復讐だらけのこの世界で

山上コウ

第1部分 呪い

『やめろ!やめてくれ!』


全身緑色人間サイズの魔物は尻もちをついて叫んだ。

魔物の目の前には、勇者が剣を魔物に振り下ろそうとしていた。


『な、なぜ俺を殺そうとする?』


魔物は勇者に問いかけた。


『お前が魔物だからだ。』


そう言い勇者は魔物の腹にに剣を振るった。

魔物の腹から青黒い体液が噴水のように、飛び散った。

叫ぶ魔物、剣を鞘におさめる勇者。

魔物は腹を手で押さえ、勇者を睨みこう言った。


『お前らはどうして罪のない魔物を殺す?』

『罪のない魔物なんていない。』


勇者は眉をひそめ否定し、こう続けた


『人を襲わない魔物なんていない。お前たち魔物は村を襲い、人を襲い、殺し、犯し、喰らう。人を殺し尽くした後はその村を自分たちの拠点にし、そしてまた新たな村を襲う。

それの繰り返しで魔王ヴァーナハルトが生まれた。』


怒りで勇者は鞘から剣を抜き、剣先を魔物に向けた。

魔物は腹から流れる自分の体液を押さえるしかなかった。


『頼む!殺さないでくれ、子どもが行方不明なんだ。その子どもを探し終わるまで生かしてくれないか?』


魔物は命乞いをした。


『お、俺は』


魔物は腹の痛みに耐えながら振り絞った声で訴えた。


『人を殺したことはないし、人を襲ったもこともない。だから見逃してくれなんて言わない、子どもを見つけるまででいい、見つけた後は殺すなりなんなりしてもらって構わない。だから今だけは生かしてくれないか。』


魔物は必死に訴えた。

だが勇者は構えた剣を魔物の心臓に突き刺した。

口から血反吐を吐く魔物は、最後の力を振り絞ってポーチの中に手を入れ、紙を取り出し、その紙を自分の顔に当て、こう告げた。


『覚えていろよ、勇者。お前に復讐してやる!

呪って、呪って、呪って、呪って、呪ってやるよ!子どもを探さなきゃいけねえのによー。その子どもも死んでいたら、その子と一緒にお前を呪ってやる。覚悟するんだな。ゔゅっ。』


魔物はそう言い息を絶えた。

冷酷な眼差しで勇者は屍をしばらく見つめていた。


『レイジさんっ!』


後ろから自分の名前を呼ぶ女の声がし、勇者レイジは振り返った。


『はぁはぁ、急に走り出すから心配しましたよ〜。』


そう言いながら、声の主は走ってレイジを追いかけてきたのか息を切らし膝に手をつき肩で呼吸をしていた。

真っ白な修道服に身を包み、白い修道帽におさまらなかったのかはみ出ている白髪は腰のあたりまであり、右頬の小さな十字架が特徴的な彼女は[賢者ナイン・ディビエアート]。

彼女はこの世全ての治癒魔法と補助魔法を使え、おそらく全ての魔法への理解がある。今回一緒に魔王ヴァーナハルト討伐へと向かうメンバーの一人だ。


ナインは小さい頃からずっと屋敷に閉じこもって、本ばかりを読んでいたので運動もしてこなかったので人一倍スタミナがない。

街から出たのも今回がはじめてだと言う。

年齢は十五歳と、まだ成人にもなっていない。

だから教会で神父をつとめている父親はとても心配したという。

性格は、今まであまり人と関わってきていないからか、内気な性格で引っ込み思案な部分もあるが、はじめてのパーティーと言うこともあってか仲間がかすり傷程度の怪我でも、最高位の治癒魔法で治したりと心配性な部分もある。


