第13話 朝

 朝日が眩しい……誰だ。勝手にカーテンを開けたのは、昨日は睦月のテスト勉強に付き合い殆ど寝ていない。


 そんな俺を起こすのはきっと親か悪魔くらいだろう。いやいや目を開けると、俺の目の前に居たのは星月だった。


「おはよう。霜月君」


 前言撤回、目の前にいたのは鬼だったようだ。


「なにしてる。人の漫画を縛って何をしてるんだ?」


「あら、風紀委員たるもの真面目な生活をしなくてはいけないわ。だから要らないゴミを処分しようと思って」


 こいつ……。人の家に入り込んであまつさえ、私生活にまで割り込んでくるのか? 鬼だ。


「私生活まで割り込んでくるな。誰がそんな事を許可したんだ。言ってみろ」


「北野先生」


 あいつかぁぁぁぁ。今度見つけたら独身女性が言われて嫌なことベスト10を連ねて言ってやる。


「というのは冗談で、2日前に言ったでしょ? 朝迎えに来るって、昨日は用事があったから来れなかったけど、今日から毎日迎えに来るわ」


「余計なお世話です。お帰り下さい」


「いえ、無理ね。大体朝6時に起きないなんて腑抜けてるわ。どうせ昨日漫画でも読んで寝坊したんでしょ?」


 なるほど、だから俺の漫画を処分しようとしてるのか。勘違いなんだけどな。


「昨日は睦月に勉強を教えていたから寝てなかったんだよ。勘違いして人の本を捨てようとするな。お前は俺のお袋か?」


「いやね。気持ち悪い。死にたいのかしら。というかくだらない嘘はやめてくれるかしら? 睦月さんは頭が良いはずよ」


「んなわけ無いだろ。昨日なんて酷かったし。と言うかお前は実際にあいつの頭が良いところを見たのか?」


「み、見てないけれど……」


「だろ? 妄想はやめて現実を見るんだな。あいつ酷いから」


「まぁいいわ。あやく起きてくれるかしら?」


「下で待っとけすぐ起きる」


「分かったわ。ちゃんと起きるのよ?」


 母親のようなことを言って星月は下に降りていった。そして俺は自然な動作で扉の前に立ち鍵をかけた。そして窓の方に寄りカーテンを閉め再びベットに入り込む。


 まだ6:30分だぞ? 起きるなんて冗談じゃない。せめてあと一時間それくらいは寝れる。


「おやすみ」


「おやすみじゃないんだけど」


 何故か部屋の中から星月の声がする。馬鹿な。鍵は掛けたはず。まさかこいつ超能力者か?


