第11話 港塚との帰路
「港塚? どうしたんだ?」
「うん。帰ろうと思ったら霜月君見つけたから一緒に帰ろうと思って」
昨日出会ったばかりと言っても過言ではないのに俺と一緒に帰ろうと誘えるなんてコミニュケーションおばけか?
「そ、そう言えばなんでジャージ着てるんだ? 運動部でもないのに」
「あの……僕男の子何だけど……。男子の制服着てると不審な目で見られるんだよ。この間なんて、たまたま電車に乗ってたおばあさんに『あんた着てる服間違えてるよ! 私孫の服持ってるから着なさい』って言われて他校の女子用制服を渡されたんだよ」
「確かに……。酷いなそれは」
「そうでしょ? でも霜月君は僕が男の子って言っても驚かないんだね」
「いや、ただ反応が薄いだけだと思うんだけど」
実際、港塚が男と聞いた日は普通に驚いていたしな。事前に知っていれば驚くこともないだろう。
「でもそう言うの気にしてる人からしたら過剰に興味持たれるのって結構辛かったりするし、意外と霜月君のその反応の薄さに救われてる人もいるんじゃないかな? 昨日、僕が困ってた時にサラッと助けに入ってくれたのもかっこよかったし霜月君ってモテるんじゃない?」
港塚は俺にそう言って優しく微笑んだ。ホントにこいつ男か? 可愛すぎる。こんな男がいて良いはずが無い。
いわゆる『性別は港塚』というやつかも知れない。
「そう言う港塚だってふとした時に微笑むその表情かなりかわいいぞ」
「な、何言ってるの! 僕男の子だよ? へ、変なこと言わないでよ。ばかっ!」
俺が何となく褒めた言葉を聞いた港塚は顔を真っ赤にして手をワタワタさせながらそっぽを向いた。
なんだろうこの気持ち。イケないものに目覚めそうだ。
俺は開きかかった新たなる扉を無理やり閉めてフォローを入れるために港塚を見た。
港塚は俺をチラチラ見ながら恥ずかしそうに俺に背中を向けている。その所作すら可愛らしい。
そんな港塚を見ていると俺のポケットにあるスマホが震えた。
「連絡来てるよ?」
港塚が俺のポケットを指差しそう言ったのでスマホを取り出し電源を起動させた。どうやら手芸部の部長さんからのようだ。もしかしたら港塚の写真かもしれないと思い少しワクワクしながら本文を見た。
『港塚君との禁断の恋応援しています』
奇怪な文章を一緒に港塚が顔を真っ赤にしてそっぽを向いた時の写真が送られてきた。
どうやら何処かで見ているらしい。
「どうしたの? 変な顔して。そんなに嫌な人から連絡来たの?」
港塚が心配そうに俺の顔を伺ってきたので港塚にスマホを見せてやることにした。
「……。あーあの部長はね。腐女子っていうんだって、一般的に男性同士の恋愛を扱った作品を好む人らしいよ?」
「なるほどな。多分近くで俺達のこと見てるんだろうけど、どうする?」
「うーん。帰ろっか」
「そうだな。港塚は電車に乗って帰るのか?」
「いや、自転車。多分途中まで一緒だから自転車出すの待ってて」
そう言って港塚は自転車置き場に自転車を取りに向かった。走る所作すら女の子だ。
「お待たせじゃあ帰ろっか」
俺と港塚は自転車を手で押しながらゆっくり帰路についた。
「そう言えば今日の古文の課題終わりそう?」
港塚が唐突にそんな事を言った。生徒会なのに授業中にゲームをしている俺にはあまり関係ないんだけどな。
「あっ。どうせ課題やる気ないんでしょ?」
港塚がジト目で俺を見ている。俺が課題に手を加えない事を完全に見通されているようだ。
「やらない気でしょ? ダメだよ? いくらウチの学校がテストの成績重視とは言えテストの日に風邪とか引いたらどうするの? 進級出来なくなるかもよ?」
「確かにそうだな。でも古文がいちばん苦手なんだよなぁ。適当にやって出しとけばいいか」
「ダメだよ! 分からないなら僕が教えるから。今から時間ある?」
「まぁ八時半までなら」
「じゃあ今からファミレスでも行って一緒にやろ?」
「そうだな。港塚が教えてくれるなら是非お願いしようかな」
「じゃあこっち。近くにファミレスがあるからそこに行こうよ」
港塚に付いていくとサイゼに連れてこられた。安いし知り合いと来るなら最適だろうな。
そのまま店内に入り対面する形で椅子に座った。
「ちょっと待ってくれ。妹に連絡入れとくから」
「うん。わかった」
そう言って港塚は古文の課題であるプリントと机に置き何か頼まなくてはと思ったのかメニューを開いて何を頼むか吟味し始めた。
その間に俺は琴梨に連絡を取る事にした。
『琴梨今日はお兄ちゃん友達と外食するから好きに食べてくれ』
『ピザ食べていいっすか?』
『昨日食べただろ?』
『ピザはいつ食べても良いものだよ? お兄ちゃん』
『じゃあ好きにしてくれ。ピザの箱は片せよ』
『あーい』
「妹さんへの連絡終わった?」
「ああ、今日はピザを食べるって言ってた」
「へー良いねピザ。僕たちも頼む? ピザ」
港塚は俺にピザのメニューの一覧を見せてくれた。6~7種類のメニューがあるがどれを選べば良いのだろう?