そんな疲れているナインの後ろから二人組が歩いてこちらに向かってくる。


『全く〜そんな走ることないんだってナインちゃん。』


陽気な声でナインの背中をさすっている男は、

[闘士リーヒル・バイト]。

赤黒い短髪に赤い瞳、凛々しい顔たちと目付きで黒いスーツ姿と黒光りしている革靴が特徴的な彼は、二十四と若くしてラダマニア国警備隊の最高指揮官にまで上りつめた、才能と努力と運に恵まれた彼もレイジとナインとともに魔王討伐へ向かうメンバーだ。

年齢は二十四で三歳になる娘がいるという。

性格は陽気で元最高指揮官とは思えないくらい堅苦しさのカケラが微塵も感じられない程の陽気な性格である。


『ずっと引きこもってて体力もないんだから、そんな無理しなさんなって!まったり行こうよ!まったりまったり!』


やさしく背中をさすってあげる闘士バイト、その横から手に持っている水筒をナインに渡す女がいた。


『ほらこれでも飲んで落ちつきなさい!』


走って疲れたナインに水筒を手渡している女は、

[魔女フォードステンクス・メル]。

真っ黒なとんがり帽に赤色のシンプルな服に灰色のミニスカート、黒いニーソックスに黒いブーツ、紺色の髪、青色の瞳に美美しい顔たちで右頬には小さな月のマークが特徴的な彼女が魔女メル。

彼女はナインの親戚で、ナインが治癒魔法と補助魔法を完璧に使えるのだが、その反対にメルは攻撃魔法と破壊魔法を完璧に使えるという。

年齢は十七とナインの二つ歳が上だ。

今回の魔王討伐ではナインの身を案じたナインの父が彼女をボディガード代わりに派遣したという。


『メルさん、ありがとうございます。』


ナインはメルから渡された水筒を受け取り水を飲んだ。

やがて水筒に入ってる水を全て飲み終わると深呼吸をし、呼吸を整えてメルに水筒を返した。


『ありがとうございます。落ち着きました。』

『そう、ならよかったわ〜。あなたに倒れられたらでもしたら私困っちゃうから。』


メルは和やかに微笑んで喜びを表現した。


ナインが魔物の屍に目をやり、指さす。


『それは、なんですか?』

『全身緑色の魔物だ。』

『てなるとゴブリンかスライムですね。体から体液が出ているので、これはゴブリンですね。ゴブリンはいつも群れで行動するのですが単独行動だなんて珍しいですね。』


勇者レイジは先程までの状況を仲間達に説明した。


『つまりこのゴブリンは子どもを探していたってこと?』


メルがレイジに問う。


『そうだ。だがそこが問題ではない。問題なのかどうかも分からないんだが…。』


レイジが話づらそうにしていると、それを見かねてかバイトがフォローに入った。


『別に気をつかうことはねえ、誰にだって不安はあるからな!つまりレイジが不安に思っているのは、その子どもが魔物の子どもなのか、もしくは人間の子どもなのかって話だろ?』

『はい。』


レイジは顔をしかめて暗めな声のトーンで返事をした。

バイトは微笑んでレイジに伝えた。


『安心しろ〜、それは魔物の子どもだ。人間と仲良くなれる魔物がいるのは俺は聞いたことがねぇ。』


バイトはトントンと安心しろと言わんばかりにレイジの肩を叩いた。

レイジは不安だったのだろう人間の子どもが襲われるかもしれないと考えると、背筋が凍ったのだろう。

ついでにレイジは不安要素を取り外すべく呪いに関しても話した。


『それと俺はこのゴブリンに呪われたかもしれない。だが俺はこの世界に来た時、呪い耐性と精神攻撃耐性がかなりの数付与されているらしいが完全には塞ぎきれないから少し調べてほしい。』


レイジはナインに頼み身体を調べてもらったが何の異常は見つからなかった。


『特にこれといった異常は見受けられませんね。』


次にレイジはその呪いの根源と思っている、魔物の顔についている紙を指さした。


『ナイン、この紙を調べてくれないか?』


勇者は魔物の顔に付いてる紙を取り外しナインに手渡した。


『は、はい。』


ナインは勇者から渡された紙を見つめ、分析したのだった。


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