いっしょに暮らそう

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 あ。それから。


 お酒


「だいたいこんなもんかな」

「いいんじゃない」


 わたしは彼と一緒にこの壁が透き通るぐらいに白いアパートで暮らし始める。


 今日から。


上代じょうだいさん。大家さんが一階に住んでるから安心だね」

「あー。またさん付けで呼んだー」

「でも・・・ずっと上代さんって呼んでたから、今更」

「嘘嘘。いいよ、今まで通りで。わたしも加ノ上かのうえくん、て呼ぶから」


 呼び捨てとか照れくさいんだよね、今更。

 さんくん付けで呼び合うのも親しき中にも礼儀ありで規律正しいふたり暮らしが送れるかもしれないし。


「お花屋さん探さないとね」


 そう言いながらわたしはここかな、って思うお店を見つけていた。


 アパートのすぐ近く、今どき缶ビールの自動販売機がある交差点の少し手前、間口がとても狭いお店があるんだ。

 お店をやっているのはおばあさん。


「花を一輪買いたいんですけど」

「ありがとうございます。お供えの花?」

「いいえ、ふたりで眺める花です」


 紫の花を買った。

 一本100円。


 帰り際、自販機でビールを買って。

 750ml缶なんて、あまり見ないよね。


「では、引っ越し祝いを」

「かんぱーい!」


 乾杯。


「煮えた?」

「も少し」


 ウインナーのおでんとか、おつまみにいいよね。

 今日のおでんダネはデパ地下で買ってきた。デパ地下だからいいものって訳じゃないけど、老舗メーカーの安定した味とタネの種類の多さがわたしは気に入ってるからそこで買う。


「加ノ上くん、おでんでは何が一番好き?」

「たまご。上代さんは?」

「はんぺん」


 異端だろうか。


 750ml缶のビールを、ステンレス製のマグカップに注いで飲んだ。


 わたしは酔ってきた。

 加ノ上くんはどうだろうな・・・・・・


 アクセ。

 指輪。

 ピアス。


 ペディキュア。


「ぬりぬりぬり・・・・・」

「上代さん、なにしてるの?」

「見てのとおり、足指に透明なペディキュアを」

「色つきじゃないの?」

「なんとなく恥ずかしいから」


 そうなんだ。

 恥ずかしいんだよ、初めてふたりで暮らすのは。


 だから酔ってこうして見つめ合っているのも。


 耐え切れないぐらい恥ずかしい。


 はずかしいんだよ、加ノ上くん。


「ん・・・・・・」


 眼を閉じると加ノ上くんの唇がわたしの唇に先っぽから触れてきて、そのまま互いの唇の形をお互いのそれで確かめ合った。


「恥ずかしい・・・・・」

「きれいだよ」


 キスだけ。


 それで終わり。


 だって、恥ずかしい。

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