「僕これ食べたい」
港塚がマルゲリータピザを指差した。メニューには一番人気という注釈が付いており更に美味しそうに撮られた写真に食欲が唆られる。
美味しい上に更に値段が安い。もう最強だろう。
「もし彼女が出来たとして俺はきっとサイゼに行くだろうな」
「えっ……。それはちょっとどうかな?」
港塚が顔を引きつらせて苦笑いしている。
ダメだったのか? サイゼ美味しいし安いし良いじゃないか。
「ちなみにそのデートは初めてのデートでサイゼに行くの?」
「いや、初めてじゃないんだけど2~3回目かなって思ってました。はい。」
何故かすごく怒られている気がする。だんだん犯罪でもしている気持ちになってきた。
「うーん。もうちょっと後なら良いかもだけどそんなに早く行くのはちょっと……」
ダメだったか。まぁ彼女なんて出来ないから良いんだ。無い仮定なんて無意味だからな。
「あ、あくまでも僕なら2~3回目は嫌かなって話だから。女性はもう少し違う考えを持ってるかも!」
「港塚は女子みたいなものだしそれがほぼ正解だろうな。でも高校生のディナーってそしたら何処になるんだ?」
「うーん。何処だろうね? そもそも日中デートして午後に帰るんじゃない? あれ? 今してるのってディナーの話だよね?」
「そうだな。考えてみたら高校生なんてお金もないし日中デートして帰るよな。ってそんな話してる場合じゃなくて課題やらないと」
「あ、そうだね。忘れてた。もう頼むモノも決まったよね?」
港塚が注文している間に俺は課題のプリントを取り出した。なんのこっちゃ全くわからない。
「分かる?」
「いや全く」
「じゃあ教えるよ」
そう言って港塚は席を立ち俺の隣に立った。
「ちょっとズレてくれる? 隣に座りたいから」
「お、おう」
俺が少し隣にズレると港塚がその隙間に座り込んできた。
近い。おかしい。港塚は男のはずなのに何故こんなにドキドキするんだ? ヒロインでもない知り合いの尺が長い気がするぞ?
「……霜月くん? 聞いてる? ねぇ?」
「な、なんだ? 聞いてるぞ」
「ほんと? 分かった?」
「ああ、バッチリだ。ほらここはこうするんだろ?」
「うん。もう大丈夫そうだね。じゃあ数学教えてくれないかな?」
港塚に教わった知識を駆使して課題のプリントを全て解き終わると港塚は俺の対面に座り申し訳無さそうに数学のプリントを机にそっと置いた。
俺は授業中にすぐに解き終わっているのでとっくに忘れ去っていたがどうやら数学が苦手らしい港塚には大問題らしい。
プリントには頑張って解いた形跡が残っているがすべて間違っていてなかなか教え甲斐がありそうだ。
正直なことを言うと港塚は絶望的だった。俺の古文の比ではない。
「港塚……。よく進学できたな」
「うぅ。因数分解がよく分からなくて」
「ここで躓いたらヤバいからちゃんと勉強したほうが良いな。取り敢えず今日は軽く教えるから後日、暇な日にでもしっかり教えるよ」
「ほんと? 助かるよ。僕文系教科しか出来なくて理系科目ができる霜月くんすごいと思う」
「まぁ俺は文系が壊滅的だからお互い様だな」
「じゃあ互いに苦手分野を教え合えるね。僕も文系科目教えるから頑張ろ!」
こんな感じでお互いに教え合う約束をしてその日は別れた。
ちなみに港塚の連絡先も貰った。
ウキウキ気分で帰路につき家の扉を開けた。
「あ、お兄ちゃんおかえり」
琴梨がピザを手に持ち吐きそうな顔でリビンクから顔を覗かせ出てきた。
「お兄ちゃん……。LLサイズ頼んだから食べきれない」
「なんでそんなサイズ頼んだんだよ」
「えへへへ。今日はいけるぜ! っていう日ない? それだったんだよ」
「俺もピザ食べてきたからそんなに食べられないんだけど。適当にラップでも巻いて冷蔵庫に入れとこう」
「うぅ。ごめん……」
取り敢えず冷蔵庫にピザを入れて俺は自室に戻り睦月との通話に備え寝ることにした。
______________
※次回は単話で2日分の二人のゲーム中の話を入れます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます