第10話
椅子に座っている女子生徒は俺達を見ると慌てた様子で立ち上がった。
生徒会室に居たということは生徒会のメンバーであるのは想像がつくが生徒会室の地面に四つ這いになって絵を書いているこの生徒は一体何なんだ?
しかも地面に完成したイラストが複数積み上げられているが、その数は2~3枚に及ぶ。絵は湿っており描き上げてまだ時間が経っていない事がわかる。
つまり彼はこの放課後の時間でこの2~3枚描き上げた事になる。それでも未だに描かされている彼の状況を鑑みれば、今の状況は相当ブラックであるのだろう。
「あれ? どちら様ですか?」
床に四つ這いになっている少年はそこそこ長い髪を掻き分けながらこちらを見てきた。
「ばか! 高等部の先輩でしょ。制服見れば分かるでしょこのボケ。変なこと言わないでよ。私が対応するから」
少女が少年の脇腹を摘みながらボソボソと何かを言っているがこちらには聞こえない。
ただ脇腹を摘まれている少年の苦悶な表情がどれだけ痛いかを俺と睦月にもありありと伝えてきた。
「そ、それで何のようでしょうか? 先輩」
少女が取り繕った笑顔を俺達に向けてきた。
「えっと……。高等部の新生徒会が発足したのでご挨拶をと思いまして」
おい。今までの光景を見て誰にでもフレンドリーに話す睦月が敬語使ってるぞ。
「あ、そうですか。こちらからご挨拶に伺おうと思っていたのですけど。お手間を取らせてしまって申し訳ありません」
なんだこいつら本当に高校生と中学生か? 中学生がお手間を取らせるとか言うのか? 俺使ったこと無いぞ。そんな言葉。
「先輩。ちょっといいですか?」
女子たちがビジネス会話を繰り広げている中俺は絵を描かされていた少年に声を掛けられた。
「えっと。どうした? 何か悩みか? 今あいつら忙しそうだし聞いてやるが」
「ホントですか? 助かります。初対面の先輩にこう言うのを言うのは気が咎めるんですがあの女。小代理っていうんですけどおかしいんですよ」
「ほう。どうおかしいんだ?」
「さっきまで描いていた絵ですけどあれは中等部の校舎内に注意換気のポスターとして貼られるんですけど、俺が絵を描けるからって生徒会に突っ込まれて、しかも一枚ポスター描いて後はコピーすればいいのに一枚ずつ手書きでそれぞれ違うイラストのモノを描けとか言ってくるんですよ」
少年はイライラした顔でトントンと足を鳴らしながら俺に愚痴ってくる。
相当ストレスを抱えているのだろう。
「……。それは頭おかしいな。あとお前の境遇に何となく共感できるぞ。無理やり生徒会に入れられた辺りとかな」
「ホントですか? やっぱりそうですよね。先輩の目、明らかにやる気のない人のそれですもん」
何だこいつ。気が合うからっていきなりそんな事言うか? びっくりしたわ。
「それにしても中等部の生徒会これだけか? 少ないな」
「ああ、それは小代理が全員追い出したんですよ。俺の仕事がはかどらないから帰れって。全員女子だから確かにこの場には居やすくなったんですけど。そうだ。自己紹介まだでしたね。如月緋野星です」
「おお、よろしく。俺は霜月陸だ。何かの縁だ。何かあったら言えよ? あと来年高等部に進学するなら風紀委員に来い。俺は委員会辞められないからずっといるし何かあったら先輩として守ってやるから」
「先輩。そう言うのは女の子に言ってくださいよ。まぁその時になっても状況が変わらない事があったらお言葉に甘えてそうさせて頂きますよ。後たまにでいいですから相談とかしても?」
「ああいいぞ。無理やり生徒会に所属させられた人間の気持ちは俺も分かるからな。相談くらい乗るさ」
「ありがとうございます。いや、本当に助かりますよ先輩」
俺と如月が話していると何か視線を感じる。
辺りを見渡すと睦月と少女が俺達がコソコソと内緒話をしているのを見ていた。
「睦月、話は終わったのか?」
「うん。挨拶も終わって定期的に話し合いを設けようって事になった。夏の合同体育祭とかね」
「そうか。じゃあ高等部に帰ってそのまま下校しようか」
「OK!」
俺と睦月はそのまま中等部の生徒会室を出て高等部に向かって歩き始めた。
「ねぇ? 何の話してたの?」
「生徒会に無理やり入れられた人間同士で仲良く集まってただけだ」
「なるほど。分からん」
「まぁ気にするなよ。あの如月については俺がなんとかするからさ」
「如月ってあの男の子?」
「そうだよ。色々扱いが酷いらしいから同士としてなんとかしてやろうと思ってな」
ここまで話し終わったタイミングで俺達は高等部の下駄箱にたどり着いていた。
そして下駄箱には北野先生が立っていた。
「おお、やっと帰ってきたか。任せた仕事場どうなった?」
「ちゃんとやってきましたよ。と言うか生徒に仕事押し付けないで下さい」
「はっはーすまんすまん。私も別の仕事してたんだよ」
北野先生が仕事……。まぁやればできる人なのは知っているが一体何をしていたんだろうか?
