第12話 単話『睦月デイズ』

『単話:ゲーム&トーク』


 初日:21:00


「もしもし?」


 俺のヘッドセットに睦月の声が入ってきた。寝起きなのかかなり気怠げな声をしている。


「もしもし? 眠いのか?」


「あ、うん。今起きた。ふあぁぁぁぁ」


 ヘッドセットの向こうから随分と間の長いあくびが聞こえ何かが落ちる音がした。


「何か落ちたぞ? 大丈夫か?」


「うん。スマホが落ちただけだから……でもあれだね。男の子とこうして通話するのは何となく照れるものがあるね」


 それは俺のセリフだ。ヘッドセットをしているとは言え俺達の通話が琴梨に聞こえていないか心配だ。


「あれ? 聞こえてる? おーい」


「ああ、ごめん聞こえてる。しかしあれだな。睦月の音質悪いな」


「えっ? そう言えば睦月君の音質いいね。どんなスマホ使ってディスコしてるの?」


「いや、俺はPCだぞ? なるほど、睦月はスマホで通話掛けてたのか」


「アハハハ。ねぇ? スマブラはPCに繋げて出来ないよ?」


 ヘッドセットから睦月の馬鹿にしきった声が流れてきた。


「いや、俺キャプチャーボード繋いでるし、このままできるぞ?」


「キャプチャーボード……ちょっと待って、私パソコン買った時にそれ買わされて使い方分からずに放置してたの! 使い方教えてよ?」


 そう言えば睦月は女優だったか? なるほど高校生が何処からパソコン買ったりするそんなお金を捻出したのかと思ったが理由が真面目だった。


 ちなみに俺は親が貯めていてくれたお年玉を全部使って高校入学時に買った。


 ちなみに俺も店員におすすめされてキャプチャーボードを買わさせたわけで、おそらく睦月と同じ場所で購入したのだろうと想像がつく。


 だって通常のPCゲームをやるのに要らないし、要らないものを押し売りするなんてあの店しかない。


「いいぞ。俺も騙されたからな」


「やった! ちょっと待ってPCに通話繋ぎ直すから」


 そう言って睦月との通話が切れた。しばらくして再び睦月がチャンネルに入ってきた。


「おまたせ」


 先程よりクリアな声で耳元で話されている様な不思議な気分になってきた。


 その後PCにゲーム機を繋げドライバーを入れソフトを入れゲーム画面を移すのに3時間掛かった。


 主な理由は睦月がポンコツな事を度々繰り返したからである。オンラインで通話しているせいで睦月のポンコツな行動の数々を傍から眺めるしか出来なかったのがなかなか苦行だった。


「ふぅ。やっと終わったな。睦月がウィルス踏んだ時は流石に焦ったよ。セキュリティソフトに感謝しとけよ」


「うぅ……。すみません。でもここからだから! 今から私が教える番だから! ギャフンって言わせるから!」


「ギャフン」


「まだ何もしてないのにいうなぁぁぁ!」


「いやいや、本当にギャフンと言わされたよ。USBしらないしディスプレイポート知らないし、ドライバー知らないし、ウィルス踏むし、ディスクトップ汚いし、説明書捨ててるし」


