箱庭の騎士

@hydrogenoxygen

箱庭の騎士

「これは俺の昼飯だぞ、レアロ。まだ食べたりないのかー、こいつめー」


やんちゃそうな子共が大きなドラゴンにお弁当を取られまいと格闘していると、15歳位の女性があきれた声で言う


「はぁ、またやってるよ。カトラもレアロにご飯を取られるって学びなよ」


「いやだよ、フーロ。だって俺レアロと一緒にご飯食べたいんだもん」


話してる間に、カトラの手から弁当が消える。


「ああああ!!  また食われたー!!」


お弁当を取られた悲しみで膝から崩れ落ちるカトラ

目には涙も浮かべていた。


「はっははっ、また昼飯抜きか...」


「もう、私のお弁当分けてあげるから」


「本当か!! フーロ」


「うめぇー!! っぱ、飯を食うと元気が出るなー」


「もう、食べながら喋らない。行儀が悪いでしょ」


「でもさ、ここから出ないと他の人と一緒に飯は食べれないじゃん。じゃあ、まだまだ問題ないよ」


「今すぐにでも出れるかもしれないから、ダメ」


「だけどさ、なんで俺らは外に出れないんだ?」


「やっぱり、ここに居る動物達の管理とかなのかな...? あっ!!カトラ、話題をすり替えようとしたってそうはいかないんだからね!」


カトラは、追いかけてくるフーロから逃げる。


「俺は、自由に生きるたいから直さないもーーん」




「ふぁああ、今日も皆の世話するの疲れたー。結局夜になっちまった」


「お父さんとお母さんも待ってるだろうし、早くご飯食べに戻ろうカトラ」


「なあ、フーロさっきの話なんだけど。外に出た時、俺みたいに胸にあざがあっても友達はできるかな?」


カトラは不安そうにフーロに聞く。フーロは優しくゆっくりな声で話す


「大丈夫だよ。だって、カトラは素直でいい子だから。」


「うん、ありがとうフーロ姉ちゃん」


「さあ、家に帰ろう」


「たっだいまー」


カトラが勢い良くドアを開けると、ドン! と何かにぶつかる音がした


「いてっ!!」


「ん?誰かいるの?」


ドアを閉めるとそこには、腰に剣をかけドラゴンが描かれた白いマント着ている金髪で爽やかな男性がいた


「あぁー、フエゴさん大丈夫ですか?」


母は慌てた様子で声をかけ、カトラに怒る


「カトラ!! ちゃんと謝りなさい!!」


「居るの分かんなかったし、わざとじゃないのに!!」


カトラは家を飛び出て行ってしまった


「フエゴさん、申し訳ないんですがカトラの事を慰めてきてもらってもいいですか?」


「私はいいですが、家族が行った方がいいんじゃないですか?」


「私たちが行って説教しても、なかなか聞いてくれないんですよ。だからお願いします」


フエゴに頭を下げお願いする。


「分かりました。カトラくんがよく行く場所とか分かりません?」


フーロが質問に答える


「ああそれなら分かりますよ」



「聞いてよーレアロ、また怒られてさ。いつも謝らなきゃって思ってはいるんだけどさ、どうやったら逃げずに謝れるようになれるかな」


レアロは寄っかかてるカトラの頬を舐める


「やめろ、くすぐったいって」


「二人共、本当に仲がいいんだね」


「あ!!さっきのドアの人... なに、怒りに来たの?」


フエゴはカトラの目をまっすぐ見て言う


「いや、心配だから来たんだよ」


(この人は全然知らない僕の為にここまで来てくれたんだ、それなのに俺は... いや、俺だって!!)


