家庭訪問
弱腰ペンギン
家庭訪問
「ごめんください」
新任一年目の家庭訪問。何回目でも慣れないものだ。
これはきっと、いつまでも慣れないものなんだろう。
『はーい。空いてますので入ってきてください』
「失礼します」
俺は玄関の門を開けると庭に入る。
「さて」
リュックからサバイバルナイフを取り出し、左手にはバックラーを握る。
いや、日本でバックラーとかつける日が来るなんて思わなかったよ。
でもこれが無いと家庭訪問が出来ない。
「グアァァ!」
「来たか!」
今日の家庭訪問先は、広大な庭がジャングルと化している御宅だ。
ご家族は難なく通れるとのことだが、どこの暗殺一家だろうか。
屋敷まで1キロあるとかここ絶対に日本じゃない。
飛び出してきた猫(体長一メートルほど)をバックラーで受けるとナイフでのどを切り裂く。
普段なら「かわいそー」とか「ひどいなー」とか思うところだが、今は命がかかっている。
そんなことを考える余裕はない。
「くそ! 多すぎる!」
一メートルを超す猫の群れが、俺に牙をむいて襲い掛かってくるのだから。
あと、鳴き声がにゃーんじゃない。グアァァって言ってる。もうほんと怖い。
うちの学校、こんな家庭ばっかりなんだけど。もう少しまともな学校に入ったと思ったんだけど。
教師という職業は激務だ。しかし、公立はすぐに定員に達するし、私立だって常に募集してるってところはなかなかない。
いや、あるのかもしれないよ。でも俺は見つけられなかった。ここ以外。
まぁ、募集してるのもうなずけるよ。なんせ募集要項に『死んでも困らない人』とか書いてあるんだもの。
……なかなか、無いだろうう。その備考。
だからか常に教員を募集している。世の中からあふれた教員が一人また一人と就職しては行方不明になるんだから。今、一匹猫がとびかかってきたので撃ち落としました。
にしても、どこまで走ったらいいんだ。ぜんっぜん屋敷につかないぞ!
「うおぉぉあ!?」
今度は猿が襲い掛かってきた。しかも集団で。
群れの中の一匹は右手にこん棒を持っていて、ゆっくりと円を描くように移動しながらこちらの様子をうかがっている。そして。
「キエェェー!」
叫んだかと思うと、一斉に襲い掛かってきた。
「ところがどっこい!」
お宅訪問の際に『猿がいる』とは聞いていたので、対策済みだ!
バナナを群れの中に投げ込むと、一斉に……避けられた。
そして俺めがけて、一目散に突撃してくる。
「嘘だろおぉぉぉ!」
猿はバナナが好物じゃなかったのか!
こうして何度目かの遁走の後、ようやく玄関までたどり着いた。
ワニが出てきたときは死を覚悟しました。
……玄関!?
「嘘だろ」
入り口に、逆戻りしていた。
また侵入しなきゃいけないのかという絶望感に俺は電話を取り出すと。
「申し訳ありません。本日は急な用事が入りまして。えぇ。後日にさせていただきたいのですが」
リトライすることにした。
俺は絶っ対、辞めないあきらめないぞ。
学資ローンを返すまでは!
家庭訪問 弱腰ペンギン @kuwentorow
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