第34話

 僕は今、父上と母上に頭を下げていた。


「なるほどな」


 頭を下げている理由はマリン先生との婚約を認めてもらうためた。


 父上からすれば、ダンジョン化した森の事を聞かなかったようだが、先触れを出していたため僕の話を黙って聞いてくれた。


 こういう話は早いに越した事はないからね。


 隣ではマリン先生も同じように頭を下げている。

 本当に申し訳ないと思っているらしく顔色は悪いな。

 大丈夫だと伝えているけど平民の立場でしかないマリン先生には難しいようだ。


 許可なく口を開くことができないマリン先生は僕よりもさらに深く頭を下げている。


「……理由は分かった。ふむ……こういう事を含めての話だったのだな」


「そのようですね」


 父上の言葉に頷く母上。僕が不思議に思い首を傾げていると、


「実はな、陛下よりクライの叙爵を早めたいとの連絡を受けていたのだよ」


「え」


 ——どういうことだ? 


 貴族の義務(爵位に応じた働きが必要になる)が発生するから卒業後がいいだろうと提案してくれたのは陛下だった。それがなぜ今に……


「陛下もお前とアレス王子との関係がこれほど悪化するとは思っていなかったのだよ」


 そう言ってから父上がマリン先生を見てから背後に控えいるトワにも目を向ける。


 ——そうか、師匠が……


「彼は僕のトワに何度も手を出そうとしましたからね。姑息な手を使ったりも……次は遠慮なくいきますと師匠には伝えていましたが、それでですね」


「う、うむ、そのようだな。それでだ、陛下はお前がこの国から出ていくのではないかと危惧されているのだよ」


「……」


 ——なるほど……


 アレス王子や彼の取り巻きから孤立するよう画策されている僕と、周囲から距離をおかれているマルク皇子。

 最近は一緒に行動する事が多くなっていたからそう見られてもおかしくない。


 実際、ネックラ家は弟のクロイが継ぐ。場合によってはブルドラ帝国に移住するのも悪くないと考えていたが、僕の考えは読まれていたらしい。


「それで僕に爵位を……」


「そうなるな。それだけ陛下はお前の働きと、能力を高く評価しているのだよ」


 父上の言葉に首を傾げる僕。闇影として時々依頼を受けているが、そのほとんどが色眼を使って情報を吐かせるだけのお仕事。もちろん僕の正体がバレないように仮面を被り最小限の人数で尋問をするが、それほど評価されているとは思っていなかったのだ。


 アンナ、レイナ、トワは当然だと言わんばかりに頷くが、状況を理解できないマリン先生だけが驚いた顔を見せていた。


 無理もない。僕は無能で平民に落ちるという噂が入学してすぐに広まっていたからだ。犯人はもちろんアレス王子だが、それでも僕に好意を寄せてきたマリン先生は本当に僕の人柄を見てくれていたのだ。


「それでだ。話を戻すが、お前も男爵家の当主となる。平民との婚約ぐらいで私はとやかく言うつもりはない」


「ええそうね」

 

「父上、母上、ありがとうございます」


 叙爵を受け入れる事が前提だけど、父上と母上の言葉に肩の荷がおりた気がしてホッとしたのだが、父上の次の言葉に僕はいい意味で驚く。


「アンナ、レイナ、トワとの婚約も認めよう。その方が何かと都合もいいだろう。クライもそのつもりだったのだろう?」


「え、あ、はい。そのつもりでしたが……ありがとうございますっ」


 アンナたちも闇影の一員(配下)であるが表向きの身分は僕の専属メイドで平民だ。


 王子から誘いがあればほぼ断れない。考え方はマイン先生の時と同じだ。

 ただ彼女たちの場合はそれでもきっぱりと断るだろうから面倒なことになるのは目に見えていた。


 だからこそ、こっそりと婚約はしてはいたんだけど、こんなに早く、父上たちから正式に認めてもらえるとは思っていなかった。


「クライ、すまぬな」

  

