第四話 問題児と生徒会長
「そういう事なんだ」
あまりにも突発的なことに言葉を失う。
確かに、女性の影すらなかった僕だから、父上が心配するのは分かるが、結婚相手って…。
「剣士君、君には選ぶ権利がある。結婚の話は親同士で決めた事だからね」
「僕は…。彼女、薫子さんはそれで良いんですか?」
「私は問題ないよ」
「えぇ…」
どうやら、後は僕の同意さえあれば結婚が成立してしまうようだ。これはどうしたらいいのか。何せ僕は薫子さんのことをまだ全然知らない。何が好きなのか、どんな音楽を聴くのか、何を見て笑い何を見て泣くのかすらも…。
「わかりました。結婚については僕も了承します…が、一つ条件があります」
「なんだい?」
「結婚は高校を卒業してからで良いですか? それまでは婚約と言うことで。ただし、やはり性格の不一致などもありますから婚約破棄もありえると考えておいてください」
「なんだ、そんな事か! 私は構わないが、薫子もそれで良いよな?」
「うん」
僕と婚約・結婚すると決まっても顔色変えず、無表情の薫子さん。僕は彼女と本当にこれからやっていけるのだろうか。
でも、じっと見ていると少し頬が赤いような…。
「なら善は急げだ」
「そうだな」
急に両家の父親が立ち上がり、電話をかけ出した。
数分後、飛び出してきたのは僕らの新しい住まいと生活道具などの手配だった。
「君たちは若いのだから、私たちみたいなのがいると何かと気を使うだろう。それに、ケンがいうように性格の不一致があるといけない。だから今日から同棲しなさい。住まいは手配したから」
「私からは生活用品を手配したから一時間程で準備も含めて完了すると思うよ」
この父親たち…既に手配していたな? おそらく薫子さんも僕も了承すると見込んで手配していたに違いない。いくら天下の鳳財閥と楯宮グループといえどすぐには用意できないだろうから。
してやられた…。
一時間後
父上から新しい住まいの住所が送られてきた。学校から意外と近くの高層マンションのようだ。確か、一年前に建てられたばかりの新築マンションだったはず。建てたのは楯宮グループだから簡単に手配できたのも納得がいく。
「あの、鳳さん?」
「……薫子」
「へ?」
「私たち婚約したんでしょ? なら名前呼びが普通かなって…剣士君」
「あ、はい。薫子さん」
何だかぎこちない会話になってしまった。薫子さんは見た目こそギャルだが、僕と同じ異性への耐性が低いような気がする…。まだ一回も目を合わせてくれない。
エレベーターで24階の最上階へと辿り着く。このワンフロア全てが僕たちの家だそうだ。僕としては、もっと狭いのを希望したかったが…。
「ちょっと広すぎない? 私たちのお互いの部屋を考えても余るほど部屋数があるよ」
「確かにそうだね。ま、まぁ一先ず今日は疲れただろうから寝ようか。明日から新学期だし」
「そうね」
薫子さんはスッと部屋に入っていった。もしかして、何か怒ってる?
僕の荷物が既に部屋に入れられているだけでなく、セットされている。もしや、入学式の時から準備していたな?
この様子から見て薫子さんの方もそうなのだろう。
……おかしい。寝室が見当たらない。これだけ部屋数が多いのだから、お互いの寝室があるはずだ。でも、リビング、ダイニング、それぞれの部屋の入り口も確認し、トイレ、お風呂まで確認したが、寝室は一部屋しかない。
「ねぇ…こっち」
寝巻き姿の薫子さんが、僕を手招きする。寝巻き姿に少しドキッとした僕がいた。
薫子さんに手招かれて入った部屋には、大きなベッドが一つ。シーツも綺麗にセットされていて、枕も二つ。いわゆるダブルベッドというやつだ。
「こ、こここ、ここで寝るんですか?」
「…そうだね。そうしかないよ。これだけ広いんだから離れれば意識しなくて良いでしょ?」
「そうだけど…」
「私とじゃ…嫌?」
そんな顔で見ないで! 僕の心臓が張り裂けそうだ…。なんだこの感情は…。もしかして僕は薫子さんを好きになってしまったのでは?
