第33話
魔力不足で消えた影分身から記憶を引き継いだことで、尚のこと僕の足取りは重くなった。
間の悪いことに僕の影分身はみんなの前で消えていたんだ。間違いなく説明を求められるだろう。
——はぁ……
当然だけど、闇影(影人)の事は話せないけど、ある程度力を見せる必要になるだろうと思っている。
というのも、ルイセ様は宰相(父親)から何かしら聞いている感じはあるし、セシリア様も騎士団の練習に混ざっていた時に見られていた様子。
他のみんなには……バレてはいないと思うけど、何も話さないのは無理がある。
でも考えようによっては今後、何かあった時には動きやすくなるのも悪くない、かもしれない。
なんて事を考えながら歩けば、すぐにみんなの姿が見えた。
「クライ様っ」
見えた瞬間、すごい勢いで駆けてきたトワが僕の胸に飛び込んでくる。
「トワ? ……ぐふっ」
まさか飛び込んでくるとは思わなかったが、影分身が消えた時にすごく動揺していたもんな。
「心配かけてごめん」
抱きついたままでいるトワに向かって小声で謝り、こんなところで反応してもまずいと思いすぐに引き離す。
トワもその事を分かっているので素直に離れてくれたけど、
——『後で(夜)たっぷり甘えます』
そんな影話がトワから届く。苦笑しながらも頷くとすぐに、
——『クライ様。もちろん私もですからね』
——『心配させたクライ様が悪い。レイナの事もたっぷり可愛がる』
アンナとレイナからの影話が続く。
いつもの流れではあるが、彼女たちの反応が可愛くて思わず笑みが漏れる。
そうしたらなんだが、ふっと肩の力が抜ける気がした。
どうやら無意識に力が入り過ぎていたらしい。
「クライ様」
「クライ殿」
「クラスくん」
「クライ様〜」
そんな事を考えつつトワと並んでみんなの方に歩けば、どこか不機嫌そうな顔を向けてくるみんな。いや、そんな風に見られているような気がしただけなんだけど、実際は……おかしいな、やっぱり不機嫌そうに見える。どういうことだ?
「勝手な行動をとってすみません」
考えるよりも謝罪が先だと思いみんなに頭を下げる。
ちなみにマイン先生は他の先生方と合流してからはそちらで行動している。
「クライくん」
「「クライ殿」」
少し後方にいたマルク皇子たちからも早く説明しろというような顔を向けられているので、僕はここに来るまでに考えていた言葉(言い訳)を口にする。
————
——
「なんと! クライくんはすでに肉薄スキルを使えるほどの実力者だったのか」
マルク皇子が納得したように頷く。
剣術の中には相手との距離を一気に詰める肉薄というスキルがある。
それこそ姿が消えたかのように一瞬で相手との距離を詰めるのだ。
使い慣れてくると移動にも使えるようになるらしいのだが、達人レベルまで極めないと思うようには使えない難しいスキルでもある。
ただ影人であれば肉薄スキルなんてなくてもその真似事はできる。なんなら、その上位スキルとなる縮地だって修得している。
現に僕は今、みんなに肉薄スキルを使わずに似せた動きを再現して見せたのだから。
ちなみに僕の剣術レベルについては中の上くらい。途中から影術に切り替えたためだ。
「それで気配が小さくなって行く王国騎士が気になり、そちらに急ぎ向かったというわけだな」
「はい」
「それで君がこちらに戻ってきたということは、問題は無事に解決したということだな?」
「それが、僕が確認に行った時には魔物の姿はなく王国騎士のみなさんが倒れていました。
確認するとみなさん重症ですが、息をしておりましたのですぐに手当てをしていたのですが、奥に空間の歪みを見つけたので応急処置だけ済ませて、急ぎこちらに戻ってきたのです」
仮に、ここのダンジョンボスを倒したと伝えても討伐した証であるドロップアイテムを見せる事ができない(影取りで配下にした)からね。
「なるほど」
それから状況を確認したいというマルス皇子たちを連れて、ボスがいた開けた空間まで場所を移したんだけど、僕はまた、マルス皇子から訝しげな目を向けられている。