 父上が突然頭を下げる。何に対しての謝罪なのかは明言は避けたが、話の流れで分かる。父上は僕に素直に叙爵を受け入れて欲しかったのだろう。


「父上頭を上げてください。みんなの事を正式に認めてもらえただけで僕はうれしいです。そうですね。いままでの事は水に流します」


「そうか! そう言ってくれるか。いや、よかったよかった」


 父上と陛下の仲は良好だ。だが僕が断ればそうもいかなくなる。立場も悪くなるだろう。ソファーの背もたれに寄りかかり、ホッとした様子の父上。でもね……


「ただし、アレス王子がまた理不尽な要求をしてくるような事がありましたら爵位はすぐにでも返還するかもしれませんが……」


 アレス王子は第一王子だ。まだ学生なので王太子という立場ではないが、順調にいけばアレス王子が王太子となり次期国王となる。

 だからこそ、今後も理不尽な要求をしてくるようは国に未練はない。


 幸い今までに得た報酬のほとんどは使わずに蓄えているからね。


「それは……うむ。そうだな、陛下にそのように進言しておくとしよう」


「クライ、私からも少しいいですか」


「? はい母上」


 母上が水を差してごめんなさいねと父上との会話に割り込んできたが、その内容は正室の事について。

 正室だけは体裁(お茶会やパーティー)があるので、貴族の娘を娶る必要があると言われた。


「分かりました」


 僕はお茶会やパーティーに参加した事がないのでよく分かっていないが、いつも嫌そうに参加していた母上の顔を思い出せばすぐに納得できる。

 いや、もともとそうなるだろうと思っていた事でもあるしね。


 それでも、アンナは婚約者として認められた事がよほど嬉しかったのか、父上と母上に対して何度も頭を下げて、レイナはとても機嫌がよさそうでにこにこ笑顔。トワに至っては目元を何度も拭っていたらしく目の周りが真っ赤になっていた。


 マリン先生も不安だったのだろう目元には涙が浮かんでいたが、俺に向ける顔は笑顔だった。


 ただ正室が決まるまでは子どもを作るわけにはいかないので、マリン先生も避妊リングを嵌める事になったけど、喜んで母上から避妊リングを受け取りすぐに嵌めてくれた。


 この日、アンナ、レイナ、トワ、マリンは正式な手続きをして僕の婚約者となった。


「しかし……アレス王子は学園に通う前は聡明なお方で誰もが期待していたのだがな……」


 あの後、誰1人欠けることなく無事にダンジョンを脱出したんだけど王子が騎士団長(セシリア様の父)の指示に従わず、それどころか勝手に指揮をとろうとするから大変だったらしいのだ。


 らしいというのは、ダンジョンの外には異変だと知り駆けつけていた王国騎士団がすでに待機していて、ダンジョンの周囲を厳重に封鎖しており、僕たちが少し遅れて脱出した時には疲れた顔をした騎士団長の姿と、


「アレス殿下、後のことは私にお任せ……「みんな僕の指示は的確だったよな?」


「はい。誰1人欠けることなく脱出できたのもアレス王子に従ったからこそです」


「うむ。そうだよな」


「はい。遠目からでしたが、狼の群を討伐されていたアレス王子のお姿もとても勇敢で素敵でしたわ」


「あれは狼ではないぞ。魔物のハイウルフなんだが、まあいい。あの程度、僕にかかれば大したことないさ。どんどん僕を頼るといい」


 機嫌良さげに踏ん反り返っているアレス王子の姿があったからだ。


 ダンジョンに潜り状況を早く確認したい王国騎士団だが、そのダンジョンから脱出して来たアレス王子は危機感がなく指示に従おうとしなかったのだ。


 それどころか他の生徒たちにいい格好でも見せたかったのか、僕が指揮を取ろうとまで言い出し騎士団長を困らせていた。


 アルジェ嬢だけは制服がボロボロになっていたので姿はないが、他の取り巻きがアレス王子の言葉を全て肯定するからややこしくなっていたようだ。


「!」


 不意に騎士団長と目が合い、魔眼(色眼)を使ってくれと言わんばかりの困り顔を向けられたが、こんな大勢の前で使えるわけないので軽く会釈だけをしてその場から離れた。


 気絶していた王国騎士たちはボス部屋に出現していた空間の歪みを使い(放り投げて)脱出させたが、この場にその姿が見えない所を見るとすでに運ばれた後で治療を受けているのだろう。


 それで、僕たちはというと、ボス部屋に現れた歪みは使わずに、入り口付近の歪みまで戻ってから脱出した。

 これは僕たちがボスを倒したと疑われるのを避けるためだ。


 だから遅れて脱出することになったのだが、それに付き合わせてしまったマルク皇子と、ルイセ様たちにはまたしても借りができてしまった。


「おやおや、ずいぶんと遅いお帰りで。オオカミ相手に手こずったのかい? それとも、怖くて逃げ回っていたのかな」


 ——はあ。


 運が悪いというか、なんというか。騎士団長が僕の方を見たタイミングでアレス王子もこちらを見ていたのだろう。

 わざわざ僕の方まで近づいて来て皮肉を言われたよ。


 その隙に騎士団長が周囲に指示を出していたのは解せないが、それからはスムーズに物事が進み、無事に帰ることができたからよしとした。

 でも、巻き込まれた生徒の中には精神的なショックを受けている者がいるだろうからと10日間の休みが与えられ、その休みを利用して実家(ネックラ家)に戻って来たんだ。


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夢の中の男は、僕のいるこの世界をギャルゲーだと言っていた。 ぐっちょん @kouu

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