e侍少女 救世主伝説

渋谷かな

第1話 沖縄県

「わ~い! 新しいゲームだ! 戦国ものか! 早速遊ぶぞ!」

 少女はゲームが好きだった。

「IDとパスワードを入力してログインっと。」

 オンラインゲームだ。

「いざ! 出陣じゃ!」

 少女は侍になりゲームの世界に舞い降りる。


「私の名前は、夢月希。」

 まず、あなたのプレイヤーネームを決める。

「キャラクターは全員女子か。職業は侍っと。」

 職業を選択する。

「このゲームのタイトル「e侍女」っていうんだ。」

 希はタイトルを知らないでプレイを始めていた。

「出発国の選択か? どこにしようかな? 囲まれて蹂躙されるのも嫌だから、端っこにしよう。」

 琉球王国を選択する。現在の沖縄県である。

「琉球を血の海に変えてやる! ケッケッケ!」

 希は刀を持つと性格が変わるタイプであった。 


「きれいな海! どこまでもつづく青い空! 果てしないレベル上げ!」

 ゲームの最初はレベル上げである。

「スライムは出ないのね。」

 希は人魂や砂浜で蟹なんかを倒してレベルを上げていく。

「美味しい! 琉球最高!」

 ゴーヤチャンプルーや沖縄そばを食べて、ゲームの中の泡盛を飲んで体力と気力を回復させる。

「なんでも化け物が出るってよ?」

「本当かい!?」

 人々の世間話が聞こえてきた。

「おお! クエストの予感だわ!」

 希は初クエストに胸を躍らせる。

「なんでも浜辺で「血の雨を降らせてやる!」って言いながら、刀を振り回している少女がいるそうだ!?」

「きっと妖刀に取り憑かれているんだよ!?」

「「ケッケッケ!」って笑っているらしいぞ!?」

「可哀そうに頭がおかしいんだね。」

 人々の話は琉球の浜辺に血が大好きな妖刀使いが現れて頭が可哀そうな少女がいるらしい。

「それって・・・・・・私じゃない。ガーン。」

 いつの間にか希は有名な妖刀使いになっていた。

「いいんだ! ゲームなんてレベルを上げて強くなれば、こっちのものなんだから!」

 希は再びレベル上げに砂浜に出かけることにした。

「なんでも琉球王が不気味な妖刀使いを退治するために刺客を送ったそうだよ。」

「なら、平和になるね。良かった。良かった。」

 この話を希は聞いていなかった。


「おまえが血の雨を降らせるという妖刀使いか?」

 砂浜に少女が待っていた。

「そうだと言ったら?」

「私は琉球王国の侍、安室結衣だ。王の命令でおまえを倒しに来た。死んでもらう!」

 現れた少女の目的は希を倒すことだった。

「カワイイ、ワンちゃん。」

「ワンワン。」

 結衣はペットの子犬シーサーを連れて来ていた。

「こら!? 人のペットに勝手に触るな!?」

「いいな。私も可愛いペットが欲しいな。」

「ワン。」

 希はシーサーとじゃれ合っている。

「いるじゃないか。おまえにもペットが。」

「え? ええー!?」

 振り返ると希の後ろにはレベル上げで殺し続けた人魂と蟹に取り憑かれていた。

「ギャアアアアアアー!? お化け!? 怖い!? 助けて!?」

 血の雨を降らせる少女はお化けが苦手だった。

「おまえ、本当に妖刀使いか?」

「違います!? 私はただのゲーマです!? 琉球王を倒して、全国制覇の第一歩にしたいだけなんです!?」

「なに!? 琉球王を倒すだと!?」

 希の目的を聞いた結衣の顔色が変わる。

「シーサー、霊を払ってやれ。」

「ワンワン。」

 シーサーは魔除けができる守り犬である。人魂や蟹の霊は消え去った。

「ふう、助かった。ありがとう。結衣ちゃん。シーサー。」

「ワンワン。」

 希は人懐っこかった。

「あなたはもしかしたら琉球の救世主かもしれない。」

「え?」

 結衣は真剣な表情で希を見つめる。

「実は琉球王の尚巴子は悪い王で琉球の人々を苦しめているんだ。私は琉球の人々を人質に取られているので動くことができないんだ。私の代わりに琉球王を倒してくれないか?」