「あの、さっきはご...ごめんなさい」


フエゴは、少し驚いたがすぐにカトラに笑いかける


「よく言えたな、カトラ。自分の非を認め、謝ることは簡単じゃない。隣いいかい?」


「いいよ。レアロも大丈夫そうだし」


フエゴはにっこりと笑い隣に座った


「俺は、カトラよろしく」


「俺は、フエゴだよろしくなカトラ」


二人は自己紹介と握手をした


「剣を持ってたけど、フエゴは外では剣士だったりするの?」


「そうだけど、実はただの剣士ではないんだ。何と!! 魔導剣士なんだ。」


フエゴは自慢そうに話すと、カトラは興味津々な様子で羨望の眼差しを向ける


「魔導剣士!! なあなあ、剣士とは何が違うの?」


「いいかいカトラ、魔導剣士は魔法を使う剣士の事を言うんだ。」


「魔法...?魔法を使ってみてよ、フエゴ」


「ああ、分かった。今から使うから俺の手をよく見ておけよ」


フエゴが閉じていた手を開くと、ゆらゆらと揺れる綺麗な蝶々が出てきた。

ひらひらと雲一つない星空がキラキラと輝く夜空の中を舞う姿は、とても幻想的で美しく、その風景が映るカトラの目もまたキラキラと輝いていた。


「うわぁ、すげえ綺麗だ。フーロと父さんと母さんにも見せてあげたいな。俺にこの景色の作り方を教えてくれ...いや違う。俺に教えてくれませんか、フエゴ」


「さんが付いてないぞ、カトラ」


「ああ!!ホントだ。お願いします、フエゴさん」


「よし!! 分かった、教えるが覚えるのは結構大変だぞ!!」


「まずは魔法についてから話そうか。」


カトラは、静かにしてフエゴの話を聴いている


「いいかい魔法っていうのはね思いの力を強く引き出すことで色んなことを起こすんだ。例えば、炎であればあたたかい思い出や人への感謝を思い浮かべるとできるんだ。できるかいカトラ?」


「分かった、やってみるよ」


(いつも温かいご飯を作ってくれる母さん、俺の将来を考えてくれてるフーロ、家族のために働いてくれる父さん、俺の初めてできた友達のレアロ、そして、フエゴがくれた人を許すという心)


掌から出てきた、ぼんやりと赤く光る炎が夜空に散っていく姿はまるで

夜空に火の精霊が舞うようだった。


「できた? できたんだよな、フエゴ!!」


「よくできたな、カトラ!! それが魔法だ」


「でも、フエゴみたいに蝶々の形にはどうすればできるの?」


「魔法の応用には、その魔法に対応した紋章を胸に刻まなくてはいけないんだ。」


「そうなんだ。じゃあ、生まれつき胸にあざがある人はどうなるの?」


「胸に生まれつきあるあざは、"ギフト"って呼ばれる紋章で、それを持っている人は2つ以上の紋章を刻むことができるんだ。そして、"ギフト"には後から刻んでも手に入らない凄い力が宿っていることが多いんだ」


2人が話していると突然"ドォォォオン"と大きな音が響く


「なんだ!? この音は!? 遠くから煙が上がっている。あの方向はまさか!?」


「なんで家の方から煙が上がるの...レアロ!!」


グルゥァアアア!! カトラの呼びかけにレアロが応じる


「待て!! 行くつもりだね、家族が心配なのは分かるが危険だしここにいるんだ、カトラ!」


「フエゴ、ごめんそれは聞けないよ。俺は、今フエゴのおかげで気付けた気持ちを伝えたいんだ」


「分かった、一緒に行こうただ絶対に俺から離れないようにな」


「うん分かった、レアロの背中に乗って」


「ああ、急いでいこう」



フエゴ達が着いた時には既に家は焼け崩れていた


「これは...酷い...」フエゴが呟く


「母さん!!父さん!!フーロ!! 返事をしてくれ!!」


崩れた家の中に"黒いフードを被った男"が立っていた


「おいおい、うるせえぞクソガキ!!」


男はカトラに向けて火球を放つ。だが、火球は空中で切り落とされた。


「カトラ、あいつの相手は俺がするだから、その間に家族の安否を確認しろ」


「ありがとう、フエゴ」


フエゴは、男に切りかかるが、すんでの距離で届かずよけられてしまった。

男は火球をフエゴに打ち込むが、フエゴの刃に全て落とされる。


"カト...ラ..."と瓦礫の中から自分を呼ぶ声が聞こえた


「フー...ロ...?」


声がした場所の瓦礫をどかすと、そこには血まみれのフーロがいた。


「良かった...無事で...カトラ...いつも話していた...いつか外に出て...