 体を起こし声のする方を見ると星月が平然とした顔で立っている。


「なんでいるんだ?」


「妹さんに鍵を預かったのよ」


 琴梨!? 何してるんだあいつ。そうか。あいつがこいつを家に招き入れたんだな。


「早くしてくれる? 今日はあいさつ運動をするの風紀委員の仕事よ」


 だっる……。


「着替えるから出ていってくれ。ついでに家からも出ていってくれ」


「分かったわ。10分待ってあげる。出てこなかったら貴方のゲーム機破壊するから」


 そう言って星月はかばんから俺のゲーム機を取り出した。俺の命の次に大事なゲーム機を。


「お前返せ!」


「いやよ。返してほしければしっかりと行動するのね」


 そう言って星月は部屋を出ていった。ゲーム機を取られた以上、俺に残された選択肢はそう多くない。


 俺は即座に制服に着替え家を飛び出した。


「はぁはぁ。さぁ返せ」


「だめよ。今日しっかり仕事をしたら返してあげる。ところで朝ごはんは良いのかしら?」


「要らない。だからゲーム返せ」


「話を聞いていなかったのか、それとも頭が悪いのか分からないけれど、もう一回説明しなくてはだめかしら?」


「うるさい返せ」


「はぁ……。じゃあ学校に行くわよ」


 登校中何度も返せと言ったが最終的に無視され、俺のゲームライフは封印された。


 校門にたどり着くと北野先生がニヤニヤしながら立っていた。


「やぁおはよう。霜月。今日はいい朝だなぁ」


「そう言ういやらしい事を考えているから結婚出来ないのでは?」


 北野先生からピキっという血管が切れたような音が聞こえた。


「なんだ。霜月お前は死にたかったか。早めに言ってくれたら、私も楽に殺してやったのに」


 次の瞬間俺の顔の前には北野先生の拳があった。俺は即座にリュックを投げ捨て降参のサインを出す。


「先生。生徒に暴力を振るうのはちょっと……」


「星月もこいつの味方をするのか? こいつは独身女性が言われてイラッと来ることを意図的に言ったんだぞ? 許せるか?」


「すみません。私にも独身女性の気持ちは分からないので……」


「うぅ……。職員室に帰る」


 目を真っ赤にして北野先生は帰っていった。


「貴方も、人のされたら嫌なことはするべきではないわ」


 星月の説教を俺は聞き流した。これは復讐なのだ。俺は決して悪くない。


 そんな俺を見て星月はため息を付いた。


「はぁ……。まぁ良いわ。生徒会室に行って準備が終わったらここに戻ってきなさい。帰ってこなかったら分かってるわね?」


「はい」


 俺はゲーム機を取り戻すため生徒会室に向かって走った。生徒会室の扉を開けると机の上に「あいさつ運動」という旗が置いてあった。これを持って行かなければならないのだろう。仕方がない。


 俺は旗を担ぎ再び校門に戻ってきた。


「遅い。さぁ。始めるわよ」


 そして俺達は登校時間ギリギリまであいさつ運動をした。


 普段ゲームをしている俺があいさつ運動なんてしているので周りからは、不思議な目で見られて中々苦痛だった。


「そろそろHRが始まるし帰るわよ」


「そう言えば睦月見てないな。裏門通ったのか?」


「さぁどうなのかしら?」


 気になって正門から少し顔を出し通学路を見ると遠くから睦月が走ってくるのが見えた。遅刻か。羨ましい限りだ。俺は朝早く起こされたのに……。


 面白いので睦月を見ていると鐘がなった。


「はぁはぁ。遅刻した。ってあれ? 霜月くんと星月さんも今来たの?」


「いえ、私達はあいさつ運動を」


「あ、あぁ。そうだよね。うぅ……怒られるかなぁ?」


「北野先生は虫の居所が悪いから、会ったら怒られるな。まぁ頑張ってくれ」


「北野先生の虫の居所が悪いのは貴方のせいなんだけどね。霜月くん」


「え“っ……。何してくれてるの!」


 睦月が俺のスネを軽く蹴ってきた。


「遅刻したほうが悪い。まぁ怒られてこい。俺と星月は既に出席してるから、ゆっくりしてても問題ないけどな。ハハハ」


「くぅぅ……。みてろぉ。怒られた分はしっかり仕返しするから!」


 そう言って睦月は走って校舎に入っていった。睦月に続けて俺達も校舎に入りそのまま教室に向かった。


 俺が教室に来た時にはHRが終わっていた。


「睦月遅いぞ。遅刻な」


 北野先生が俺の名前の横にチェックを付けようとする。


「先生。それは横暴です。朝から腹を立てて人に当たらないで下さい」


「お前のせいだろ? 仕方ないな今回だけだぞ」


「ところで睦月は? ガッツリ遅刻してましたけど」


「あれ? 見てないのか? 廊下に立ってるぞ?」


 北野先生がそう言ったので、俺は廊下に顔を出した。すると廊下でプルプルと震えている睦月と目があった。


「んー」


 無言で睦月が睨んでくる俺、何かしたか?


「霜月君が話しかけなかったら間に合ってた」


 とばっちり何だよなぁ

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やはりこの生徒会に救いはない 碧葉ゆう @yurie79

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