「霜月、お前私が何してたか気になっているんだろ? では説明しよう。ここ数年生徒会はまともに活動していなかった訳だ。それは知っているね?」
「はい。聞きかじった程度ですけど」
「つまり以前の生徒会の活動記録が殆ど残っていない状態だったんだ。だから私が生徒会が何を目的としてどういう活動をするのか決めた訳だけど、その承認とか色々してたんだよ。頑張っただろ?」
北野先生が決めたという時点で信用できないどうしよう。辞めたい。ゲームしたい。帰りたい。
「す、すごいですねー。流石北野先生です」
俺の隣では睦月が棒読みな褒め言葉を発していた。全く感情が籠もっていない褒め言葉を受け北野先生は喜んでいた。
「はっはーそうだろそうだろ? 具体的な内容について語ろうと思っていたけど星月がいないな? 帰ったのか?」
「はい。少し色々あって」
睦月が色々はぐらかしてそう言った瞬間、北野先生が俺を厳しい目で見てきた。
その目はさしずめ犯罪者を見るような、そして冷たく汚物を見ているような目は、何故かオレの心に傷をつけた。
なに? なにかしたか? もしかして助ける時にスカートの中が見えてちょっと嬉しかったのがバレちゃったか。
「霜月……。痴漢は犯罪だぞ」
北野先生が俺の肩に手をポンと諭すように置いた。
待て。おかしいだろ。でも、しかし助けるためとは言え痴漢紛いのことをしているからどう答えたものか分からないな。
反応に困り無言で居る俺を見て北野先生は更に妄想を拡大化させた
「まさか襲ったのか! それは教師として然るべき行動を取らなくてはいけないんだが」
「ち、違います! 霜月君は星月さんを助けるために行動しただけで別に襲ってないです!」
睦月がフォローを入れてくれた。
そして睦月のフォローのお陰で俺も自信を持てた。
「そうですよ。北野先生は生徒を何だと思っているんですかね? 俺は犯罪者ですか? あぁ傷ついた。俺のスマホが勝手に教育委員会に電話を掛けそうだ」
「ま、待て。冗談だろ? 私は冗談だぞ? 霜月も冗談だよな」
「はい冗談です」
俺がそう言うと北野先生は緊張が解けたのか大きくため息を付いた。
どれだけ心配してたんだよ。
「ま、まぁ星月が居ないなら明日具体的に話すから今日は帰りたまえ。そろそろ最終下校時刻だ」
「分かりました。じゃあ帰るか。睦月」
「おうよ! 今日もゲームしよ? 夜中に人と通話しながら寝落ちする気持ちよさに目覚めてしまったんだよ」
その気持は何となく分かるが昨日も妹を放置しているしどうしたものか。
まぁ後でお詫びすればいいか。琴梨にはプリンでも買って帰ってご機嫌取りしておこう。
「分かった。昨日と同じでいいか?」
「うんそれで」
俺達は生徒会室に置いた荷物を回収してそのまま校門前にある駐輪場に来た。
「俺はチャリだけど睦月は?」
「私は電車かな」
「そうか。駅とは真反対だからここで分かれるか」
「うん。じゃあ後でね」
睦月は小走りで校門を走り抜けこちらを振り向いた。
「ばいばーい」
俺も多少の恥ずかしさを抑え込み小さく睦月に手を降った。そのまま睦月が見えなくなるまで見送った後俺も帰ろうとチャリを押した。
すると俺の肩を誰かがトントンと叩いてきた。肩から感じる手は小さく可愛らしい。
振り返るとそこにはジャージ姿の港塚がいた。
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