人を助けて活躍する...夢...私の代わりに...かなえてもらえない...?」


「何言ってんだよ、フーロ!! その夢はガサツな俺には無理だよ。だから、夢を託すみたいなこと言うなよ!! 俺はまだ皆に感謝の気持ちも、迷惑をかけてきてごめんねってことも言ってないんだよ!!」


「カトラが謝ることなんて...何もないよ...だって私達家族は...

 カトラの無邪気さに...元気つけられてたんだよ...だから謝らないで...

 だから...泣かない...で...」


フーロはカトラの腕の中で動かなくなった

夜空に叫びが虚しく響く


男がフエゴに語りかける


「あーあー、男のくせにあんなに泣いちゃってダサい奴だ。お前もそう思わんか?」


「っ!! 黙れっ!!」


鬼の形相で男に切りかかるフエゴ、しかし


「急ぎすぎやで、男前さん」


フエゴの足元が爆発し、煙幕が辺り一面を覆った。


煙を払い、フエゴが姿を現す。


「こんなもので、俺を殺せると思うなよ」


「よく今のを耐えましたねぇ、ただ次のはどうしますか」


カトラに向けて、先程までのものとは比べ物にならない大きさの火球が放たれる。


「カトラ!!」フエゴは守りに行こうとするが


「はい、油断した」


フエゴに向け数十の火球が放たれ


「しまっ!!」


フエゴはまともに被弾してしまい倒れこむ


「これで全員始末できたし、任務は完了かな」


男は"待てよ"と声をかけられ振り返る。

すると、そこには大きな竜の焼けた死骸と一人の子供がいた


「なんだ、生きてたんか泣くしか能のないクソガキ。優しいおじさんが家族のもとに送ってやるよ」


男は火球を放とうとするが、全て放つ前に爆発してしまう。


「はぁぁ!!なんっで打ててないんだよ!! まさか、このガキが撃ち落としたのか!?」


何とか致命傷を避け突っ伏しているフエゴが、カトラの紋章を見て呟く


「あれは"継承"の紋章。だが、カトラはいったい何処からこんな力を」


「小さいものでは無理か...ならば大きい物を食らわせてくれるわ!! クソガキィ!!」


かなり大きな火球がカトラを襲うが、カトラから放たれるまるで太陽を彷彿とさせる大きさの火球に打ち返される


「くそがっ!! なんで俺があんなクソガキに、殺されるんだああああああああ!!」


男は最後まで叫びながら死んでいった。


数十分後、傷の痛みが少し引き歩けるようになったフエゴは、カトラのもとへ歩く


「カトラ、大丈夫か?」


「ぅぅ、フエゴ?」


カトラは、フエゴの声で目覚めた。


「母さんと父さんとフーロは!?」


「すまない!! 俺が不甲斐ないばかりに、家族を守れなかった」


フエゴは頭を下げカトラに謝罪をする


「そうか...分かったよ。でも謝らないで、フエゴ。俺、フエゴのおかげで家族から愛されていたって気付けたし。それに、フエゴだって全力で戦ってくれてたし。だから、謝らないで」


力強く立つカトラから出る数滴の涙は風に乗せられ空へ舞っていった


「カトラ、本当に許してくれるのか?」


「許すこともフエゴが教えてくれたんだよ」


「本当に俺は許されてもいいんだろうか...」


「あーもうわかった!! 俺が、人を助けるっていうフーロの夢をかなえるためにフエゴ、俺の師匠になって俺を強くしてくれ」


「分かった、カトラ。それじゃあ、行こう!」


「うん、行こう"師匠"」


二人は外の世界への一歩を一緒に踏み出した

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