第弍話 どこからともなく問題児は現れた
新緑芽吹く爽やかな春がやってきた。
王才学院生徒会長になって半年。僕も高校三年生になった。
今日は入学式、生徒会メンバーは僕を含め全員が何かしらのスケジュールに追われている。
Trr… Trr…
こんな時に電話とは、全く空気の読めない奴。
電話の着信画面を見る。
“父上”
「はい」
画面を見た瞬間、即座に電話に出た。
「入学式の日だというのにすまない。今日帰ったら話したいことがあるからなる早で頼む」
「なる早…ですか。わかりました本日は入学式のみですし、生徒会の仕事を速やかに終わらせ帰宅します」
「わかった。なる早で、な☆」
通話が終わる。大きくため息をつく。
これが、日本一の『
「何がなる早なんですか…。これでも僕は忙しいんですよ」
そんな愚痴を溢しながらも、父上の命令は絶対。これは楯宮家の伝統みたいなものだ。そうやって父親が見本となって息子を導いていくらしい。僕はそんな親に引かれたレールを辿りたくない…と思ってはいるけど、無理だろうな…。
「せめて彼女だけは僕自身で決めてみせる‼︎」
『会長? 何をぶつぶつ言っているんですか? もうすぐ開始一時間前になります。最終リハーサルを始めますか?』
インカム越しに副会長の
「すまない。スケジュール通り始める。配置に着いてくれ」
一時間後、ついに日本で一番有名な高校の入学式が始まった。
入学式と懇親会がセットになっており、入学生及び生徒会や教師、保護者の親睦を深める。僕は率先し新入生たちや保護者と会話を行った。
「さすが会長ですね」
「あぁ…さすが楯宮グループの御曹司です」
「ちょっと星川くん、その言い方は差別ですよ?」
「あ…すみません」
副会長と書記の
無事入学懇親会も終え一息つきながら、僕達は生徒会室でパソコンと睨めっこをしていた。
「むむぅ…」
「会長って…」
「そうよ。かなりの機械音痴なの」
「意外ですよね」
生徒会メンバーがこぞって僕の機械音痴をネタに話をしている。
「口を動かす前に手を動かしてくれないか?」
少し強めの口調で注意をする。
「す、すみません…」
シーンと静まり返る生徒会室。カタカタとリズムを刻む中、一人異常に遅いリズムを刻んでいた。
「会長、本当に手伝わなくて良いんですか?」
「だ、大丈夫だ。皆は先に帰ってくれたらいいぞ」
こんな時まで見栄を張ってしまう。手伝ってもらえばあっさりと終わる量だと言うのに・・・。
三十分、一時間と時間だけが無駄に過ぎる。
進捗状況は大体六割といった所か…。早く帰らないといけないと言うのに情けない。そんな半ば諦め半分の時、生徒会室のドアがガラガラと急に空いた。
もしかして、副会長が助けに来て…?
生徒会室へ入ってきたのは、王才学院の問題児『鳳薫子』だった。髪色は地毛でもない金髪。スカートは膝上が当たり前。リボンはだらっとしており、全体的にくたっとしている。明らかにこの王才学院にそぐわない格好の女子生徒だ。
僕は話こそした事はないが、あまり良い話を聞かない。鳳財閥の一人娘だが、他校の不良グループと連んでおり、援助交際までもするって噂だ。
そんな彼女が一体この生徒会室になんの用があると言うんだ。それに、今日は生徒会以外は登校日ではない。
「ちょっと、いつまで待たせるの?」
いきなり何なんだ? 待たせる? 僕が?
「ど、どう言う事かな? 僕は君に待つようにお願いした覚えがないんだけど…」
「いや、えっと…おじさま…いや。あんた
「えぇ、そうですが…」
いや、展開が見えない。なんで、僕の名前を確認した? 彼女の目的は何なんだ。
「君のお父さんと私のお父さんって仲が良いの」
「そんな風には見えないけど…」
「実はこまめに交流する『ガチ友』らしいよ」
「へぇ…そうなんだ。って違うよね!? 何で僕が鳳さんを待たせてるのかって事何だけど!?」
「あ、そうだった」
危ない。ついうっかり彼女ペースに流されてしまうところだった。早く彼女には帰ってもらって、仕事を済ませて帰らないと…。父上が話があるって言っていたし。
「私たちのお父さんが仲が良かったから、四年前にある約束をしたみたい」
「ある約束?」
「そう。その約束が私が君を待っている理由」
「ちょっと意味がわからないな。それに僕は早くこの仕事を終わらせて帰らないといけないんだ」
彼女の返答にまともに答えることをやめた僕は、パソコンへのデータ打ちを再び始めた。
カタ…カタ…とテンポの遅いリズムで入力していく。
「そんなにその仕事を終わらせたいの? 私が手伝うよ」
彼女はそう言って、近くの椅子をずいっと引っ張り隣にちょこんと座った。
なんだこの見た目と違う小動物のような可愛らしさは…! これがギャップ萌えってやつなのか?
「ねぇ…タイピング遅くない?」
「…うっ。な、慣れてないんだよ!」
「キーボードを見て」
そう言ってグイッと体を前に突き出す。僕の横にその金髪の長い髪が近づいてくる。風がなくても分かる。シャンプーの良い匂いがする。
…はっ! これはもしかして色仕掛けか!?
「ねぇ…どこ見てるの? 目がヤバいんだけど」
「え?」
しまった…! あの楯宮グループの跡取り息子が実は女性に耐性がない童貞男だとバレてしまったか?
「はぁ…まぁいいか。それでね」
彼女はそう言って再びパソコンに目を向ける。
「ねぇ、聞いてる?」
「す、すまない! 聞いていなかった」
「マジありえないんだけど…。あのね、キーボードのこことここに両手を置いてみて」
彼女の指示通り、僕は両手をそこへ置いた。
「そうそう! 良い感じじゃん。それで、後は指全部を使って入力したいキーを押すだけだよ」
彼女の指導は的確だった。
「最初は慣れなくてやりづらいかもだけど、慣れてきたらめちゃ早くできるようになるから」
「そ、そんなものなのか?」
「そんなもんだよ。じゃあ私も手伝うからちゃちゃっとやっちゃお?」
そう言って彼女は僕の隣でパソコンを開きカタカタと入力を始めた。誰よりも早いスピードで入力していく彼女。生徒会のメンバーよりも早いリズムで入力されていく。
十分後
「はい終わったー!」
彼女は残っていた僕の仕事の九割程をたった十分ほどでやってしまった。タイピングが早いだけでこんなにも時間が短縮できるなんて…。
「凄いよ、鳳さん!」
こみ上げる感動を抑えきれずつい彼女の両手を握ってしまった。
「あ、ごめんっ!」
「だいじょーぶだよ。だってこれからは…」
「え?」
「何でもない。ほら急いでるんでしょ?」
「そうだった!」
急いで帰り支度をし、生徒会室を出た。彼女にはどれだけ感謝してもしきれない程の恩をもらってしまったな…。せめて送ろうかと思ったけど、「お花を摘んでから帰るから大丈夫」って言われてしまった。
一先ず遅くなったので父上にメッセージだけ送って家へ帰ることにした。
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