何かわからないというのが一番怖かった。

 何せ「日」でタイマー仕掛けてくる犯人だ。凍らせたらドカンとかほかの衝撃でドカンというかのせいもある。

 処理方法はあるにはあるが……絶対安全とかそういうのは保障されてないし。

 というか、もはや爆弾かどうかすらも疑わしい。

 なんかやばいものだったらどうしようと上層部がオロオロした結果、とりあえず放置となった。

 それからしばらくして。

「で、ミサイルにのっけて太平洋で爆破かよ」

 ことが壮大すぎるんだけど。

「まぁ、そういうな。お偉いさんも悩んだんだ」

「ほかの爆弾は普通のやつだったじゃないですか。これだけ違うってことはないでしょうに」

「ほかの爆弾はタイマーも普通だったからな。普通じゃない奴に普通じゃない対応するのは正解だろう」

「そうかもしれませんけどね」

 ミサイル発射のカウントダウンが進む。

「あ、出ましたよ」

「おー」

 打ち上げられたミサイルは太平洋まで飛んでいき自壊。爆発を起こして海の藻屑となった。しかし。

『爆弾、いまだ健在!』

「「は?」」

 爆弾は爆発に巻き込まれてなお無事だった。

 このことでいよいよ頭を悩ませたお偉いさんは、無人島にプレス機を持ち込んで遠隔でつぶすことにした。

 が、爆弾より先にプレス機が壊れた。

 次は凍らせてからプレス。凍らせて熱してを繰り返す。ドリルで穴を開ける。すべて失敗した。

「……どうすんですかねこれ」

「さぁ?」

 数字は30を切っている。一か月後には人類滅ぶんですかねこれ。

「地中にでも埋めるのかね」

「絶対やばいことになるじゃないですか」

「あとは宇宙に放置?」

「それこそヤバイことになりますよ。国際問題とか処理しきれませんって」

「どうすんのかなぁ」

「ねぇー」

 それからの30日は激動の日々となった。

 以前より「壊れない爆弾」としてニュースになっていたのだが、いよいよもってヤバイということになった。

 世界中でどうすんだということが話し合われた結果、日本で放置ということに決まる。

 当然、冗談ではないということで話し合われ、戦争寸前までいった結果、太陽に打ち込むということに決まった。

 そして残り1日となったこの日、太陽に向けてロケットが飛ばされることになった。

「絶対太陽まで間に合いませんけどね」

「それを言うな」

 ロケットは無事打ちあがり、太陽に向けて飛んで行った。

 宇宙空間のどこかで爆発する可能性のほうが高いが、取り合えず宇宙空間に射出されたので平気だろう。

 皆がそう思ったのだが。

『壊れない爆弾を乗せたロケットですが、月の軌道上で爆発。月の軌道を大きくずらし、地球への落下コースへ入りました』

 どうやら、人類の危機は去ってなかったらしい。

「っていうか軌道を変えるほどの威力だったのかよ!」

 朝のニュースでその事実を知った俺は思わず突っ込みを入れていた。

あぶねぇなぁ、もう。

「まぁ、月が落ちてくるんじゃいっしょだけどな」

 さて、月が落ちてくるまではあとどのくらいだろう。

 そんなことを考えているとスマホが鳴った。先輩からだ。

「はい、どうしました?」

『今日は現場に直行してくれ。また新しい爆弾が見つかった』

「はぁ」

『これ幸いということでな。この爆弾を使って月の軌道を元に戻す計画がある。さあ忙しくなるぞ!』

 そう言って先輩は電話を切った。俺は上司に連絡を入れると。

「一身上の都合により、本日で退職させていただきます」

 自由を手に入れることとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時限爆弾 弱腰ペンギン @kuwentorow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る