第参話 父親たちの奔走

 生徒会の仕事を終わらせ自宅へようやくたどり着いた。

 中へ入ると、母上が玄関で待っていてくれた。

 

 「ケン君、お帰りなさい」

 「ただいま、母上」

 「お父さんは客間に居るから手を洗ってからそっちへ入ってね」


 楯宮家は日本一のグループではあるが家は昔からある木造二階建てだ。そのため洗面台も玄関から近い。そして執事もいない。こんな狭い家に執事がいたら住み心地が悪くなるからだ。同級生の殆どは執事やメイドがいるらしいが…。



 客間へと向かうと、父上ともう一人、よく知っている人鳳翼おおとりつばささんがいた。


 「お久しぶりです。翼さん」

 「久しぶりだね、剣士君」

 「ケン、ここに座りなさい」


 父上に指定された場所に座る。そこで出されているお茶の数に違和感を感じた。翼さんが座っているのは父上のほぼ正面。しかし、お茶は翼さんのところとその横にもある。つまりもう一人いたってことだが…。

 ここで、学校での話を思い出す。いやでもまさか鳳さんがここにいたって証拠はどこにもないし…。


 「お父さん、戻りました」

 「おぉ、帰ったか薫子」

 「すまないな。愚息のせいで迷惑をかけたね」


 予想はできたけど、一番非現実的な予想だったため、どう反応したら良いか迷ってしまう。鳳さんが言っていた待たせてってこのことか。じゃあ父上の話があるって…? 次期社長同士仲良くさせておくとか?


 「さて、剣士君。今日は私が君に用があってこんな場を作ってもらったんだ」

 「僕に用ですか?」

 「あぁ、これはもう18年も昔の話だ…」


◇◇◇


 まだ晩秋だというのに、まるで1月のような厳しい寒さが連日続いていた。鳳財閥次期代表としてこれから活躍していく予定の鳳翼は第一子の誕生を目の前に仕事に追われていた。


 Trr…Trr…


 翼の携帯電話が鳴る。着信は鳳病院からだ。もしや、もう生まれるのか? 妻の容態も気になる…。そんな事を考えながら、仕事を片手間に電話に出る。


 「はい、鳳です」

 「翼さんですか!? 奥様が…」

 「わかりました、急いで向かいます!」


 予定より早く陣痛が来たと連絡を受け急いで病院に向かった。


 外は雪が降っており、交通渋滞を起こしていた。タクシーも電車もストップしており、走るしか手段がなかった翼は、気力があるうちに走って病院へ向かった。


 「すみません、鳳翼です。妻は!」

 「奥様はもう分別室に入っています。待合室でお待ちください」

 そう言って病院受付にたまたまいた看護師長に待合室へ案内され待つことにした。


 しばらく待っていると、翼の正面に一人の男がやってきた。


 「はぁはぁ…。待合室ってここですか?」

 「そうですね」

 外の気温はマイナスだというのに、汗だくで待合室までやってきた男。聞くところによると、この男、楯宮家に婿養子に入った楯宮将司たてみやまさしだということがわかった。そして、偶然にも今日が出産予定日だとか。偶然って凄いなと感心する翼。


 「将司さんのお子さんは息子さんですか? それとも娘さんですか?」

 「うちは息子です。翼さんのところはどちらですか?」

 「私のところは娘なんです」

 「それにしても偶然ですね、日本を代表する鳳財閥と楯宮グループの御子息が同じ日に生まれるなんて…。何かの縁でしょうか」

 「そうだ! 何の偶然か男の子と女の子ですから、将来結婚とかどうですか?」

 「はははっ。それは良いですね。うちの子は私に似たらヤンチャな娘になりそうですけど、それでもよければそうしましょうか」


 父親同士のその場の勢いで口約束をしてしまった。翼も将司もどうせ口約束だと思っていたので深くは考えなかった。


 そして時は流れ、十五年後


 「お久しぶりです、将司さん」

 「いやいや、この間も会ったばかりではないですか」

 

 政治家御用達の隠れ家的な高級料亭に二人はいた。


 「将司さん、剣士君は順調に成長しているようで羨ましいです」

 「いえいえ、まだまだ愚息の域を出ていませんよ。彼女の一人すら連れてこないのですから、困ったものです。薫子さんだって立派に成長されているじゃないですか」

 「いえ、うちのはもうダメかもしれません…」


 暗い顔で俯く翼。それを見かねて将司は昔話を始めた。


 「翼さん、覚えていますか? あの子達が生まれる日に約束したことを」

 「え? 約束って…もしかして」

 「あの時はお互い口約束でどうせ叶わないだろうと思っていたと思いますが、その約束を実行しませんか? もちろん本人たちの意思も必要ですが」

 「良いのですか?」

 「私は構いませんよ。妻も賛成してくれると思います。それに、きっと剣士は薫子さんを拒みません。むしろ好みかもしれません」

 「そんなつもりで今日会ったわけではないのですが…本当に、ありがとうございます」


 翼は娘の事で悩んでいた。このまま薫子が引きこもる事で後継者として成長してくれないかもしれないと。そんな時に将司に相談するを思いついた。

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