「本当にすみません。もう分かったからそんなにいじめないでよ~」


 本当はまだまだあるのだが半分くらい言ったしこの程度で許しておこう。


「どうする? もう寝る?」


「サラッと寝ること提案しないでよ。今から始まりだよ?」


「疲れた。途中から、いや最初から思ってたけど別にPCにゲーム機繋げてやる必要なんてないしな。俺は出来たからやってただけで……」


「うにゃああああああああああああああああ。やろってば! ねぇやろやろ」


 突然睦月が叫び鼓膜がぶっ飛んだ。どれだけやりたいんだ……。


「わかったよ。やろう」


 そして、睦月による俺をボコボコにして楽しもうの会が開催された。


 ゲームを教えると言ったのに数時間に及びひたすらにボコボコにされて半泣きになっていた。


「あれ? もう3時だね。どうする? 寝る?」


「そうだな。全く何も教わって無いけどな」


「あっ……。ごめん楽しくなっちゃって」


「いいよ。別に、勝つだけがゲームの楽しさじゃないからな、後半からは勝つことよりダメージを与えることに注視してたから悔しくもなかったしな。ホントだぞ?」


「う、うん。ごめんね?」


 何故謝る? 声が半泣きだったのがバレたのか? いや、ここは女優だった睦月だからこそ見破られたのだとそう言う事にしておこう。


 俺が悪いんじゃない。睦月がすごいんだ。


 翌日:21:00


「あー。あー。聞こえる? 霜月君」


「ああ、聞こえるぞ」


「良かった。何してたの? さっきまで」


「寝てた。睦月と学校で別れてから港塚と会って課題やってたんだよな」


 俺がそう言うとヘッドセットの奥からの返事が消えた。


「あれ? 回線切れたか?」


「ううん? 付いてるよ? 私も課題やってなかったなって思ってさ」


「女子友達か彼氏に明日見せてもらえば良いんじゃないか?」


「私に友達が居ると思いますか? 彼氏が居ると思いますか?」


 ヘッドセットから睦月の怨念のような声が出力された。


「居るんじゃないのか? 人気者だろ? あとかわいいし」


「ふふ、花の女子高生がこんな時間から授業中にゲームやってるヤバい人と通話してる時点で気が付こうよ。私、自分でこんな事言いたく無かった! うぅぅぅぅ」


 何故か睦月が投げたブーメランが俺にも刺さった。まぁ事実だけど。


「じゃあ先に課題やろう。な? 俺が教えるからさ」


「でも、古文だよ? できるの?」


「港塚と課題やったって言っただろ。答えは俺の手の中にある」


「カッコ付けないで、きしょい」


「今日辛辣だな。じゃあ教えないから一人で頑張って下さい。数学も忘れるなよ」


「あ、ああぁぁぁ。やだ。ごめん。ごめんなさい。教えて下さい。お願いします」


「仕方がないな。睦月がそこまで言うなら仕方がないなぁ」


「むかっ。後でゲームでボコボコにしてやる」


「なんか言ったか?」


「いえっ。何も言ってないです。はい」


 結論から言おう。奴(睦月)は馬鹿であった。


「お前よく進学出来たな。内部進学に感謝しろよ」


「うぅ。仕事が……仕事が……」


「言い訳なんていりません。ほら、ゲーム機とPCとスマホを叩き割って勉強しようぜ? な?」


「ちょっと待って。そんなに酷い?」


「うん。酷いよ? 普通に進級出来ないぞ。うちの学校はテストの点数が大きく成績に反映されるんだぞ? 授業受けてれば良いわけじゃないぞ? そらもう終わりよ。終わり」


「うぅ……。テストいつだっけ?」


「29日後。でも睦月は中学2年から勉強しなくちゃいけないから今からでもギリギリだな」


「まだ29日あるなら今日くらい遊んでも……」


「そうか。じゃあ来年、睦月は俺の後輩だな。よろしく。敬語使えよ」


「ひーん。やるよぉー。やれば良いんでしょ? でも少し頑張ったら遊んで良い?」


「まぁ頑張ったら良いんじゃないか?」


「やった! じゃあ待ってね? ウェブカメラ付けるから」


 そう言ってしばらく睦月はゴソゴソと何かをいじりウェブカメラを起動させた。俺のモニターには睦月の顔が画面いっぱいに映っている。


「ねぇ。私だけ顔映すのずるくない? 霜月くんも映してよ」


「ウェブカメラなんて付いてないぞ?」


「えぇ。買ってよ。どうせ明日も通話するんでしょ?」


「え? するのか? 勉強って一人でやった方が良くないか?」


「分かってない。分かってないよ。考えてみて、私レベルの人が一人で勉強しても何も分からないの。そしたらいちいち霜月くんに連絡取らなきゃいけないの! 時間の無駄じゃない?」


 確かに。睦月と通話しないなら俺は琴梨とゲームしてるから反応が遅れるのは間違いない。そうすると睦月の限られた無駄な抵抗の時間が減ってしまう。


「わかったよ。ウェブカメラ買っておくから。今日は我慢しろ。明日もな。多分届かないし」


「えー。わかった」


 そして睦月の中間テスト勉強が始まった。30分に一回休憩を入れなくちゃ死ぬと言うので進行は遅いが何もしないよりマシだろう。

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