ドつき魔法といふもの
泉 水
第1話
「彼らはドつき魔法使いだ。」
二人だけの冒険者パーティーの相方、剣士のロンがまっすぐ前を見ながら、そういった。
対し、俺は目の前の光景の方から視線を外し、言葉を続けた。
「・・・魔法使いなのは認めてもかまわん。が、あれはなんなんだ?」
貧相な小男がなにやら気合声を叫びながら、大木にローリングソバットを放っていた。
その近くでは、必死の形相で地面に拳を振り下ろす筋肉ダルマ。
さらには燃え盛るたき火の上を、足の小指をタンスの角にぶつけた時のようなゆがんだ表情で歩いてるのがいる。
何をやっているのかさっぱりわからん。
「彼らは、ドつき魔法使いの修行者で、ここはドツキ魔法使いの修行村だ。」
ロンは、ヤレヤレここまで説明的に言わねえとわかってもらえないのか、と言わんばかりにため息をついた。
ホームタウンからこの村まで来るのに約3日。何も考えずロンについてきたわけではない。説明は聞いている。
俺たちは二人パーディーだが普通に生活するため稼ぎ程度なら、特に危なげなくギルドの依頼はこなせる。しかし、より単価の高い依頼をこなすには、火力やメンバーの増強は必須。
で、ロンと俺は物理攻撃職。だからメンバーに加えるしたら魔法使いだ・・・。
と、いうことで俺は、「心当たりがある。」というロンについてきたわけだ。
「まあ、よく見てみろ。」
どこに根拠があるのかわからないが、ロンはそう言って、先ほどの連中のいる方角を見つめていた。
大木にローリングソバットを放っていた小男は、その蹴り足が大木に付くと同時に、反対方向に一直線、吹き飛んでいった。そしてボトっと地面に落ちた。
筋肉ダルマが拳を地面に突きこむ度に、その地面から土が槍のようになり、前方に伸びていった。でも重みでしなっているほど細くて、ゆらんゆらん頼りない。
たき火の上のが、その足をたき火を踏みしめるたびに、たき火の焔がゴウっと巻き上がった。だいたい半径2メートルくらい、一瞬だけ。
「よく見てみたのだが。」
俺は、小指を耳に突っ込みながらそう答えた。
「彼らはドつき魔法使いだ。」
「ほお。」
ロンは両腕を組み、冒頭のセリフを繰り返した、まっすぐ彼らを見つめながら。俺はあさっての方角を向きながら。
要するにドつき魔法使いというのは、直接対象に接触して魔法を発現させ、また強い力で接触する程(ドつきあげる程)威力があがるというものだそうだ。物理的に大木を蹴りつけて風の魔法、物理的に地面をぶん殴って土の魔法、物理的に火を踏みつけて火の魔法。彼らはそういうのを発現していたわけなのだが。
しかし、どこをみても宴会芸カテゴリーな修行者だらけ。手から噴水とか。火のついた棒クルっクルっと回してたりとか。
「なあ。」
「なんだ?」
「仮に威力があったとしてもだな、単純に物理で殴るより、効率悪くね?」
「・・・・・そうとも言えなくもないかもしれない。」
ロンが彼らを見つめる立ち姿は変わらないが、先ほどまでのドヤ的な言葉づかいが、否定の否定の否定というとっても外国語に訳しにくい状態にまで、グラングラン揺らいでいた。
普通、物理的にドつくことができるのなら、それで魔物やらを倒すよな。
元々単に魔法使いの修行者が集まっている村があるから、そこに行けばなんとかなるだろう程度の根拠しかなかったと見える。で実際来てみたら、宴会芸人の里であった。
ロンはそれからしばらく黙っていたが、何を思ったのかくるりと背を向け歩き出し、胸を張ってこう言った。
「村の宿の温泉と料理はなかなかのものと聞く。さっそく堪能しようじゃないか。」
なるほど、余興には困るまい。
ドつき魔法といふもの 泉 水 @katatsumurikan
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