 実は琉球王は悪い奴だった。

「分かったわ。」

「やってくれるのか!?」

「当たり前じゃない! だって私と結衣ちゃんはお友達だから!」

 いつの間にか希と結衣は友達になっていた。

「ワンワン。」

「もちろんシーサーもね。」

「ありがとう。希。」

 ここに「e侍女 救世主伝説」が始まる。


「なんだ? おまえは?」

 琉球王の尚巴子の目の前に希が現れる。

「私の名前は希。人は私のことを美少女妖刀使いと呼ぶ!」

「ただの落ち武者が何をいう!?」

 誰も美少女とは読んでいない。

「そうか! おまえだな! 血の雨を降らせる妖刀使いの頭のおかしいケッケッケ娘とは!?」

「いや、その認識もおかしいから。」

 場が落ち着く。

「琉球王! 庶民に代わって成敗してくれる!」

「おまえ如き小娘に何ができる!」

 遂に希と尚巴子が刀を交える。

「ギャアアアアアアー!?」

「尚巴子! 打ち取ったり!」

 一瞬だった。希の刀が一撃で尚巴子の首をはねた。

「伊達にレベル上げはしてないぜ。」

 希は人魂や蟹に取り憑かれるくらいレベル上げをしていたので、スタート地点とは思えない強さに成長していた。

「これで琉球にも平和が訪れるのね。」

 琉球に平和が戻り安堵する希。


「それはどうかな?」

「なんですって!?」

 倒したはずの尚巴子の首が意識を持って宙に浮いている。

「あなた!? 人間じゃないわね!?」

「その通り。私の正体は鬼だ! ガオー!」

 尚巴子の首から鬼の体が生えてくる。

「オエー!? 気持ち悪い!?」

 希はグロテスクなモノが苦手だった。 

「いでよ! 琉球の鎧!」

 稲妻と共に琉球の鎧が現れて、尚巴子に装着していく。尚巴子は鬼の体から人間の姿へと変わっていく。

「これが琉球王、尚巴子の完全体だ。おまえに勝ち目はないぞ。ワッハッハー!」

「それがどうした? 私だって持ってるもの。」

「なに?」

「いでよ! 血の鎧!」

 また稲妻と共に血の鎧が現れて希に装着していく。

「純血の希! 参上!」

 希は赤い血の甲冑に身を包む。

「まさか!? 人間が鎧を持っているとは!?」

「私の刀、吸血刀がおまえの血をご所望だ。素直に吸われろ。」

 再び希と尚巴子が相まみえる。

「死ぬのはおまえだ! 我が琉球刀の錆にしてくれる! くらえ! 琉球流奥義! 那覇!」

「おい。今日は何の日か知ってるか?」

「はあ? 何を言っている。」

「今日は血祭りの日だ! 純血流奥義! 献血!」

 両者の奥義が炸裂する。

「ギャアアアアアアー!?」

 血を吸われまくって力が無くなった尚巴子の体が宙を舞う。

「や・・・・・・やられた。」

「安心しろ。おまえの血はたくさんの人に輸血される。多くの人々の命が助かるぞ。ケッケッケ!」

 襲うべし血を操る少女、希。

「こ、後悔するがいい・・・・・・私に倒されていた方がマシだったとな。まだまだ鬼はいるからな。」

 言い残すとバタっと鬼は鬼は死んだ。

「それは助かる。血が足らないんでな。ケッケッケ!」

 血が大好きな希。


「ありがとう。希。これで琉球の人々の暮らしも良くなるはずだ。」

「いいんだよ。礼なんて。だって私たちはお友達だから。」

 希は琉球を鬼の魔の手から救った。

「ワンワン。」

「なあ、シーサーもお友達だもんな。」

 カワイイものが好きな希であった。

「希は救世主だな。他の国でも困っている人々を助けてやってくれ。」

「救世主だなんて照れるな。」

 希の救世主伝説の始まりである。

「次はどこへ行くんだ?」

「九州の薩摩に行こうと思っているんだ。」

「薩摩は島津家の領土だ。気をつけるんだぞ。」

「ありがとう。」

 こうして希は琉球を後にして旅に出るのであった。

 つづく。

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