「クライくん。あの歪みはボスを討伐すると現れるものなのだが、君がここのボスを倒したのではないのか?」
いまだに倒れたままの王国騎士を見てからマルス皇子がそう言葉にした。いや、顔は笑顔なんだけど、これで騙されるとでも? って語っている。
——ぐっ。
応急処置はしたけど王国騎士は見るからにボロボロ、落ちている彼らの武器だって刃こぼれが酷くて、差し違えたと言うには無理があった。
いや、ルイセ様たちは信じてくれていたけど、たぶんマルス皇子たちはダンジョンボスを倒した経験のあるのだろう。
マルス皇子たちには違和感しかなかったようだ。
「はい、申し訳ございません。謝罪します。実際は僕が倒しました。ただ普通の倒し方ではないのです……」
いまだに魔力は三分の一程度しか回復していないが、影取りで呼び出す配下は消費魔力は少ないからね。
僕は召喚魔法を使うフリをして影術を使いトレントハウスを呼び出した。
——消費量は……よかった、誤差の範囲だ。
懸念は魔物と獣では魔力の消費量が違っていた場合だけど、どうやら気にしなくても良さそうだ。
召喚獣は才能がないと一体も契約できない。才能があっても一体がやっと、それを複数体契約できるリーディアス様の一族はすごいんだけど、僕は一体も契約していないから、ここでトレントハウスを召喚獣として見せたとしても問題ない、はず。
それにトレントハウスの利便性を考えたらここでみんなに見せていた方がいいように思えた。
「なっ!?」
「「「「!?」」」」
トレントハウスを呼び出した瞬間みんなは驚き息を呑む。
「ええ、うそ! ダンジョンボスって召喚獣として契約できたの?」
リーディア様だけはどこか楽しそうだったけど。
たしかに、夢の中の男の知識にはないが、ここは現実で、ダンジョンボスがこちらに従う意思さえあれば召喚獣として契約できる可能性はある。問題は敵意剥き出しの相手にどこまで寄り添えるかだけど。
その点、僕の場合は魔力さえあれば、今回みたいに色眼を使い影取りしてしまえば配下にできそう。もっと魔力量を増やす必要はあるけど。
「そうです。こいつはここに居たダンジョンボスです。でも、こいつは普通のトレントじゃなくて……みんな着いて来てください」
トレントハウスに扉を開けるように命令するど、何もなかったトレントハウスの身体に扉が現れる。
「わあ」
思わず声が出てしまったのだろう。リンが慌てた様子で口元を押さえてぺこりと頭を下げた。
「気にするな。俺も初めてのことで驚いているからな」
マルス皇子がリンの肩にそっと手を置く。そのあとリンは壊れた人形のように何度も首を振って目を回していたけど。
トレントの中は、階段を上がればすぐに寛げそうな空間が広がっていた。
まだ何もない空間だけど空間魔法と同じような効果があるらしく、かなり広い。
「この居住スペースに僕たちがいても普通に移動させたりもできるから便利だと思ったんです。
ただ、討伐せずに召喚契約をしてしまったので討伐した証のドロップアイテムがもらえませんでした。それであのような嘘を申しました」
そこで改めてマルス皇子に向き直り頭を下げる。
「そういう事なら許すとしよう。ただし、何かあった時には俺たちも利用させてもらいたいのだが、それは良いだろうか?」
マルク皇子が何もない空間の中をきょろきょろ見渡した後に向き直りそんな事を言った。
今後はダンジョンだったり野外活動だったりパーティーでの行動が増えてくる。
その時のために居住スペースを整えようと思っていた。
整えてしまえば便利だし安全だと思いみんなにこの事を話した。
そこにマルス皇子たちは含めていなかったからちょっと驚いたけど、人数的には問題ないのですぐに肯定した。
「はい。もちろんです」
夢の中の男は、僕のいるこの世界をギャルゲーだと言っていた。 ぐっちょん @kouu
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