結婚相手は学院の問題児だった
Yuu
第壱話 ギャルとはかけ離れていた
寒い冬が終わり、春がやってきた。明日から高校一年生になる。
第一志望校への合格発表があり、私はやっと彼女たちから離れた学校に行くことができる。
鳳財閥社長の娘として生まれた私は、幼い頃から英才教育を受けてきた。
ピアノ・バイオリン・茶道にお琴などあらゆる作法を身につけ財閥の娘として恥じることのない様にと…。中学二年生までは。
「
「そうだよね! お金もあって、顔も良くて、勉強もできるなんて本当嫌な女ね」
「そうだ、明日からあの子省いたらどう?」
「あはは、いいね。じゃあ皆にラインしておくね♪」
トイレに入っているとそんな声が聞こえてきた。
声から察するに、クラスメイトで一番仲が良いと思っている二人。
仲の良い二人なだけに、何かの勘違いと思い込むしかなかった。
翌日
「おはよう」
いつものようにクラスメイトに挨拶をするが、反応はない。
まるで私の声が聞こえないみたい。もしかして昨日の美香さんと恭子さんが言っていたこと? たまたま聞こえないだけだと思い、近くにいた美香さんに「おはよう」と声をかける。
返事が返って来ない。
私はようやくここで自分の置かれている状況を把握した。『イジメ』というやつだ。
一番仲良くしていた美香さんと恭子さんに無視をされ、ショックであまり記憶がない。そればかりか、クスクスと周りから聞こえるようで気持ちが悪い…。
気づけば私は保健室の天井を見つめていた。
「起きた? 大丈夫?」
「あ…。先生?」
「はぁい、正解。保健室の
「はは…。先生は私を無視とかしないんですね」
「そりゃあ先生は生徒の味方だからね…え?」
素直な私はうっかり先生に今日無視された事を話してしまった。
「なるほどね…。ん〜でも今の状況だと私が動いても、根本的な解決にはならないわね。それに…」
「それに?」
「私がその生徒達を指導すると、あなたへのイジメがエスカレートしてしまうわ」
「じゃあどうすれば…?」
「先生も協力するから、もう少し頑張ってみて?」
「分かりました」
先生はそう言ったけど、私へのイジメはその日からエスカレートしていった。掃除を強制で押し付けられ、靴に画鋲、それに教科書に落書き…。
「死ね」と机に書かれていたこともあった。
私は精神的に追い詰められ次第に学校に行かなくなった。
“中学校なんて義務教育でしかない。ならもう行かなくて良いじゃん“
“学校へ行かなきゃあの子たちとも会わずにすむし”
不登校になって一年が過ぎた頃、保健室の美也子先生が辞めさせられた事を聞いた。どうやら私の不登校は学校の管理責任だということで、最初に話を聞いた美也子先生が責任を取ることになったらしい。
「先生は何も悪くないのに…」
そんなこと言ってもどうしようもないって知ってたけど、つい口に出したくなってしまう。
コンコン
「お嬢様、よろしいでしょうか? お客様が来られましたが…」
「
「はぁ…、しかしその方は私は美也子先生です。どうしても話がしたいとおっしゃっています」
美也子先生がこの家に?
「本当に美也子先生なの? ならここにお通しして」
「承知いたしました」
橘と会話をして五分ほど経っただろうか、再びドアがノックされた。
「お嬢様、美也子様をお連れいたしました」
「入ってください」
私の部屋へ入ってきたのは紛れもなく美也子先生だった。
「先生…」
「うん。美也子先生だよ?」
相変わらずの笑顔。先生は職を失ったはずなのに私より元気だ。
「先生、ごめんなさい。私のせいで…」
「違うわ。私の力不足だよ。最初にあなたの話を聞いてすぐに力になれなかった…」
「違う! 先生は全然悪くないよ…」
「ふふっ。あなたの顔を見られて私はホッとしたわ。もしかしてげっそりしてたりしてたらどうしようとか思っちゃった」
「しょ、食事管理はされてるので…」
「なら後は精神的なものだけね」
先生は不安な顔の私に、ニコっと笑顔を返した。
「これを見て」
先生が取り出したのは一枚の写真だ。そこにはマスクをしてしゃがみ込んだ金髪の女性が一人と同じような格好の女性が十人以上いた。
「これはなんです…か?」
「これが昔の私だよ」
先生が指さしたのは真ん中にしゃがみ込んでいた一番強そうな女性だ。
いや、写真に写った女性は先生とはかけ離れた容姿をしている。
「昔って言っても五年前なんだけどね。私も学生の頃はいじめられてさ。いじめてきたやつにどうやって対抗すればって考えた結果がこれ」
「ヤンキー…だったんですか?」
「半分正解。学校では今まで通り普通の生徒。でも学校が終わればやんちゃしてた。そしたら気がついたらイジメもなくなっててね」
それから先生は昔の事を語ってくれた。親にこっそりヤンキーしてること。いじめられてた事。高校卒業したら真面目に戻るって約束で続けさせてくれた事。先生の話を聞いてたらあっという間に一時間も経っていた。
「じゃあ帰るね。こんな私が参考になるか分からないけど、どんな学校に行っても同じような事は必ず起こるから。対処法だけでも身につけておくべきよ」
そう言って先生は帰っていった。
“カッコイイ…”
“私もあんな風になりたい”
そんな思いが強くなっていった。
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