翌日、目が覚めると薫子さんはいなかった。ドキドキでしばらく寝れなかったが、疲れていたのか気がついたら眠りについていたようだ。
学校へ行く準備をするために朝食を作ろうとキッチンへ向かう。
「あ、おはよう」
「…おはよう…?」
「朝出来てるよ」
薫子さんのエプロン姿。制服にエプロン姿ってそんなに破壊力あるの? 初めて見た。それよりも朝食作ってくれてる。そして僕は、一口料理を頬張る。
「…美味しい!」
「本当? 嬉しい!」
笑顔が綺麗。そんなことを言えば身内贔屓とか言われそうだけど、僕と薫子さんは昨日初めてまともに話をした仲。まだ1日しか経っていないが、クラスメイトの誰よりも薫子さんの事を理解している気がする。彼女の行動は見た目とは全く違い、気が使え、その一挙一動には、やはり鳳財閥の御令嬢だと思わせる所がある。
「あの、剣士君。私たちの関係は学校では隠しておかない?」
「なんで?」
「だって、こんな見た目の私と一緒だと、周りから何を言われるか…」
「そんな事か、大丈夫だよ。みんな良い人だから、ね?」
僕は学院のみんなを信頼している。しかし、薫子さんは何かを心配しているようだ。その後少し談笑し、僕はそのまま学校へと向かった。
昼休憩中
中庭で、騒がしいと連絡を受けた僕は急遽中庭に行くことにした。学院の生徒は皆お金持ちだというのに、野次馬になるんだなと感心してしまう。
「何? 今更〜。本当嫌みな人ね」
「髪色変えたぐらいで、私は鳳財閥の御令嬢よって顔で学校に来ないで欲しいわ」
「私はそんな事思った事…ない…です」
女子生徒三人が一人の女子生徒を捲し立てながら、順に蹴りを入れる。
我慢しているのか、蹴られても反撃しない女子生徒。
「君達、何やってるんだ!」
「会長!?」
「ん? 副会長? これは何の騒ぎなの?」
「こ、これは…。彼女が今更髪色を変えて、鳳財閥の娘アピールをしていたので少しお話を…」
「鳳財閥の…ん?」
いじめられていた女子生徒は黒髪に眼鏡をしているが、顔立ちや雰囲気から薫子さんだとわかった。
「副会長、一体何の話をしていたんだい?」
「会長には関係ありませんよ! 放っておいてください。さぁ行くわよ!」
副会長は薫子さんの腕を引きながら別の場所へ向かおうとした。
副会長に引っ張られながら、僕の横を通り過ぎる時に見えた薫子さんの顔に涙が浮かんでいたように見えた。
「ちょっと待って!」
「何ですか?」
「彼女を離して下さい」
「会長には関係ないじゃないですか。それにこの子はこの学院の問題児。排除しても問題ないでしょう?」
「…彼女は問題児なんかじゃない!」
「へ?」
僕の声に周りがざわつき始めた。
それもそのはず。薫子さんへの認識は、学院の問題児となっており、誰もが薫子さんを避けてきたのだ。そんなところに、生徒の代表でもある生徒会長の僕が、薫子さんを庇ったらどうだろう。周りは混乱するだろう。
「彼女は見た目こそ、派手なギャルだったが、今はどうだろう。規則通りの格好をしているじゃないか。彼女は元々『問題児』でも何でもなかったんだ。ただ、コミュニケーションを僕らが取らなかっただけ…」
「剣士君…」
「会長、本気で言っていますか?」
「僕はいつでも本気だよ」
「もう、知りません‼︎」
副会長は鬼の形相で取り巻きたちとどこかへ行ってしまった。
「あの…」
「薫子さん、いいんです。僕は感謝してます。本当のあなたに出会えたことに」
「私もです」
僕と薫子さんの出会いはヘンテコでも、たった一晩一緒に過ごしただけでも、運命とはこういうものだと感じた。
きっと、これからの僕たちに何かあったとしても、二人なら乗り越えられると確信している。
「薫子さん、好きです」
「私も、好きです」
僕らの歯車は回り出したばかり…。
結婚相手は学院の問題児だった Yuu @kizunanovel
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